8木ラ1

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5/29/2024, 4:40:49 PM

失恋した。
告白しようとようやく勇気を出した日、目の前には女と腕を組んでる先輩。
「ぇっ」
思わず声が漏れ、咄嗟にその場を去った。早歩きでどこに向かっているかもわからないまま思考がぐるぐる回る。
(あの人は誰?楽しそうだった…)
足を早めると共に涙が溢れ出してくる。最悪だ。
通りすがりの人全員に顔を見られている。
手のひらで次々と出てくる涙を拭っても拭いきれなかった。

先輩に姉妹はいない。
先輩は一人っ子だ。それはとっくに調査済みだった。幼馴染が“協力する”と言って調べてくれたのだ。
ならば答えはただ一つ。
いや、しかし先輩には恋人もいなかったはず…

頭も気持ちもぐちゃぐちゃの中、手にスマホの振動が伝わる。誰からかも分からないほど視界はぼやけていて、とりあえず緑色のマークを押した。
「…もしもし、なに」
少し八つ当たり気味に強く言う。そんなことしたって事実は変わるはずないのに。
「大丈夫?声震えてるよ」
相手は幼馴染の優しい声だった。いつもの心配な時に出す声だ。私の異変にすぐ気付くなんて流石だなと思いながら、心の中は少し落ち着きを取り戻していた。
「今どこ?迎えに行く」
その声の後ろでは、カザゴソと行く気満々の音が聞こえる。私は言われるがままに場所を伝え、電話を切った。

先程までぼやけていた視界も少しは文字が見えるぐらいに晴れている。
「ごめん遅れた。で、どうしたの。」
人影が少ない橋の下でしゃがみこむ私に、彼は声をかけた。その声はとても暖かくて落ち着く声だった。
私はその言葉に流され、思うままに気持ちを吐き出す。乾いていた目尻もまた温かくなって視界がぼやけはじめる。
本当に先輩が好きだったこと、泣いて去る自分が悔しかったこと、気持ちを全て話した。
幼馴染はずっと黙って聞いてくれていた。

「…ありがとう、スッキリした」
目はもうカラカラ。私はそう笑って言った。
やはり人間は辛いと吐き出した方がいいな。改めて気付く。
彼は私の手を握る。
「辛かったね。大丈夫だよ。あの女、ブランド物しか目なかったし。アイツらお似合いだよ。」
耳を疑った。
私は女の容姿については一切話していない。
確かに高級そうな服やバッグを持っていたが、何故幼馴染の彼が知っているのか。

「実はさ、あの人たち僕がくっつけたんだ。昨日告白させた。」
嬉しそうに話す彼に頭が真っ白になる。
彼は私の恋を応援していたんじゃなかったのか。協力しようと言ったのは嘘だったのか。
彼の言葉に理解出来なくて混乱する私。

この人は危険だ。それだけはすぐに分かった。
─逃げなきゃ
早くこの場を去ろうと足を動かした瞬間、彼に腕を掴まれる。
「ごめんね。全然僕に振り向いてくれなかったから。」

【ごめんね】

5/24/2024, 3:17:01 AM

ぐしゃり
鈍い音が耳に入る。
「ぁ」
死んだ。分かっていてもやはり辛い。
もっと生きたかった。自分のために自分のしたいことをしたかった。

死に浸っている間も銃声や怒鳴り声が頭に響く。
『ぃだい!いだい゙よぉぉっ!!』
遠くで誰かが叫んでいる。
あぁ、泣き叫んでも無駄なのに。誰にも届くことはないのに。

罪もない人を殺し、友人といえるのかもわからない仲間が死んでいく。

泣いては母に慰めてもらった幼少期、友人と酒を交わした時間、妻に初めての贈物を渡した時、次々と映像が流れ込んでくる。
これが走馬灯ってやつなのか。

抱き締めたい。我妻を、ぎゅっと。
飯が食べたい。母が作った手料理を。
酒を飲みたい。友人とバカな話をしながら。

来世は愛する人の腕の中で死にたい。

【忘れられない】

5/23/2024, 3:22:24 AM

「明日死ぬわ」
空を眺めながら言った。
「マジで?」
彼はすぐに起き上がって俺の目を覗き込む。

しばらく沈黙が続いた。その間も彼は俺をじっと見つめていた。

「もう嫌だからさ」
振り絞って出した声。
その声は震えていて情けなかった。初めて友人の前で弱音を吐いたせいか、目頭が熱くなる。
視界がぼやけ、もう空なんて見えていなかった。
「そっ、か、何があったの?」
先程より小さい声で問われる。

俺は手のひらで瞼をこすりながらゆっくりと口を開く。また声を振り絞った。
「辛いんだよ。周りを見たら俺はすでに置いてかれていて、落ち込んでる間にもみんな遠く遠くに進んでってる」
言葉を紡ぐだけで精一杯だった俺は、思っていない事も思っている事も事実も吐き出していた。
「当たり前のことができなくて、頑張ってるのに叱られて、努力をしていないって勝手に決めつけられてさ」
ずびっ、ずびっ、と鼻をすすりながら吐き出す俺に、彼は黙って聞いていた。羞恥心なんてとっくにどうでもよくて、弱いところを全てさらけだす。

