モノクロ
永遠なんて、ないけれど。この世界に少しだけ色を足してくれるあの子の存在がいつか無くなって色を無くしてしまうなんてことは想像したことなかったな。モノクロの世界には夜しか来ない。一人で過ごせない夜をなんとか紛らわせて、迎えたよく知るはずの朝日は知らない顔をしていた。
普段は甘党のくせに朝のコーヒーだけはブラックが良いとせっせと豆を挽くその姿を眺めていた日も、ちょっと体を引き締めたいと午前中から連れ出されたあの日も、大音量の目覚ましに起きないくせになんで起こしてくれなかったのと八つ当たりしてきた日も、ちょっとおしゃれなモーニングに行こうと誘えばしっかり早く起きてきたあの日も。当たり前に朝日はそこにあって優しく照らしてくれていたはずだったのに。
涙の理由
よく泣く人ではあったから、なんで泣いてるのって笑いながら茶化すことはしても、その理由を本気で問うことはしなかった。中学の時も高校の時もクラスが離れたというだけで今生の別れのほど泣いてくれたり、自分が失恋した時は今までにないほど泣きながら怒ってくれた。自分が泣きそうな時にはその人の涙が埋め尽くしてくれて、いつのまにか悲しい気持ちは消えて笑わせてくれる。本当に優しい人。その涙に何度も救われて乗り越えられたことがある。
自分が家族のことで悩んでいて家に帰れずに泊めてもらった時も、就職でうまくいかずに飲み明かした時も、何事もうまくいかないと嘆いて深夜に電話をかけた時も。全てを受け止めて自分の代わりに泣いてくれて、あぁこんなに自分に寄り添ってくれる人がいるならなんかもういいやって思えた。
だから、少し困惑したのだ。その人の涙の理由は自分の涙の理由であって、全てを分かち合っていると思っていたのに、急にその人が泣き出したから。でもそこでやっと気づいた。自分が関係していないその人自身の涙を知らないことを。きっと自分のように些細なことで悩み、人知れず涙を流すことだってあったはず。自分が代わりに流してあげることができなかった涙を一人で請け負っていた夜があったのかもしれない。自分はその理由を知らず、これからも知れずにいるかもしれない。
でも、やっと気づいた。長年の想いを伝えてくれたその人はずっと泣きそうで、それでも堪えてまっすぐに伝えてくれた。その涙を分け合うのは自分でありたい。自分が代わりに泣いてあげて、なんでそっちがそんなに泣くのと笑わせてあげたいから、その人の誘いに泣きながら頷いた。
パラレルワールド
なつがおわってしまって
なんかさみしくなって
またなつがくるって
がんばってすごしてみたけれど
りこうなかれはすがたをけした
時計の針が重なって
私はガラスの靴を与えられるようなプリンセスでは無いから、時計の針が重なる度に徐々に魔法は解けていく。徐々に、徐々に、時間が進むごとに綺麗ではなくなって、鐘がなる頃には誰も見向きもしない私に戻る。朝にはあんなに丁寧に魔法をかけたはずなのにな…とは言っても、私ごときが魔法をかけても寄ってくるのは、絵本から飛び出したような王子様ではなく、下心が透けて見えた碌な人では無いのだけれど。
それでも、いつかはその鐘を鳴らす誰かのプリンセスになりたかったのだけれど。豪華なドレスも綺麗なメイクも全て取っ払った私を愛してくれるような人はいなかった。惰性だけでも一緒に過ごしていた彼は、やはり私のお金やら体やらが目当てだったらしく、他に良い子が見つかったらしくあっさりと手放されてしまった。あぁ、今すぐ魔女が現れて舞踏会に行くことにならないか、なんて考えていてもここはファンタジーの世界ではなくて紛れもない現実で。自分のことが大好きな王子様が現れることを夢見ていい年もとうに過ぎてしまったから、仕方なく明日の仕事について考えながら目を閉じる。時計の針が重なる音がした。
僕と一緒に
ぼ、僕と一緒に…なんて自信無さげに言い出す彼を見て自然とため息が出る。案の定、私のため息に過剰に反応して肩を落とした。なんで自信無さげなのよ。もっと男らしく誘いなさいよ!
にしても、この草食というより何も食べられなかった植物みたいな男が、ここまで勇気を出せるほど成長したということは分かる。その努力だけは買ってあげるわ。だから次はもっとスマートに言いなさいよ!ばか!
はぁ、いつまで待ってあげたらいいんだか。待ちくたびれすぎておばあちゃんになっちゃうわよ!あんたが言いたいっつってんだからこっちは待ってんのよ!結婚しようぐらいさっさと言いなさい!ていうか、むしろおばあちゃんになるぐらい一緒にいるなら言われなくても結婚してるようなもんじゃない!
……それはそれで素敵ね、なんて思ってないんだから!!