谷折ジュゴン

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創作 「遠くの空へ」

街の高台にある公園で、わたしは友人とおしゃべりをしていた。すると、友人は緩くブランコをこぎつつ、ぽつりと呟く。

「じゃあ、本当にそういう感覚を持ってるんだね」

「うん。今までごまかしてて、ごめんね」

わたしには、文章に味を感じるという不思議な感覚がある。でも、幼い頃に言われた一言で、この感覚があることを隠すのがわたしの日常だった。 だけど、わたしは今日、少しだけ勇気を出して信用できる友人に話をしてみたのだった。

「話してくれてありがとう。あたし、嬉しかったよ」

友人は穏やかに言い、照れたように微笑んだ。
わたしもつられて笑った。
そして、友人はブランコをゆっくりとこぐ。

「じゃあ、きみのおすすめの本、教えてよ。感じた味も交えて」

「うん、いいよ。わたしのおすすめの本はね……」

わたしたちは、本について語り合い、わたしにしかない日常を話して笑いあった。ひとしきり笑って、わたしは続けた。

「こんなに本の味について話したこと、初めて。すごく楽しい」

「よかった。あたしも、知らないこと聞けてすんごい楽しいよ」

友人は言葉を切り、遠くの空へ目を向ける。飛行機がゆっくりと、雲をひいている。

「この空の下にはさ、きみと似た感覚の人が大勢住んでるのかな」

「うん、そうだろうね」

わたしは空の向こうめがけて、ブランコをこぐ。
後ろから、おーいと、クラスメイトの声が聞こえた。

「おーい、二人ともここにいたのか。一緒にメロンパン食べようぜ」

友人がブランコから飛び降りて走って行く。わたしも後を追いかける。

ああ、今日は話してよかった。全てとはいかないけれど、少しずつ、言葉にできるようになろう。そうすればわたし自身、感覚との付き合いがうまくなるはずだから。
(終)

4/12/2024, 3:06:25 PM