もんぷ

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4/18/2025, 9:49:38 AM

静かな情熱

 これだけは誰にも負けない。でもそれを声を大にして言う気はさらさらない。この静かな情熱は自分の中にあるだけで良い。静かだからって存在していない訳ではないから。いつも静かに私の心の大部分を占めていてひっそりと燃えているだけで良い。火事だと大事になってその火が燃やされないようにひっそりと。そしたらいつか取り返しのつかないくらい大きな輪に広がって私の心をそれだけで燃やし尽くす。それをずっと待ち望んでいる。

4/17/2025, 10:29:58 AM

遠くの声

 遠くの声が私の耳を掠めた頃、突然降ってきたボールが弧を描いて私の視界を黄色で埋め尽くした。ドッヂボールなら完全に顔面セーフと判定されるようなクリティカルヒット。ただ一つの救いはドッヂボールやバレーボールよりやややわらかめの素材だったことだろうか。すぐに謝りに来た上級生の男子になんともないように笑顔を作ってその場を去り、トイレへ駆け込んだ。鼻血はでていないようで少しだけ鼻の先が赤くなっていることくらいは普通の顔だった。小学校低学年にしては衝撃的な出来事に対する対応が大人すぎて自分でもびっくりだ。当時の母の日記に担任から電話で伝えられたそのことが詳細に書いてあってそういえばそんなこともあったなと思い出した。母は「もっと泣いても良かったのに。大人すぎて怖い」とコメントしていたが全く同感だ。幼少期からこんなのだから今でも無理に大人ぶって変なことをしでかすのだろう。少し改めようと思った。

4/16/2025, 6:51:04 AM

春恋

 春はみんな浮かれてるから恋しがち。気持ちが浮ついているから、今までに会ったことのない人の新鮮さとときめきを履き違えているだけなのだ。普通は桜が散る頃にそんな勘違いに気づくものだが、どうにも覚めない人がいた。一目惚れだと気持ちを伝えてくれたのは嬉しいが、自分にそんな出来事が起こるなんてどうしても信じられない。何かの罰ゲームか、ひどい勘違いか、何か自分の資産とか個人情報とかが狙われているのか。ひどい想像ばかりで頭が混乱しそうだが、兎に角本気でそんなことが起こるはずがないのだ。客観的に見てもイケメンとは言えない自分の容姿は生まれてから何十年鏡と向き合ってきたから分かる。命を救うだとか何かこの子のピンチを助けたとかならそれもわかる。ただそれもないのだ。新学期、自分がただぼやっと廊下を歩いていたら新入生らしき女の子に一目惚れだから付き合ってほしいと言われた。そんなわけあるわけない。何がどうしてそんなことを口走っているのか本当にわからない。そして今日もその子に付き纏われている。
「先生、前の件考えてくれました?」
「無理だって。どう考えてもおかしいし、そんなのありえないから。」
「えー!じゃあ卒業したら考えてくれます?」
「卒業って…入学したばっかりでしょ。いくら女子校で男子がいないからっておかしいから。」
「えーーーー」

4/15/2025, 10:16:39 AM

未来図

 無意識に描いていた未来図には当たり前のように君の姿があって、見据えていた未来ではニコニコと私が作ったパンケーキを頬張る君の姿があった。本当に当たり前だと思っていたのに、これが壊れる未来なんて予想だにしなかった。それでも、君が私のもとを離れるのなら笑って送り出さなきゃいけない。またなんてなくてもまたね、ありがとうねと笑ってみせなければならない。それが恋人としての最後の仕事。

4/13/2025, 10:36:44 AM

ひとひら

 ひとひらの桜の花びらが自分の手の甲をすっと撫でた。
「桜ももう終わるね。」
はやとの優しい声にうんと小さく返事をして上を見上げる。いつのまにか咲いて、いつのまにか散っている桜を見るのは人生で17度目のこと。最初の方の記憶なんてほとんど無いけど、とにかく桜は好きだ。
「だいちゃん進路の紙出した?」
「ううん、まだ。」
「おれも。あと二年あるし大学どこ行きたいなんて三年になってからでいいよなー。」
「わかる。ほんとそう。」
何気ない会話を口にしながら桜ばかり続く道を歩く。新学期が始まって、二人とも同じ二組で喜んだりして、同じ道を帰る。こんな日々がずっと続けば良い。幼稚園の頃から一緒でこの年までクラスも同じ。でも大学、就職…となればこれからもずっと一緒になんていられない。大人になんてなりたくない。この大好きな親友と過ごす青春を終わらせたくない。

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