Werewolf

Open App
3/26/2023, 5:14:00 PM

【ないものねだり】BL

「しかし意外でした、Kaedeさんとカルノ選手がご友人というのは」
「ええ、よく言われます。僕にとっては得難い友人で、今でもプライベートでよく会ってますよ」
 Kaedeは屈託のない笑顔で司会者に応えている。カルノと呼ばれた覆面レスラーは、日頃着ることのないスーツ姿で緊張していた。人前に出ること自体には然程抵抗も緊張もないが、自分の言動次第で人気アイドルグループ“Euphoria”のKaedeの株を落としかねない。
 バラエティ番組の、バトン式のインタビューコーナー。前回のゲストがKaedeを指名したらしい。ゲストは必ず一人誰かを連れてきて、その誰かと会話することが望まれる。例えば前からファンだった相手や、話してみたかったという人物、或いはジャンルを越えた知人だったり、家族を連れてきたりと、ゲストの連れてくる相手の内容は問われない。ただ、極力同じグループやチームの人間ではないほうが良いとはされるらしい。
 だからって、アイドルが覆面レスラーを選ぶなんて、とカルノは依頼された時には頭を抱えた。
「カルノ選手はKaedeさんとの出会いを憶えていらっしゃいますか?」
「えー、あ、そうですね」
 ちら、とKaedeを窺う。あ、懐かしい話? と相槌を打つ目は優しい。だが、どこか濁ったものが見えた。多分本当のことを話してはいけないんだろうと察して、カルノは半分だけ本当のことを話すことにした。
「中学に入学してすぐ、同じクラス、同じ班になった、というのがきっかけです。たまたま同じゲームをやっていて、話が弾んでしまって」
「当時流行ってたシリーズ物だったんですけど、同じところで躓いてて」
 と、Kaedeが引き受けた。そうなんですねー、と分かってるんだか分かってないんだか分からない返事のあと、その頃からずっと交友を続けているのか、という問いが続く。
 カルノはまた、ちらりとKaedeを窺った。笑顔に嘘はなさそうで、今の回答で大丈夫そうだ、と判断する。

「周輔っ」
 のし、と背中に重み。番組の収録の後、Kaedeこと下井田楓と、カルノこと加留部周輔は、一度事務所に立ち寄ってから、別々のルートで都内のホテルにいた。所謂VIPやスイートルームで、裏手の専用口から人目を気にせず入れる部屋だ。後から来た周輔が玄関で靴を脱いでいたところに、楓が伸し掛かってきたのだ。
「お疲れ様、今日、来てくれてありがとね」
「ん、いい。緊張はしたが、お前の瑕疵になってないなら構わない」
「もう、お固いんだから」
 笑いながら酒を飲んでいる。楓は周輔の背中に被さりながら、ちゅ、と首にキスをした。
「ごめんね、また言えなかった」
「馬鹿言うな、言ったらアイドル続けられないんだから」
 周輔は靴を脱ぎ終えると、楓の方に向き直る。
 楓は華奢には見えるが均整の取れた細い筋肉に覆われ、造形の美しい顔立ちをしている。メイクをしている時のキリリとした顔立ちが人気だが、周輔は少し柔らかな線の出る素顔の方が好きだった。
「俺が言ったら、周輔も続けられなくなる?」
「どうだろうな、こっちは公言してる選手もいるにはいるが……」
 そっかぁ、と酒の匂いがする息を吐きながら立ち上がる。周輔もそれに倣って、リビングになっている方へ向かった。
「ねぇ、別れる?」
「また言うか。俺からは絶対にない」
 楓は度々そう尋ねてきた。周輔はくどいと思っても、何度でもそれを否定する。自分も少し、そういう気分になることがあるからだ。
「早くもっと、僕らみたいのが認められるといいなぁ」
「ま、アイドルに恋人や伴侶がいるってのは、大分物議を醸すがな」
 ふふ、と楓は笑う。周輔がなにか言う前に、胸にどん、と飛び込んできて抱きつく。
「俺の大きな熊さん。俺にない強くてカッコいい体、大好きだよ」
 それが本当のきっかけだった。同じクラスで、同じ班で、なにかスポーツやってるの、カッコいいね、と腕に触れてきたのが楓だった。
「俺も……お前の細い骨格と、優しい声が好きだよ、俺の可愛い……」
 いつも、なんと呼ぶか迷う。小鳥と言ったらそんなに小さくないと膨れられ、竪琴と言ったら動物にしろと言われ、難しいな、と首を傾げる。
 覆面プロレスラーカルノの部屋が、実は世界各国のアイドルの写真で埋め尽くされていると言ったら、きっと誰もが笑うだろう。幼い頃から憧れた世界だった。
 それを、見方によっては恵まれた体躯と、天性の才能がそれを許さなかった。変声期に声も嗄れて、万に一つの望みさえ失った周輔に、「俺はスポーツ選手になれないから」と、傷付いた膝を見せたのが楓だった。それでもやれること、できることに食らいついて、彼はアイドルとして華々しい世界に身を置いた。互いの夢を、互いに叶えあってここまで来た。
「俺の可愛い、狼さん」
「……及第点」
 はぁ、と胸を吐息がくすぐる。周輔は楓をギュッと抱き締めた。少し下にある頭に頬ずりする。お互いの世界でその生命を終えるまで、きっと終えても、こうして抱き合っているのだろうと思いながら。

