創作 「快晴」
青色に染まった筆先を、ガラスのコップの水で洗う。みるみる水に色が溶け、すっかり筆先は元の色に戻った。今度はパレットから白をすくい、馴染ませてから、様々な青の上にのせて、薄くのばしていく。やがて、白は波しぶきになり、海の絵が出来上がった。
ものの数十分で海を描きあげた少女は、なにやら不満そうに首をひねった。紙の上半分には何も描かれていない。どうやら空をどう描こうか考えているようだ。
海の色をみるに、夕方ではないらしい。だが、少女は筆を置き、窓の外を見た。雲ひとつない、空。
少女はまじまじと空を見つめると、あっと声をあげた。そして、再び筆をとると思い描く色を作り、空白を埋め始めた。
光、空気、透明感。全てを描き込み、絵が完成へ近づいていく。やがて、少女は筆を置き出来上がった絵をみた。満足そうにうなずいて、うんと伸びをする。
絵のタイトルはもちろん、快晴だ。
(終)
創作 「遠くの空へ」
街の高台にある公園で、わたしは友人とおしゃべりをしていた。すると、友人は緩くブランコをこぎつつ、ぽつりと呟く。
「じゃあ、本当にそういう感覚を持ってるんだね」
「うん。今までごまかしてて、ごめんね」
わたしには、文章に味を感じるという不思議な感覚がある。でも、幼い頃に言われた一言で、この感覚があることを隠すのがわたしの日常だった。 だけど、わたしは今日、少しだけ勇気を出して信用できる友人に話をしてみたのだった。
「話してくれてありがとう。あたし、嬉しかったよ」
友人は穏やかに言い、照れたように微笑んだ。
わたしもつられて笑った。
そして、友人はブランコをゆっくりとこぐ。
「じゃあ、きみのおすすめの本、教えてよ。感じた味も交えて」
「うん、いいよ。わたしのおすすめの本はね……」
わたしたちは、本について語り合い、わたしにしかない日常を話して笑いあった。ひとしきり笑って、わたしは続けた。
「こんなに本の味について話したこと、初めて。すごく楽しい」
「よかった。あたしも、知らないこと聞けてすんごい楽しいよ」
友人は言葉を切り、遠くの空へ目を向ける。飛行機がゆっくりと、雲をひいている。
「この空の下にはさ、きみと似た感覚の人が大勢住んでるのかな」
「うん、そうだろうね」
わたしは空の向こうめがけて、ブランコをこぐ。
後ろから、おーいと、クラスメイトの声が聞こえた。
「おーい、二人ともここにいたのか。一緒にメロンパン食べようぜ」
友人がブランコから飛び降りて走って行く。わたしも後を追いかける。
ああ、今日は話してよかった。全てとはいかないけれど、少しずつ、言葉にできるようになろう。そうすればわたし自身、感覚との付き合いがうまくなるはずだから。
(終)
創作 「言葉にできない」
「他人に理解されないって嘆くことってあるじゃない」
彼女がにわかにそう言い、俺は課題から顔をあげた。すると、彼女がスマホを眺めながら眉根を寄せている。
「それって、言いたいことをちゃんと言葉にできてないからじゃないの」
「また、横暴な。みんながみんな、お前みたいに国語力がある訳じゃないだろ」
彼女は鋭い目で俺を見る。俺は思わずたじろぐ。
「そういうことじゃないの。国語力がある上で、ストレートな表現をするのが好きなの」
「じゃあ、好きだ」
「今じゃないっ」
「んだよ……」
ふてくされて、課題へと戻る。
「あ、でも今のが、そうかも。ねぇ、そうでしょ」
「……うん、あえて今言った」
彼女をみると、にんまりと笑っていた。
「やっぱり、きみなら許せるね、その感じ」
俺は内心、ガッツポーズする。
「まぁ、親友だけどね」
「……そうだな」
それでもいいと、俺は課題に集中した。
(終)
「春爛漫」
おひるねをしている
こねこのおはなに
ひらりとおりてきた
きれいなはなびら
かわいいね
のどかだね
ぬるいひかりをただよう
さくらいろのかおりに
ふわふわとめをとじる
はるらんまん
ありふれた言葉だけどキミに贈るよ
誰よりも、ずっと大好きだって。
(終)