Werewolf

Open App

【バカみたい】

 三年生になって、バスケ部を引退した。これから先やる気もない。チームメイトだった奴らは「大学でもサークルに」「社会人サークルに混ぜてもらって」なんて言ってるが、そこまでするか?
 恵まれた身長であろうが、小回りが効こうが、ドリブルで抜き去る技術があろうが、敵に回したくないブロックをしてようが、僕らは勝てなかった。それが答えだ。県大会には行けても、全国には届いても、その最初の一戦で落ちる。
 そんなもんだってのに。

「すみません、サークル決まってる?」
 入学式を終えた大学のキャンバス内はサークルのチラシを配る人、人、人。桜もチラシもごちゃごちゃになって、最後には足元に水と混ざって黒ずんだゴミになるだけ。チラシを受け取りもしなかった僕に、追いすがるような下からの声。
「いや、別に……」
 サークルに所属する気はない、と言いかけたが、ホントに、と喜色に満ちた声にかき消された。
「じゃあ見学だけでも! あっ俺二年なんだけど、敬語とかいいから。ほら、もう今日からやってんだよね、来て!」
 ぐいぐいと引っ張られる。どこからそんなパワーが出てくるんだというくらい力強い。
 連れて行かれたのは、キャンパス奥の体育棟。各種設備を一箇所に集めたもので、紹介文が正しいなら屋上に50mのプールといくつかのアーバンスポーツの練習場、二階に球技で屋内でできるものを集約する体育館、一階に剣道、柔道などの道場と更衣室がある。
 引っ張り込まれたのは二階の体育館。手前ではハンドボール、奥では──
「一年生見学来たー!」
「おー、見てけ見てけ」
 バスケットボール。数カ月ぶりに聞いた木目の床をボールが叩く音。鈍く響くゴム質のそれ。靴ゴムの軋む音。声が、聞こえる。
(辞めるって、決めたろ)
 踏み込んで行く、ボールがまるで手に吸い付くように動く。足が床を蹴りつけてボールと一緒に跳ね上がる。
(バカみたい)
 どうしようもなく、高揚してしまうんだから。

3/23/2023, 12:09:08 AM