秋恋
「春は出会いの季節だから恋の季節って言うじゃん?夏は花火とかお祭りとかそういうワイワイ感ある浮き足立つ恋の季節じゃん?冬なんてクリスマスあるし人肌恋しい時期なんだから一番恋の季節じゃん?
でさ、そう考えたら、秋だけ何もない一番安心できる季節だなーって思ってたんだけどさ。まさか相手がいない人同士でクリスマス遊ぼって言ってた計画が白紙になるぐらいみんな一気に付き合い出したじゃん?あれ、本当になに?いいもん。ハロウィンで小悪魔の格好して一人でカボチャ系のスイーツ頬張るし。それでその格好インスタにあげてやるからマジで誰か声かけてこいよ。こんなかわいい女一人にすんなよ!クリスマスまでには人並みに恋愛させてよ!……なんていう人が増えるから秋は恋の季節って知ってた?」
「知らない。てかそれが本当ならクリスマスのある冬に向けた行動ってことでしょ。他の季節から準備始めるくらいだから、やっぱり冬が一番恋の季節じゃん。」
「いや、春の方が…」
「や、やっぱり夏もさ…」
やはりディベートは若干劣勢だ。
愛する、それ故に
愛する、それ故に。あまりにも下手な嘘さえ、信じたくなる。
静寂の中心で
早朝は音も無く、とても静か。明るくなりきらない外は雨も降らずにただ暗いだけ。まだきっと草木も鳥も眠っている頃だろう。ふと目を開けると、左隣にはいたはずの人がいない。思考が働かない脳をそのままに上半身だけ起こす。都会のど真ん中の高層マンション。きっとこの周りには相当な数の人がいるはずなのに、ここまで静かなのはまだ人間が活動する時間では無いからだ。ぼーっと虚空を眺めていると、音も無くドアが開いた。
こちらが起きていることに少し驚いた顔を見せたその人は、吸い込まれるように自分の左隣に落ち着き、優しく頭を撫でてくる。会話は無くとも、まだ寝てて良いからという彼なりの優しさだろう。顔を寄せ、額をつける。甘えるようなその自分の仕草に彼は柔く笑う。おはようもおやすみも無い。ただいまもいってきますも無い。ただ、好きがあるだけ。それだけで彼はここに帰ってくるし、自分もここに帰ってくる。その好きが無くならないように、まだ残っているかを確認しながら今日も肩を寄せる。静寂の中心で、確かにあるはずのものを何度も分かち合いながら、朝が始まる。
燃える葉
小学校四年生の時、林間学校で落ち葉を燃やしてさつまいもを焼いた。熱を持ったアルミホイルから取り出したそれはとてもおいしくて、すぐにペロリと平らげた。すると隣に座っていたその子だけはさつまいもに手をつけず、じっとこちらを見ていた。食べ終わってほくほくした顔の自分と目が合う。いる?と差し出されて迷わずいいの?!と貰う。遠慮なんて知らずにがぶがぶとおいもを食しているとその子が笑った。訳もわからず自分も笑い、そこからキャンプファイヤーが始まってみんなで輪になって手を繋ぐ。その子の手は自分の手と違って冷たかった。やっぱり食べて良かったのかななんて今更不安になってその子の顔を覗き込むと、いも嫌いだから食べてくれてありがとうとそれは爽やかに微笑まれた。多分、それが初恋。
「でさ、その時のあの顔にやられたの!」
「なあもっとマシなタイミング無いわけ?もっと早くからアプローチしてたんだけど?」
そう不満気に声を出す彼の左手には度数の弱いお酒、右手にはおつまみの芋けんぴ。あ、別においも嫌いじゃないんじゃん。そう気づいてしまえば、アルコールのせいで赤くなっていた自分の顔により熱が籠ったような気がした。今年も葉が燃える季節がやって来た。あの頃と一つだけ違うのは、繋いだ手の熱さが彼も同じということだけ。
moonlight
「ねぇ、お団子買おうよ。」
「いいけどなんで?」
日曜日はスーパーに行く日。別にそういうルールって決めたわけじゃないけど、平日は二人とも忙しいし、金曜の仕事終わりに行けばいいっちゃいいけど、二人とも疲れ過ぎてて即家帰って寝る生活が続いていたから自然と日曜に行ってまとめ買いすることが増えていた。甘いものは二人ともそんな好んで食べる方ではないけど、お団子はまぁ嫌いではない。けどまさか食べたいだなんて言い出すとは思わなかった。
「明日中秋の名月だよ。」
「…あー、お月見ね。忘れてたわ。」
少し反応が遅れたが、なんとか頭の変換機能をフル活用させて正しい答えを弾き出せた。そう、この人の生活能力の無い普段の自堕落な生活を見ていたら、自分の方がしっかりしていると思ってしまっていた。しかし、学力やら地頭の良さやらで言ったら到底敵わないのだ。こういうふとした瞬間にそれを痛感させられて辛い。あー、俺も頑張らなきゃなって思う。だけど、全く違う学生生活を送ってきただろうけど、今の自分だからこそこの人に会えたと思うと嬉しい。
「…あーつかれた」
掠れた声はひとりでに出て、あぁまだあの人が来てなくてよかったと思った。
「お待たせ。」
いつもの綺麗な顔に少しだけ疲労の表情を浮かべたその人と合流して家までの道を歩く。何気ない言葉を一つ二つと交わしながら、ほとんど無言だけど心地良い。もうすぐマンションに着くと言ったところで、ふと横の人がつぶやいた。
「見て。お月様綺麗だよ。」
「あー、ほんとだ。」
月でか。いつもあんなでかいっけ?これも中秋の名月ならではなんかな。まぁ深くは知らないけど綺麗。
「…よし。ごはんパパッと食べて早くお月様見ながらお団子食べよ。」
普段は見向きもしない月を愛でて、ここぞとばかりに月見団子と銘打って和菓子を売り出し、日本人も勝手だよなぁと思う。ただ、この終わりの見えない繰り返しの毎日で、大好きな人と隣り合って団子を頬張りながら見上げる静かな月は、悪くない。