もんぷ

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3/12/2025, 10:05:27 AM

終わり、また初まる
 終わり、また初まる

3/11/2025, 10:13:21 AM



 夜に見える星を模写して何の星座が見えたかを学ぶ理科の宿題。みんながこれが北極星で、それって夏の大三角形じゃない?みたいに笑う中、自分は先生に説教を受けていた。
「あのね、中澤くん。これはね、自分で見て描くっていう経験が大事な宿題なの。他の子のを見て写しても意味がないの。」
「…はい。」
今日学校に来るまでこのプリントが真っ白だったのは訳がある。夜は暗いから1人で出かけないで親御さんについてきてもらってねという先生からの注意を守りたかったから。でも、お母さんは夜に働きに出るし、お父さんは星そのものだから。星を見に行きたくても見に行けなくて、家の窓からは星が見えなくて、お母さんが帰ってくるのを待ってたら寝ちゃった。だから家族みんなで星を見にいったなべちゃんの綺麗な絵を写させてもらっていた。宿題のために大きな望遠鏡を買ってもらった話や、星ばかり載った分厚い図鑑が家にあるという話を聞きながら北斗七星を描いていた時、ちょうど先生に見つかって怒られているという訳だ。ああ、怒られちゃった。お母さんに告げ口されないといいな。宿題を忘れたかった訳でも1人だけ怒られて悲しくなりたかった訳でもないのに。自分で見て描くのが大事だなんて分かってる。やっと解放された後、じわりと滲んだ涙を飲み込んで何事もなかったかのようにみんなの星の絵を眺めていた。

3/10/2025, 12:28:04 PM

願いが1つ叶うならば

 もし、願いが1つ叶うならば、私は何を願うだろう。そう考えた時にふと彼女のことが頭に浮かんだ。たまたま同じアイドルオーディションで出会った私達。年齢と性別ぐらいしか共通項が無いし、学生時代に同じクラスだったとしても全く話さなかったようなタイプ。こんな出会い方じゃないときっとこんなに会話を交わさなかっただろうし、家族よりも生活を共にすることも無かっただろう。
 そんな彼女に好きな人ができたと知らされたのは3ヶ月ほど前のこと。私はアイドルという職業上、その感情は褒められたものではないと彼女に言葉をかけた。そんなの彼女自身分かりきっていることなのに、彼女がどんな言葉が欲しかったのか、どんな言葉を期待していたのかも考えずにただ一方的に否定した。彼女がいつかアイドルとしてマイクを置いても、幸せそうに白いドレスに包まれた日が来ても、きっとずっと一緒にいられると思っていた。ひどい仕事の愚痴がいつしか旦那や子どもの話に変わっても、SNSや美容の話題がいつしか健康の話題に変わってもずっと。いることが当たり前で、いない未来なんて想像できないぐらいに生活に溶け込んでいた彼女が、グループを脱退すると発表されてから2ヶ月が経った。毎日していた会話が減って、LINEの一番上に固定された彼女とのトーク画面も最後の会話は2ヶ月前の日付が表示されていた。
 卒業公演、綺麗なメンバーカラーのドレスを身に纏ってティアラなんてつけた彼女を見て、こんなやつなんかに泣いてたまるかと堪えていた涙が一気に溢れ出してしまった。どれだけ拭いても止まらなくて嗚咽するほど泣いてしまった。そんな私に彼女は優しく笑って抱きしめた。
「…結婚式じゃないんだから。」
「…じゃ、あ…ほんと、の…結婚式、にも…呼びなさいよ…?」
嗚咽で聞こえづらい私の声に彼女は当たり前じゃんと言いながら私を抱きしめた。もしも願いが1つ叶うならば、彼女が幸せになっていく姿を一番の友達として見られますようにと願おう。

