「あ、いたいた。やっほー」
『………』
夜、公園のベンチに座っていると17歳ぐらいの女の子が話しかけてきた。
唖然とする俺を置いて、彼女は話を続ける。
「また残業してたの?相変わらずだね」
「早く帰って寝ないと。また体調崩すよ」
全く話についていけない。
そりゃそうだ。俺は彼女の事をまったく知らない。
「そういえば、おかあ……友梨は?」
『…なんで君が友梨の名前を知ってるんだ』
友梨は同じ部署で働く俺の幼馴染だ。
「…友梨の事、好きでしょ??」
『…は、はああ!?!?』
「ふふ、やっぱり。この頃から好きだったんだね」
『…君、一体誰なんだ…?』
「…私の名前?」
「……将来、貴方が友梨と一生懸命考えてくれる素敵な名前だよ」
ー私の名前ー
放課後
3階の窓から、私は身を乗り出す。
不安な気持ちを抑えて、運動場を見回す。
……いた。
その瞬間から、私の視線の先には彼しか居ない。
ああ。彼の視線の先に、私が居たら…
……なんて。変な妄想。
本当に片想いって厄介だ。
私と反対方向に笑顔で手を振る彼の目には
私じゃない女が居る。
叶いっこないのに、願ってしまう。
彼の視線を独り占め出来たら…。
ー視線の先にはー
一筋のスポットライトがステージ上の女性を照らす。
女性は軽やかにステップを踏み、観客を虜にする。
彼女は選ばれた人間だ。
そして私は選ばれなかった人間。
どれだけ小道具を運んでも、どれだけ頑張っても
観客の視線は全て彼女の物になる。
だって彼女だけが主役なのだから。
彼女さえ居なければ、
この視線を私だけの物に出来たのに。
………あ。
あるじゃない。
彼女を照らす役割の私にしか出来ない、
みんなの視線を私の物にする方法が。
私は、踊る彼女の真上に行き
照らすスポットライトの鎖を切った。
けたたましい音と悲鳴が鳴り響き、
みんな、私に釘付けになった。
ー私だけー
僕には、変な記憶がある。
それは4人家族の記憶。
僕の家族は、母さんと父さんの3人なのに。
…妹が、いた気がする。
この記憶にいる妹は、7歳ぐらい…の年だ。
凄く笑顔が綺麗な…そんな妹。
夢だったのかも知れない。
気のせいなのかも知れない。
確かめたいけど、
親達には言ってはいけない。そんな気がした。
どうしてだろう。
ー遠い日の記憶ー
最近、夕焼けを見なくなった。
…いや。見ていないの方が正しいのかもね。
帰り道、私はずっと下を見ている。
自分の影を見るために。
この時間帯が一番大きくはっきり見えるんだ。
そんな影を見るたびに、
私は存在していると実感する。
…でも、今日だけは真っ直ぐ前を向うと思う。
………。
久しぶり見たな。夕日。
こんなにも明るかったんだ。
そんな夕日を見るたびに、
私には影が無くなったと実感する。
ー空を見上げて心に浮かんだことー