8木ラ1

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失恋した。
告白しようとようやく勇気を出した日、目の前には女と腕を組んでる先輩。
「ぇっ」
思わず声が漏れ、咄嗟にその場を去った。早歩きでどこに向かっているかもわからないまま思考がぐるぐる回る。
(あの人は誰?楽しそうだった…)
足を早めると共に涙が溢れ出してくる。最悪だ。
通りすがりの人全員に顔を見られている。
手のひらで次々と出てくる涙を拭っても拭いきれなかった。

先輩に姉妹はいない。
先輩は一人っ子だ。それはとっくに調査済みだった。幼馴染が“協力する”と言って調べてくれたのだ。
ならば答えはただ一つ。
いや、しかし先輩には恋人もいなかったはず…

頭も気持ちもぐちゃぐちゃの中、手にスマホの振動が伝わる。誰からかも分からないほど視界はぼやけていて、とりあえず緑色のマークを押した。
「…もしもし、なに」
少し八つ当たり気味に強く言う。そんなことしたって事実は変わるはずないのに。
「大丈夫?声震えてるよ」
相手は幼馴染の優しい声だった。いつもの心配な時に出す声だ。私の異変にすぐ気付くなんて流石だなと思いながら、心の中は少し落ち着きを取り戻していた。
「今どこ?迎えに行く」
その声の後ろでは、カザゴソと行く気満々の音が聞こえる。私は言われるがままに場所を伝え、電話を切った。

先程までぼやけていた視界も少しは文字が見えるぐらいに晴れている。
「ごめん遅れた。で、どうしたの。」
人影が少ない橋の下でしゃがみこむ私に、彼は声をかけた。その声はとても暖かくて落ち着く声だった。
私はその言葉に流され、思うままに気持ちを吐き出す。乾いていた目尻もまた温かくなって視界がぼやけはじめる。
本当に先輩が好きだったこと、泣いて去る自分が悔しかったこと、気持ちを全て話した。
幼馴染はずっと黙って聞いてくれていた。

「…ありがとう、スッキリした」
目はもうカラカラ。私はそう笑って言った。
やはり人間は辛いと吐き出した方がいいな。改めて気付く。
彼は私の手を握る。
「辛かったね。大丈夫だよ。あの女、ブランド物しか目なかったし。アイツらお似合いだよ。」
耳を疑った。
私は女の容姿については一切話していない。
確かに高級そうな服やバッグを持っていたが、何故幼馴染の彼が知っているのか。

「実はさ、あの人たち僕がくっつけたんだ。昨日告白させた。」
嬉しそうに話す彼に頭が真っ白になる。
彼は私の恋を応援していたんじゃなかったのか。協力しようと言ったのは嘘だったのか。
彼の言葉に理解出来なくて混乱する私。

この人は危険だ。それだけはすぐに分かった。
─逃げなきゃ
早くこの場を去ろうと足を動かした瞬間、彼に腕を掴まれる。
「ごめんね。全然僕に振り向いてくれなかったから。」

【ごめんね】

5/29/2024, 4:40:49 PM