もんぷ

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涙の理由

 よく泣く人ではあったから、なんで泣いてるのって笑いながら茶化すことはしても、その理由を本気で問うことはしなかった。中学の時も高校の時もクラスが離れたというだけで今生の別れのほど泣いてくれたり、自分が失恋した時は今までにないほど泣きながら怒ってくれた。自分が泣きそうな時にはその人の涙が埋め尽くしてくれて、いつのまにか悲しい気持ちは消えて笑わせてくれる。本当に優しい人。その涙に何度も救われて乗り越えられたことがある。

 自分が家族のことで悩んでいて家に帰れずに泊めてもらった時も、就職でうまくいかずに飲み明かした時も、何事もうまくいかないと嘆いて深夜に電話をかけた時も。全てを受け止めて自分の代わりに泣いてくれて、あぁこんなに自分に寄り添ってくれる人がいるならなんかもういいやって思えた。

 だから、少し困惑したのだ。その人の涙の理由は自分の涙の理由であって、全てを分かち合っていると思っていたのに、急にその人が泣き出したから。でもそこでやっと気づいた。自分が関係していないその人自身の涙を知らないことを。きっと自分のように些細なことで悩み、人知れず涙を流すことだってあったはず。自分が代わりに流してあげることができなかった涙を一人で請け負っていた夜があったのかもしれない。自分はその理由を知らず、これからも知れずにいるかもしれない。

 でも、やっと気づいた。長年の想いを伝えてくれたその人はずっと泣きそうで、それでも堪えてまっすぐに伝えてくれた。その涙を分け合うのは自分でありたい。自分が代わりに泣いてあげて、なんでそっちがそんなに泣くのと笑わせてあげたいから、その人の誘いに泣きながら頷いた。

9/28/2025, 2:35:32 AM