3/25/2023, 11:20:48 AM

【好きじゃないのに】

「ねぇ見てみて!」
 卒業旅行。高校生活最後の思い出。修学旅行は広島だった私達は、それぞれの進路を決める活動を終えて、千葉県の有名テーマパークに来ていた。私服で学校の友達と集団行動というのは、なんだか不思議な気分だ。
 班は六人。女子は私と、なっちゃんとみっち。男子はヤマとキミ、もう一人はあまり関わりのないリオくんだった。
 なっちゃんが手に持ってきたのは、六個入りのモチーフ付きキーホルダーセットだった。
「奮発して買っちゃった! みんなで持とうよ、お揃い!」
 バイトを頑張っていたのはこのためだったらしい。
「私ピンク!」
「あっじゃあ私赤!」
「おー、俺黄色」
「俺どうしよ、緑」
 皆で決める、ということはあまりない。大抵主導を取るのはなっちゃんかみっちで、私はだいたい最後だった。残ったのは青と白だ。
「かっちゃんは青か白好きだもんね!」
「かっこいいもんね〜!」
 なっちゃんとみっちの、こういう言葉だけは好きじゃないな、と思う。
 私は名前が勝己。字面だけだと男子にも見える。それに加えて、長いこと女バレにいたし、背も男子と並ぶくらいある。髪型は自分が好きでベリーショートにしている。
 端的に言えば、とてもボーイッシュだ。別に男の子になりたいとかそういうわけではなく、それが自分の好きの形、というだけ。でも、好きな服はロングスカートとブラウスだし、今日はカバンも新しくしてきた。可愛いピンクのトート。白はあるけど、青の要素はない。
 学校にいると、制服だからそのあたりのことが度外視されてしまうのは分かる。でも、私は自分から「青や白が好き」「男の子っぽくしたい」とは言ってないんだ。別に好きじゃない。好きなのはピンクとかブラウンとか、暖かみのある色だ。
 ひょい、と私の横から手が伸びてきて、青い方を摘み上げた。
「ヤマ、黄色と交換してくれる?」
「ん? あ、おう」
 ひょい、と手の中で交換されて、黄色いモチーフが私の前に差し出される。
「はい、黄色だけど」
 その手の主は、リオくんだった。背は少し低くて、髪が肩に付くくらい長い。パッと見ただけだと、線が細くて、女の子みたいで、全然強そうとかそういうタイプじゃない。なのに、その時は本当に、彼のやることに誰も何も言えなかった。
 私は手を出してそのキーホルダーを何とか受け取る。
「あ、ありがと……」
 リオくんが、前髪の隙間から私を見上げる。
「好きなものは好きって言お、ね」
 その、舌に、見間違えでなければピアスがついていて、私は思わずドッキリしてしまった。
「じゃ、僕、白貰っちゃうね」
 みんなが呆気に取られているのに、リオくんは当たり前みたいな顔をして、持ってきたバッグ──パークの女の子のキャラクターが刺繍されたトートバッグに、キーホルダーをつけていた。
「ほら、早く行かないとパレード見る場所取られちゃうよ。それともアトラクション行く? 今の時間ならまだ空いてるよ」
 歩き出した彼に、みんなも慌てたようについていく。私も後ろから着いて歩きながら、もし後で時間があったら、リオくんは何が好きで、何が好きじゃないのか、聞いてみようと思った。

