もんぷ

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願いが1つ叶うならば

 もし、願いが1つ叶うならば、私は何を願うだろう。そう考えた時にふと彼女のことが頭に浮かんだ。たまたま同じアイドルオーディションで出会った私達。年齢と性別ぐらいしか共通項が無いし、学生時代に同じクラスだったとしても全く話さなかったようなタイプ。こんな出会い方じゃないときっとこんなに会話を交わさなかっただろうし、家族よりも生活を共にすることも無かっただろう。
 そんな彼女に好きな人ができたと知らされたのは3ヶ月ほど前のこと。私はアイドルという職業上、その感情は褒められたものではないと彼女に言葉をかけた。そんなの彼女自身分かりきっていることなのに、彼女がどんな言葉が欲しかったのか、どんな言葉を期待していたのかも考えずにただ一方的に否定した。彼女がいつかアイドルとしてマイクを置いても、幸せそうに白いドレスに包まれた日が来ても、きっとずっと一緒にいられると思っていた。ひどい仕事の愚痴がいつしか旦那や子どもの話に変わっても、SNSや美容の話題がいつしか健康の話題に変わってもずっと。いることが当たり前で、いない未来なんて想像できないぐらいに生活に溶け込んでいた彼女が、グループを脱退すると発表されてから2ヶ月が経った。毎日していた会話が減って、LINEの一番上に固定された彼女とのトーク画面も最後の会話は2ヶ月前の日付が表示されていた。
 卒業公演、綺麗なメンバーカラーのドレスを身に纏ってティアラなんてつけた彼女を見て、こんなやつなんかに泣いてたまるかと堪えていた涙が一気に溢れ出してしまった。どれだけ拭いても止まらなくて嗚咽するほど泣いてしまった。そんな私に彼女は優しく笑って抱きしめた。
「…結婚式じゃないんだから。」
「…じゃ、あ…ほんと、の…結婚式、にも…呼びなさいよ…?」
嗚咽で聞こえづらい私の声に彼女は当たり前じゃんと言いながら私を抱きしめた。もしも願いが1つ叶うならば、彼女が幸せになっていく姿を一番の友達として見られますようにと願おう。

3/10/2025, 12:28:04 PM