8木ラ1

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11/30/2024, 12:32:11 PM

「じゃあ、行ってくるね」
そう声をかける彼。私はこくんと頷いた。
泣きじゃくったのが丸分かりな瞼に、つい笑ってしまう。
「今までありがとう」
そう言い放つと、彼はまた目尻に涙を浮べた。
そんな姿をされたら私まで悲しい気持ちになるじゃないか。
私は溢れ出そうな感情を我慢して、大好きなその姿に頭をこすりつける。するとがくんと膝から崩ちる彼。
「ごめん、ごめんね」
そして手のひらで懸命に涙を拭いながら、弱々しく謝っていた。
指の間から見えるきらきらとしたその涙。私はそっと彼におでこを合わせる。
いつもなら反応するが、今日は何をしても泣きじゃくるままの彼。いや、今日だけじゃなくこれからもだろう。

私はそんな彼のおでこに口付けをして呟く。

「にゃぁ〜」

泣かないで


そんな声はもう届かず、私はただひたすら頭をこすりつけるだけだった。

11/28/2024, 4:03:07 AM

「ふー…」
白い息を吐く街の人々を見て、改めて冬だと実感させられる。
隣にはマフラーに顔をうずめる君。
雪だらけの風景が、より彼女の赤い瞳を目立たせた。

その赤が混ざった黒髪にふわりと雪が乗る。君はそんなことには気にかけず、キラキラとした街の様子を何も言わずに見つめるままだった。

「たつや、本買ってえや」
「多分買う」
すると遠くから聞こえる、馴染みある話し声。彼女もその声に気付いたようで、急いで後ろを振り向く。
そこには予想していた通りの人物達がこちらに向かっている様子だった。
「おっ、早いね。」
彼らもこちらに気付く。
彼女はニパッと明るい笑顔で彼らの方に駆け寄っていった。僕もその後ろからついていく。
「はいこれお前の分。」
そう言われると同時に、温かいものが頬に当たる。
見ると、ココアと大きく書かれた缶ジュース。困惑した表情で渡してきた彼の目を見た。その橙色の瞳は前で話しながら歩いている4人をちらりと見てから言う。
「たつやの金だから大丈夫。」
「えぇっ!?」
思わず驚いた声を上げる僕に、彼は笑って言葉を続けた。
「嘘だよ、これ自分の奢り。」
クスクスと笑いながら言うと、もう一度差し出されるココア。その楽しそうな笑顔につられて僕もありがとうと笑い返す。

「あ、来たー!」
世間話をしているうちに目的地の広場へとつき、たくさんの人と合流する。どんどん声が増え、賑やかな雰囲気になって行く。
街の写真を撮っている者もいれば楽しそうに話している者も。明日には忘れているだろうつまらない話で腹を抱えて。
ベンチに座る僕は、ココアで手を温めながら呟いた。
「…たのしいなあ…」

10/15/2024, 6:12:04 AM

彼は今あいつが憎くて憎くて仕方ないだろう。殺したいぐらいだろう。
思い出が詰まった大切なものを壊されたのだ。そりゃそうだ。憎んで当然だ。
「大丈夫?」
帰り道、僕は彼に声をかけた。少しでも心が楽になるようにと背中をさする。
“泣いて大丈夫なんだよ” “よく耐えたね”
さすりながらそんなありきたりな言葉をかけた。
彼は笑って言う。
「うん、大丈夫だよ。」
いつも通りの笑顔に一瞬心が惑わされる。
そんなことをされても手を出さないなんて。怒鳴らないなんて。
「優しすぎるんじゃない?」
おもわず声に出してしまった。
焦った僕はすぐつぎはぎに言葉をつけたす。その間の彼は黙ったままでさらに僕を慌てさせた。
次の言葉を頭の中で巡らせていた時、やっと彼が口を開いた。

「優しいんじゃない。」
今にも泣き崩れそうな表情。小さく震えた声。
初めて見るその姿に僕は唖然とする。
「勇気がないだけだ、弱い人間なだけだ、優しくないんだよ、」
苦しそうに言葉を連ね続ける彼。
「そっ…」
“そうだよね” “辛かったよね”
僕はすぐに声を飲み込んだ。声を出せなかった。
今の彼に何を言っていいのか分からなかった。
何を言っても彼にとったら醜い毒なような気がした。

僕は理解した。
彼は今あいつを責めてるんじゃない。自分自身を責めてるんだ。自分が憎くて憎くて仕方ないんだ。

いや、違うかもしれない。
勝手にそう解釈してまた理解したふりをしているのかもしれない。

僕は結局何も言えなくて、小さく鼻のすする音だけが聞こえた。

9/29/2024, 6:24:03 AM

「さよなら」
草木の音と共に冷たく放たれたその言葉。

二度と会えなくなる気がした。僕は咄嗟に君の腕を掴む。
目の前にいるのに。ぬくもりを感じているのに。
君が遠いように感じる。焦って君の腕を抱きしめる。

9/28/2024, 3:10:55 AM

ぽつ、ぽつ、、
雨が降り始める。見上げると灰色の雲に埋まった淡い空。
「まじか」
息を吐く。リュックに手を突っ込むが当たり前のように傘は出てこない。

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