3/25/2023, 2:27:27 AM

【ところにより雨】

 私は主の足元で、溜息を吐いた。
 主は大変成績の悪い悪魔で、座学は良い点が取れるものの、奪魂学という実技の授業は最低どころか判定不可の烙印を押されてしまった。悪魔というのは、この世で罪を犯した魂を奪い、それをエネルギーにして生きるものだ。その魂を、期間中に一つも手に入れられなかった。
「うーん、ダメだ……」
 シュルシュルと音がする。レコードと呼ばれる魂の記録は一本の帯状になっており、悪魔はその善行や悪行をピックアップして見つける能力があった。
「悪行の前に悲劇がある、この強盗犯は両親からの虐待があった……学校に行けていない。それに、助けを求めた先でも、正しく伝えられなかったばかりに追い返されている。……うう、なんて、酷い……」
 独り言を言いながら、ぐしゅ、と鼻をすする音がする。パタパタと頭に落ちてくるものがあって、また溜息。
「本当の悪人なんてそういないよ、可哀想に、どうして天使達は彼がまだ救えるうちに手を差し伸べなかったんだろう」
 袖で涙を拭いながら、レコードから手を離す。しゅるるる、と音を立てて、目の前に昏倒している強盗犯の中にレコードが戻った。とあるアパートメントの一室、殴られて気を失った住人と、悪魔に意識を麻痺させられた男。確かに強盗犯は人を殺めたり金を盗むところをやる前に止まったが、それをやったのは他でもない主だ。まだ行くなと止めたのに、住人を助ける形になってしまった。
「はぁ……警察に連絡して、次に行こう……」
 また、ポタポタ頭に雫が落ちてくる。
「今日の天気予報は、曇だったんだが」
 自慢の三角の耳も、鈎尻尾もへにゃへにゃとしてしまう。悪魔の涙は感情を伝染させる。困ったものだ。
「ところにより雨、だな」
 その悲しみに、自分が昇級できないことへの不安もあるのに。彼は自分のために人間の魂を奪うことができないでいるのだ。

3/23/2023, 3:08:27 PM

【特別な存在】

 昔々、遠い昔。“円の神”が世界を全部丸く混ぜ合わせて、水を混ぜるように空をぐるぐる混ぜ合わせ、真ん中にできた渦を大地にし、回り続けるもの空にしました。少し寒くなった“円の神”は、手を擦り合わせて暖かくしました。すると、手と手の間から火が起きて、これもまたぐるぐる混ぜられて太陽になりました。暖かくなったので、今度は雲を呼び寄せて雨を降らせました。大地は潤い、たくさんの泥ができました。“円の神”はその泥の中を歩きました。泥は足で踏まれて盛り上がり、山と谷ができました。やがて苔生して草地となり、次第に大きな木を生みました。木の中に入り込んだ泥は虫となりました。“円の神”が泥を手ですくうと、泥は下に落ちました。落ちる途中で、泥は鳥になりました。落ちて低く積もった泥は、獣になりました。“円の神”はまた雲を呼び寄せ、手や足を洗いました。それらは踏んで盛り上がった泥を削っていき、川になりました。川になった水は低いところに集まって、海になりました。そして、川の中で手を洗ったときに、手から浮かんだ泥が魚になりました。海の中で足を洗ったとき、足から離れた泥が魚になりました。“円の神”はそうしてから、まだ濡れた泥があるところに息を吹きかけました。すると、強い息は風になり、風が立たせた泥たちは、人間になりました。そして、“円の神”があくびをして涙を落としたところに、ポツポツ生まれたのが、その他の神様達でした。

