Werewolf

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【好きじゃないのに】

「ねぇ見てみて!」
 卒業旅行。高校生活最後の思い出。修学旅行は広島だった私達は、それぞれの進路を決める活動を終えて、千葉県の有名テーマパークに来ていた。私服で学校の友達と集団行動というのは、なんだか不思議な気分だ。
 班は六人。女子は私と、なっちゃんとみっち。男子はヤマとキミ、もう一人はあまり関わりのないリオくんだった。
 なっちゃんが手に持ってきたのは、六個入りのモチーフ付きキーホルダーセットだった。
「奮発して買っちゃった! みんなで持とうよ、お揃い!」
 バイトを頑張っていたのはこのためだったらしい。
「私ピンク!」
「あっじゃあ私赤!」
「おー、俺黄色」
「俺どうしよ、緑」
 皆で決める、ということはあまりない。大抵主導を取るのはなっちゃんかみっちで、私はだいたい最後だった。残ったのは青と白だ。
「かっちゃんは青か白好きだもんね!」
「かっこいいもんね〜!」
 なっちゃんとみっちの、こういう言葉だけは好きじゃないな、と思う。
 私は名前が勝己。字面だけだと男子にも見える。それに加えて、長いこと女バレにいたし、背も男子と並ぶくらいある。髪型は自分が好きでベリーショートにしている。
 端的に言えば、とてもボーイッシュだ。別に男の子になりたいとかそういうわけではなく、それが自分の好きの形、というだけ。でも、好きな服はロングスカートとブラウスだし、今日はカバンも新しくしてきた。可愛いピンクのトート。白はあるけど、青の要素はない。
 学校にいると、制服だからそのあたりのことが度外視されてしまうのは分かる。でも、私は自分から「青や白が好き」「男の子っぽくしたい」とは言ってないんだ。別に好きじゃない。好きなのはピンクとかブラウンとか、暖かみのある色だ。
 ひょい、と私の横から手が伸びてきて、青い方を摘み上げた。
「ヤマ、黄色と交換してくれる?」
「ん? あ、おう」
 ひょい、と手の中で交換されて、黄色いモチーフが私の前に差し出される。
「はい、黄色だけど」
 その手の主は、リオくんだった。背は少し低くて、髪が肩に付くくらい長い。パッと見ただけだと、線が細くて、女の子みたいで、全然強そうとかそういうタイプじゃない。なのに、その時は本当に、彼のやることに誰も何も言えなかった。
 私は手を出してそのキーホルダーを何とか受け取る。
「あ、ありがと……」
 リオくんが、前髪の隙間から私を見上げる。
「好きなものは好きって言お、ね」
 その、舌に、見間違えでなければピアスがついていて、私は思わずドッキリしてしまった。
「じゃ、僕、白貰っちゃうね」
 みんなが呆気に取られているのに、リオくんは当たり前みたいな顔をして、持ってきたバッグ──パークの女の子のキャラクターが刺繍されたトートバッグに、キーホルダーをつけていた。
「ほら、早く行かないとパレード見る場所取られちゃうよ。それともアトラクション行く? 今の時間ならまだ空いてるよ」
 歩き出した彼に、みんなも慌てたようについていく。私も後ろから着いて歩きながら、もし後で時間があったら、リオくんは何が好きで、何が好きじゃないのか、聞いてみようと思った。

3/25/2023, 11:20:48 AM