moonlight
「ねぇ、お団子買おうよ。」
「いいけどなんで?」
日曜日はスーパーに行く日。別にそういうルールって決めたわけじゃないけど、平日は二人とも忙しいし、金曜の仕事終わりに行けばいいっちゃいいけど、二人とも疲れ過ぎてて即家帰って寝る生活が続いていたから自然と日曜に行ってまとめ買いすることが増えていた。甘いものは二人ともそんな好んで食べる方ではないけど、お団子はまぁ嫌いではない。けどまさか食べたいだなんて言い出すとは思わなかった。
「明日中秋の名月だよ。」
「…あー、お月見ね。忘れてたわ。」
少し反応が遅れたが、なんとか頭の変換機能をフル活用させて正しい答えを弾き出せた。そう、この人の生活能力の無い普段の自堕落な生活を見ていたら、自分の方がしっかりしていると思ってしまっていた。しかし、学力やら地頭の良さやらで言ったら到底敵わないのだ。こういうふとした瞬間にそれを痛感させられて辛い。あー、俺も頑張らなきゃなって思う。だけど、全く違う学生生活を送ってきただろうけど、今の自分だからこそこの人に会えたと思うと嬉しい。
「…あーつかれた」
掠れた声はひとりでに出て、あぁまだあの人が来てなくてよかったと思った。
「お待たせ。」
いつもの綺麗な顔に少しだけ疲労の表情を浮かべたその人と合流して家までの道を歩く。何気ない言葉を一つ二つと交わしながら、ほとんど無言だけど心地良い。もうすぐマンションに着くと言ったところで、ふと横の人がつぶやいた。
「見て。お月様綺麗だよ。」
「あー、ほんとだ。」
月でか。いつもあんなでかいっけ?これも中秋の名月ならではなんかな。まぁ深くは知らないけど綺麗。
「…よし。ごはんパパッと食べて早くお月様見ながらお団子食べよ。」
普段は見向きもしない月を愛でて、ここぞとばかりに月見団子と銘打って和菓子を売り出し、日本人も勝手だよなぁと思う。ただ、この終わりの見えない繰り返しの毎日で、大好きな人と隣り合って団子を頬張りながら見上げる静かな月は、悪くない。
10/6/2025, 9:42:37 AM