 今はもうできないこと、まだこの世に神様と人間が会話できた頃のこと。“走る神”と呼ばれる若い神様がいました。目が覚めるなり走り出して、太陽を大地の端から端へと運ぶのが役割でした。“走る神”は両親である“風の神”と“雨の神”に太陽の世話を任されていたので、それを誇りに思って毎日毎日運びました。
 ある日、“走る神”は人間の女の子に出会いました。運んで運んでいる時に、「いつもありがとう、おかげでとっても暖かいわ」と微笑みかけてくれたのです。
「そうかい、暖かいかい」
「ええ、沢山の花と沢山のお魚も穫れて、暖かいって素敵なのよ」
 女の子は他にもいましたが、最初に話しかけてくれた女の子は特別でした。お話をしていないときでも、“走る神”の祭壇に祈り、花を捧げてくれました。
 “走る神”は嬉しくなって、太陽をゆっくり運んで、女の子のことをずっと眺めていました。けれど、太陽は火なので、森や川が熱くなりました。そうすると皆喉が渇いてしまって、「暑い、暑い」と言いました。“走る神”の両親は二人でぐるぐる走って、大地と太陽の間に分厚い雲を敷きました。そして、“走る神”にこう言いました。
「お前が決まった速度で走らないと、大地が太陽に燃やされてしまうよ」
「太陽は夜眠るまで燃え続けているのだから、ちゃんとしなければならないの」
 “走る神”は驚きました。自分では熱くもなんともなかったのです。地上を覗いて見ると、風と水が与えてくれた優しい涼しさに、あの女の子も喜んでいました。“走る神”は後悔して、また同じ速度で太陽を運びました。
 女の子は毎日毎日、“走る神”に微笑みました。“走る神”はそれが嬉しくて嬉しくて、毎日せっせと太陽を運びました。
 ある日、“走る神”はこう思いました。
「太陽を早く運んでしまえば、あの子とお話する時間ができるんじゃないか」
 そうして“走る神”は太陽を手にするなり飛ぶように走って、大地の端へと運んでしまいました。すると、今度は太陽の火が行き届かなくなり、大地の上は冷えていきました。水は凍りつき、木々は凍った水に傷付いて葉を落とし、生き物達は身を寄せ合っていました。“走る神”の両親は驚きました。これでは二人がどんなにぐるぐる走っても、冷たい風と冷たい水が大地に落ちるばかりです。
「“走る神”よ、どうしてズルいことをしたのですか」
 “水の神”に言われて、“走る神”は黙り込んでしまいました。
「我が息子よ、お前は二度、大地の生き物達を死なせてしまおうとした」
 “風の神”は怒りました。
「何がそうさせたのか、正直に話しなさい」
 “走る神”はしばらくもじもじしてから、大地の一点を指さしました。
「あの子が毎日お礼を言ってくれるのが嬉しくて、あの子とたくさんお話したかったんだ」
 両親は顔を見合わせました。
「分かった、ではたくさん話せるように、あの子を空に上げることにしよう」
 こうして、“走る神”を応援していた女の子は、空に召し上げられました。空には“円の神”が用意した神殿があり、そこで祈りを捧げることができました。そして、祈りの時間は太陽を運び終わったあと、夜にするよう定められました。それなら、“走る神”が仕事を終わってからお話できるからです。
 けれども、“走る神”は「それならずっと夜がいいや」と、太陽を運ぶのをやめてしまいました。空はずっと暗く、女の子も大地のことを心配しました。
 ついに“走る神”の両親は怒りました。
「お前のような怠け者は、殺してしまおう!」
 しかし、そこに“円の神”が手を差し出しました。
「待て待て、お前たちの息子はこれまで随分頑張ったじゃないか。罰を与え、規則を守れば、許すとしよう。だが、次はないぞ」
 “円の神”に言われて、両親は“走る神”に与える罰を決めました。
「一年のうち、半分は今までの速度で運び、半分の半分は大地を眺めていたときのようにゆっくり運び、半分の半分は早く仕事を終えられるように急ぎ足で運ぶ。女の子を眺めていたときのようにしなさい、自分が与えられた罰の意味を忘れないために」
「女の子は毎日お前に祈るでしょうが、お前と話せるのは神殿がすべての姿を見せている時だけです、あとの日は“円の神”が隠してしまうでしょう」
 こうして、“走る神”は毎日毎日太陽を運びますが、その速度が定められ、空の神殿は月と呼ばれるものになりました。満月の夜に耳を澄ませれば、“走る神”がその女の子と話している声が、密やかに聴こえてくるかもしれません。

3/23/2023, 12:09:08 AM

【バカみたい】

 三年生になって、バスケ部を引退した。これから先やる気もない。チームメイトだった奴らは「大学でもサークルに」「社会人サークルに混ぜてもらって」なんて言ってるが、そこまでするか?
 恵まれた身長であろうが、小回りが効こうが、ドリブルで抜き去る技術があろうが、敵に回したくないブロックをしてようが、僕らは勝てなかった。それが答えだ。県大会には行けても、全国には届いても、その最初の一戦で落ちる。
 そんなもんだってのに。

「すみません、サークル決まってる?」
 入学式を終えた大学のキャンバス内はサークルのチラシを配る人、人、人。桜もチラシもごちゃごちゃになって、最後には足元に水と混ざって黒ずんだゴミになるだけ。チラシを受け取りもしなかった僕に、追いすがるような下からの声。
「いや、別に……」
 サークルに所属する気はない、と言いかけたが、ホントに、と喜色に満ちた声にかき消された。
「じゃあ見学だけでも! あっ俺二年なんだけど、敬語とかいいから。ほら、もう今日からやってんだよね、来て!」
 ぐいぐいと引っ張られる。どこからそんなパワーが出てくるんだというくらい力強い。
 連れて行かれたのは、キャンパス奥の体育棟。各種設備を一箇所に集めたもので、紹介文が正しいなら屋上に50mのプールといくつかのアーバンスポーツの練習場、二階に球技で屋内でできるものを集約する体育館、一階に剣道、柔道などの道場と更衣室がある。
 引っ張り込まれたのは二階の体育館。手前ではハンドボール、奥では──
「一年生見学来たー!」
「おー、見てけ見てけ」
 バスケットボール。数カ月ぶりに聞いた木目の床をボールが叩く音。鈍く響くゴム質のそれ。靴ゴムの軋む音。声が、聞こえる。
(辞めるって、決めたろ)
 踏み込んで行く、ボールがまるで手に吸い付くように動く。足が床を蹴りつけてボールと一緒に跳ね上がる。
(バカみたい)
 どうしようもなく、高揚してしまうんだから。

Next