何時間たっただろうか。
日差しが熱く明るかった空はオレンジ色になっていて風が涼しかった。
「…あ、かえらなきゃ」
まだ震えている声で呟く。
「本当だ、帰る?」
彼の声は優しくてとても暖かった。
もっと彼のそばにいたくて、それでもやっぱ一人の時間もほしくて。

立ち上がった彼は俺に手を差し出した。
「立って。帰ろ。」
俺は手を取らないで立ち上がる。
分かっていた。彼もきっと綺麗事を並べるんだと。

─だけど違った。立ち上がった俺に彼は言った。
「じゃあ、また明日な!」

【また明日】

5/12/2024, 5:52:30 AM

「いやだ、っ!」
かすれた叫び声が室内に響く。私の肩は震えていて今にも崩れ落ちそうだった。

家に呼び出され久々のデートに胸が踊っていた。
数分前までは。
「愛してる。だから─」
何度も聞いた言葉。
突然別れをきりだした彼女に理由も問うもその言葉が何度も出てくる。
私は意味が分からなかった。
愛してるならこのまま愛し合おうよ。このまま旅行の計画立てたり手繋いで散歩したりしようよ。このまま一緒に死んでよ。
こんな時によって気持ちを上手く口に出せなくて余計に涙が溢れる。
「分かった、じゃあ正直に話すね。」
必死に涙を拭う私を見た彼女は話し出す。
「自分、他に好きな人出来たんだ。半年前から内緒で付き合ってたの。貴方よりその人を選びたいから別れてほしいってこと。分かった?」
私は言葉を失う。嫌味ったらしく言う彼女の顔は本気だった。その表情が胸につきささりさらに涙が溢れ始めた。嘘だ。嘘だと信じたい。その必死な思いで声を出す。
「前、私が心中しようとか言ったから?あゆみはそんな事しないよ。浮気なんてするひとじゃない。」
舌足らずな口で訴えるが彼女は黙りこくったままだった。

──────

彼女が私に心中しようと言った時は驚いた。
彼女はそんな人ではないと思っていたから。命を捨てようとするなんて事は私は却下した。

三日間考えた結果、彼女は辛い。それは私があまりにも無力、負担をかけていたから。今思えば彼女にたくさんの迷惑をかけてきた。「心中しよう」というのも彼女は私を好きだと愛してると思い込みたかったのだろう。
だったら、彼女が命を捨てようとするぐらい辛いなら別れよう。それが一番だ。

彼女には幸せに命を尽くしてほしい。
愛してるから彼女には生きてほしい。

だから
「─別れよう。この後デートだから。」
私を最低な人間として未来で笑い話にしてほしい。

【愛を叫ぶ。】

5/9/2024, 2:13:01 PM

私には恋のライバルがいる。
一週間前までは恋のライバルなんて漫画の中でしか存在しないと思っていた。だがこれがリアルでも存在するらしい。

私を恋に落としたのは、同じ部活の先輩だ。一見人脈が広そうに見えて極度の人見知り。そしてさりげない気遣いが出来るのがチャームポイント。例えば部室の鍵をいつの間にか返しに行ってくれてるとことか…。
険しい顔してパソコンを見つめる姿やキーボードを慣れたようにうつ仕草もたまらなく最高なのだ。他にもいろいろあるのだが…全て話すと日が暮れるどころじゃないのでやめておく。

そして恋のライバルはその先輩と同じクラス。いつも廊下で楽しそうに話しており、この前も二人で勉強会をしたって聞いた。
それに比べて私と先輩の関係はただ部活が同じな先輩後輩。声を交わすことはほぼなく、顔見知り程度だった。正直勝てる気がしない。

今日こそはと勇気を振り絞って先輩に話しかけようとする。先輩は私に気付かずパソコンのキーボードをうっていた。それでも諦めずもう少し声を出すという時、ガラガラと部室の扉が空く。
「やっほー」
そこにいたのは私の恋のライバル。
部室に来たのは初めてなので頭がいつもより混乱していた。その声に先輩は反応する。
「部室に来るなんて珍しい。どうしたの?」
戸惑ったような口ぶりで先輩は問う。私の心臓は静かにさせることでいっぱいだった。
「会いたい人がいて。」
そんな落ち着いた声でライバルは囁く。私はすぐに察した。これは告白の流れだ、
やめろ、これ以上何も言うな、やめてくれ。
そんな焦りの心情で頭の中が埋まる。だが、予想とは全く違った言葉が聞こえた。

「─後輩ちゃん、貴方が好きです。」
今、私の名前が聞こえたのだ。間違いなく、私の下の名前が。

【忘れられない、いつまでも】

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