もんぷ

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時計の針が重なって

 私はガラスの靴を与えられるようなプリンセスでは無いから、時計の針が重なる度に徐々に魔法は解けていく。徐々に、徐々に、時間が進むごとに綺麗ではなくなって、鐘がなる頃には誰も見向きもしない私に戻る。朝にはあんなに丁寧に魔法をかけたはずなのにな…とは言っても、私ごときが魔法をかけても寄ってくるのは、絵本から飛び出したような王子様ではなく、下心が透けて見えた碌な人では無いのだけれど。

 それでも、いつかはその鐘を鳴らす誰かのプリンセスになりたかったのだけれど。豪華なドレスも綺麗なメイクも全て取っ払った私を愛してくれるような人はいなかった。惰性だけでも一緒に過ごしていた彼は、やはり私のお金やら体やらが目当てだったらしく、他に良い子が見つかったらしくあっさりと手放されてしまった。あぁ、今すぐ魔女が現れて舞踏会に行くことにならないか、なんて考えていてもここはファンタジーの世界ではなくて紛れもない現実で。自分のことが大好きな王子様が現れることを夢見ていい年もとうに過ぎてしまったから、仕方なく明日の仕事について考えながら目を閉じる。時計の針が重なる音がした。

9/24/2025, 10:39:20 AM