もんぷ

Open App

静寂の中心で

 早朝は音も無く、とても静か。明るくなりきらない外は雨も降らずにただ暗いだけ。まだきっと草木も鳥も眠っている頃だろう。ふと目を開けると、左隣にはいたはずの人がいない。思考が働かない脳をそのままに上半身だけ起こす。都会のど真ん中の高層マンション。きっとこの周りには相当な数の人がいるはずなのに、ここまで静かなのはまだ人間が活動する時間では無いからだ。ぼーっと虚空を眺めていると、音も無くドアが開いた。

 こちらが起きていることに少し驚いた顔を見せたその人は、吸い込まれるように自分の左隣に落ち着き、優しく頭を撫でてくる。会話は無くとも、まだ寝てて良いからという彼なりの優しさだろう。顔を寄せ、額をつける。甘えるようなその自分の仕草に彼は柔く笑う。おはようもおやすみも無い。ただいまもいってきますも無い。ただ、好きがあるだけ。それだけで彼はここに帰ってくるし、自分もここに帰ってくる。その好きが無くならないように、まだ残っているかを確認しながら今日も肩を寄せる。静寂の中心で、確かにあるはずのものを何度も分かち合いながら、朝が始まる。

10/8/2025, 7:53:44 AM