窓から差し込む夕日が教室を照らす。それを合図に、私たちは集まる。
机に散りばめられた幾つものカードゲーム。それを手に取って、何時間もただただ遊び尽くす、惰性の時間。
皆は今頃勉強やらバイトやら頑張っているのだろうが、私たちは無意味な時間を過ごしていく。
ただ、涙が出るほど笑うだけの、時間。
辛いことがあったなら、ここへ来ればいい。いつだってあんたを待ってる。
嫌な涙を出し切ったなら、今度は笑い涙に変えてやる。
だから私たちは約束を交わす。
「また、放課後ね」
君の隣にいたいと思ったのはいつだったかな。
何でもないはずだったのに、気づけば目で追ってしまって。
周りの人たちには"気になってるだけ"って誤魔化したけど、本当はもうとっくに好きになってしまって堪らなかった。
彼が私に素っ気ないのも、どこか避けているような挙動でも、それでもどんどん好きになっていってしまう。
苦しい。けど、好き。
胸の小さな鼓動は、誰にも止められない。
きらきらとした目で見つめてくる瞳が好きだった。
花が咲くような笑顔が好きだった。
美しい髪が好きだった。
優しい声が好きだった。
君の好きなところは出てくるのに、君を象徴する言葉が見当たらなくて。
そのまま時は容赦なく流れる。
君が晴れ舞台に選んだ衣装の名は"白無垢"。
昔の君とは見違えるくらい淑やかで美しい。
だけれどその中に垣間見える愛らしさや煌めきは今も健在だ。
そうだ。
こんな人を、人々はそう呼ぶのか。
無垢、と。
今まで、ずっと空っぽだった。
ずっと、何かになりたいって思っていた。
それでもなれなくて、その度に羨望の眼差しを向けて、苦しくて辛くて、泣いて。
だからそのぶん、強くなったはずだ。
誰かと笑い合う楽しさも、喜びを分かち合う嬉しさも、誰かへの嫉妬心も、思う自分になれない辛さも、上手くできない悲しさも。
わたしは全部、知っているから。
だからあとは、進むだけ。
期待と、ほんのちょっとの後悔を抱えながら。
"進路"
その文字を見るだけで頭が痛くなる。
思春期に抱える問題としては大きくて、でも書面に書くだけの小さなもの。相対する存在で、なかなか言葉にし難い。
一生懸命考えているんだ。でも、空っぽ。
やりたいことなんてない。特技や趣味もない。
好きなことはあっても、それを仕事にする勇気なんて持っていない。
はやくしないと。担任や周りの重圧に押し潰されて、死んでしまいそうになるんだ。
「やりたいことをやればいいじゃない」
「…ないよ」
「お母さんは今、ハンバーグを作りたいなぁ」
馬鹿らしい。
進路は、そんな簡単なものじゃないだろ。
「ちょっと難しく考えすぎなんじゃない?」
「だって、今後に関わるんでしょ?真剣に考えてるの」
「やりたいことを見つけるっていうのも進路のひとつよ。とにかく、今やりたいことを探すの。これからのことはこれから考えていけばいい」
今、やりたいこと。
今は、ふらふらしたい。
宛先もなく、ひたすらに歩いていたい。
たまに道に迷って、でも迷いながら進んで、いつかはゴールテープを切る。
将来のことは分からない。その人生が正しいのかも、間違っているのかもあやふや。
けれど今は、それでいい。
それ"が"いいんだ。