しそわかめ

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明日世界が終わるなら

教室の窓側、最後列。所謂勝ちポジなるその位置で、奏斗は頬杖をつきながら窓の外を眺めていた。
今日も今日とて、眩しいほどの晴天。いつの間にやら常連になった眩しい青を背負いながら、世界は暑さに揺蕩っている。これが俗に言う蜃気楼と言うやつかな、なんて雑に思考に耽りながら、校庭で一際目立つビビットピンクを目で追っていた。まぁぴょんぴょんと元気なこって、先程の神妙な顔が嘘のようだ。はっきりとは見えないが、きっと今もあの人懐こい笑みを惜しみなく体現しているのだろう。

『明日世界が終わったら、どうする?』
そう、神妙な面持ちで呟いていたのがほんの数分前の彼だと、一体誰が想像できるだろうか。隣のクラスのバスケ部員に連れて行かれる直前、赤点の小テストを眺めながら、まるでそこにある問題文を読み上げるような自然さで。
『明日終わるにしろ、その赤点は変わんないだろ。』
『だよなぁ〜。…奏斗、ここ何?』
egoisuta、利己主義者。この物語の主人公は、これのお陰で破滅に突き進んでいく。自分を信じ、他人を蹴落とし、全ては利益があるか否か。そうやって、やがてひとりぼっちになった。
次はarrogance。慢心。慢心とポジティブは紙一重。緊張しているからと言って、なにも不安がないように振る舞うのは偏に慢心では無い。そんなことを、誰かが言っていたっけ。
『僕は多分、死に急ぐかな。』
何もかもが終わる瞬間なんて、きっと恐ろしくて耐えられない。ならいっそ、自分の命にさえ自分で引き金を引いてしまいたい。
『それはさせんからなぁ。別の考えといて。』
その言葉と、中途半端な赤点の小テストを置き去りに、彼は校庭に消えていった。バスケットボールを担いで。

校庭の雲雀と目が合う。ニカッと笑って、ぶんぶんと大きく腕ごと降って。奏斗〜!って声が今にも聞こえてきそうだ。
思わず笑って、小さく手を振り返す。そういや、放課後にバンド練があるとか言ってたな。ちょっとイタズラしに行こうか。

5/6/2024, 5:01:08 PM