しそわかめ

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一年後

「セラ夫、今日は早めに事務所に戻ってきてくださいね。」
昨日の大雨強風はどこへやら。今日は眩い青が煌めき、雲もひとつとない。最早恨めしい程の快晴である。
今日も今日とて迷い猫を探しに、さぁ街へ繰り出そうと扉を開けたところで、なぎちゃんが不意に呼び止めた。
「事務所じゃなくてゼフィロ直帰でもいいです。」
そこは任せるので連絡だけください、いつも通り。そう言いながら、猫の書類をまとめている。
「…なんかあったっけ?今日。」
「え?…まぁ、はい。」
「ふーん?、…?」
「別に忘れてるならそれで大丈夫ですよ。」
むしろ面白くなる。そう顔で語りながら、なぎちゃんがさぞ面白いというように微笑んだ。
「まぁいいや。行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」
事務所のちょっと重めの扉を押して、ちょっともやもやを抱えながら。迷子の子猫に想いを馳せた。

「…ちょっと遅くなっちゃったな。」
あれから、目的の猫はすぐに見つかった。…見つかりはしたのだか。なぜか異様に逃げられるわ、逃げた先が交通量がとても多い大通りで肝を冷やすわ、あーだ、こーだ。
そんなんでいつもより少し心をすり減らし、無事猫を依頼先に届け、今に至る。
既に日は傾いて、橙色の先に濃紺が顔を覗かせていた。
これは、ちょっとだけ怒られそう。
怒るというか、心配をかけるというか。3人して心配だ、という顔を惜しげも無く体現して、こちらが顔を覗かせた瞬間にぱぁっと安心した!!と顔に出るのだ。少しだけ、なけなしの良心が痛んだり、痛まなかったり。
そんなこんなで、とても遠い道のりに感じた帰路を抜け、見慣れたゼフィロの扉の前に立った。明かりもついているし、何やら騒がしい気配もする。…帰ってきたなぁ、なんて。

「…たーだいまぁ〜」
声と共に、ぱぁぁん!!!と軽い、火薬の音。その音が余りに軽いから、特段身構えることもせずに音の発生源を目で探る。
…奏斗、ひば。それからなぎちゃんの手元。
それは拳銃でもなんでもなく、ごく普通の、市販のクラッカー。
「…なに?おめでたい日?」
その呟きに被せるように、3人の笑い声が響きわたる。
「ははは、何って!」
「ねぇ、アキラ!!」
「ふふ、ほんとに、、ねぇ」

「「「誕生日、おめでとう!」」」

『今日の主役』の襷と、謎のパーティサングラスと、テーブルいっぱいのご飯と。
「そういや、そうだなぁ。」
そういや今日は、5月の某日。久しく祝われることなんてなかった、それ故にほとんど意識していなかった、自身の誕生日。
「ほら!なにぼーっとしてんですか!」
「もうお腹すいてんのぉ!お前が帰ってこないから!!」
「はよ食べるかー!ほら、セラお!!」
「へへ、…うん。食べるかぁ!」
これからまた1年。vltでの、日々が始まる。

また来年もこんな時間が流れればいいなぁ、なんて思いながら、促されるままに席についた。

Happybirthday. 5.12.

5/9/2024, 8:23:39 AM