3/9/2025, 1:30:09 PM

嗚呼

 先人が歩いて固めた茶色の土を踏みしめる。大通りを抜けて竹藪ばかり並ぶ山道をずっと歩いた先には特に建物は無い。そんなことはとうに分かりきっているが、雪がしとしとと頬を撫でる中でもこうやって歩いている。桜の木の下、小さな君の待つ場所へと。桜なら村にも普通に咲いていのに、君はなぜか山の上の小さな桜が好きだったから待ち合わせは大体この場所だった。幼い頃の自分にとっては中々に険しい山道なのに、君が待っていると思うとそれだけで足の痛みも吹き飛んでしまうのだから、恋とは本当にすごいものだ。この場所には本当に思い出が詰まっている。習っている剣道で村で一番強い相手に勝てたと自慢したのも、初めて手を繋いだのも、近くに咲いていた花の話を君が嬉しそうに話していたのも、二人して夕日が落ちるのをぼうっと眺めていたのも、この場所。
 そして、花を愛でる君を思って、家の二つ隣に住む剣道を教えてもらっている三郎おじさんのとこの花畑のとこから白い花を三本摘んで持っていったあの日。いつもは温厚な君が花を盗んだことをきつく責め立てたので驚いた。ただ自分は君の喜ぶ顔が見たかっただけなのに。そりゃあ、勝手に花を摘んだのは悪かったと思ってるけど、自分と三郎おじさんの関係性ではそこまで怒られないと分かっていたから行動に移したのに。それに君があの花が綺麗と言ったのをずっと覚えていたからわざわざとってきたのに。そんな自分勝手な思いが心を蝕んで怒りが湧き、もう帰る、さよならと雑に別れを告げて山を降りていた時のこと。遠くの方で君の叫び声が聞こえた気がして振り返った。戻ろうと山を登るうちに嫌な汗がじわじわと出てきて足が震えた。父から聞いていた隣の村の山賊の噂。女子供関係なく斬り、自分の強さを誇示する野蛮な輩。見つけたら必ず走って逃げろと聞いていたが、自分は何せ村一番の剣の使い手、そんな奴なんて一発だと思っていた。それなのに、怖くなって、怖くなって、終いには足が動かなくなった。桜の木の下で君が倒れているのを想像して、息をするのが辛くなってその場にへたり込んだ。その後どうなったかはあまり記憶に無くて、次の日、三郎おじさんが、君に供えるために花を摘んだと勘違いして偉いなと頭を撫でられたことだけ覚えている。
 久しぶりにこの場所に着いた。君はいない。きっといるんだろうけど、いない。三郎爺さんに分けてもらった種を植えて育てたこの白い花の花束をそっと木の下に置く。君の年齢が止まった後も自分は歳を重ねた。もう自分は結婚できる年齢になって、一人前だと認められたのに、君が年を重ねないせいで結婚できないじゃないか。嗚呼、君。愛しい君。眉が八の字に下がる優しい笑顔をする君。もうその笑顔を瞳に映すことはできなくとも、目を閉じればずっと君はその笑顔をしているよ。最後の日に笑顔にしてやれなくてごめんな。自分が悪かった。嗚呼、君が花をずっと愛していたように、自分も君をずっと愛しているよ。

3/8/2025, 1:03:20 PM

秘密の場所

 ベッドの下、鍵のかかった勉強机の引き出し、本棚の奥のもう一列、押し入れの奥の箱の中、写真アプリの非表示フォルダ、適当な名前をつけたパソコンのファイルの中、非公開アカウントのフォローリスト、TikTokのいいね欄。君がうまく隠せていると思っているもの、人に知られたくない君の趣味嗜好がつまった秘密の場所、私は全部知ってるよ……





「なんて言われたら怖くない?」
「うん、怖い。」
「…ふーん、じゃあ今言った中にやましいことがあるんだ。」
「えっ、ずるくない?そりゃ今の流れは言うでしょ。」
「ずるくない。じゃあ、まず写真アプリから見せて。」

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