まさか、こんなことになるなんて
君を照らす月の光によって、君は狼になっている
僕は君のことを親友だと思ってたんだけど、君にとって僕はただの餌だったんだな
悲しいよ
それにしても、人狼が本当にいるとは
目の前で変わってしまった親友の姿を見ながら、僕は二足歩行の狼もかっこいいもんだな、などとのんきなことを考えていた
たぶん、信じられない光景のせいで感覚が麻痺してしまっているのだと思う
人狼は僕を食い殺すために、ジリジリとこちらへ歩を進める
僕が逃げる素振りを見せた瞬間、飛びかかるつもりだろう
まあでも、襲われたのが僕でよかった
他の人が食い殺されたら、心が痛む
それに……
僕ならこいつを抹殺できるだろう
怖がらせないために、親友には僕の正体を教えてなかったからな
自分は100%狩る側だと思ってるんじゃないか?
残念ながら、そうはいかない
君は100%狩られる側だよ
なにせ僕は、ドラゴンなのだから
この場所で元の姿に戻るのは、ちょっと色々不都合があるからやめておくけど
人の姿でもドラゴンの力は使える
手始めに闘気を出す
人狼は一瞬でこちらの正体、力量差を察したようだ
全速力で逃げ始める
しかし僕から逃げることはできない
僕は背中から翼を生やし、人狼を追跡
すぐに追いついて人狼を押し倒し、動きを封じた
親友に対してこういうことをするのは、心苦しいけど
この村で人狼の犠牲者を出さないために、僕は口を大きく開け……
灼熱の炎を人狼に向けて放った
頭を焼いたので即死だろう
さらば友よ
君による偽りの友達ごっこはこれでおしまいだ
今度は、君みたいな危険な奴ではなく、もっといい親友ができることを願うよ
ともかく、村人が犠牲にならなくて本当に良かった
親友が人狼だったのは残念だけど、いつまでも落ち込んでいるわけにもいかない
もしかしたら、他の怪物が現れるかもしれないし、この村はドラゴンたる僕が守らないと
それが、この地に加護を与える神との約束なのだから
僕の肌が不規則に焼けている
なぜこんなことになったかって?
木漏れ日の下で長く上半身裸で寝っ転がり続けたからだよ
つまりこれは、木漏れ日の跡だね
なんで木漏れ日の下で焼けるまで寝っ転がってたかって?
よくぞ聞いてくれた
焼くためだよ
しかも普通に全体をこんがり焼くだけじゃだめだ
誰もやったことのない焼け方をしたかった
いわば、僕の体で芸術作品を作ったということ
僕はよく周りから脳筋と呼ばれていてね
筋肉に自信はあるんだけど、頭を使うことやアートなんかは大の苦手なんだ
そんな僕でも、芸術に興味がないわけじゃない
好きな絵だってあるし、音楽なんかもよく聴いている
そして僕自身、作品を作ることにだって興味があるんだ
だけど、例えば僕が犬の絵を描くとしよう
それを見た人は揃ってこう言う
「鬼を描いたの?」
つまり、絵心が無い
いや、絵心だけじゃない
お話を書けば物語以前に文章がおかしくなり(物語でない文章は普通に書けるのに)、粘土をこねさせればただの岩の塊だ
ここまで聞けばわかる通り、僕に芸術の才能はない
そんな僕でもできそうなアートを思いついた
それが木漏れ日を利用した不規則な日焼けだったというわけ
バカなやつに見えるかい?
けれど、芸術っていうのは自由だと、誰かが言っていた気がする
何事も挑戦してみることが大切なんじゃないかな?
例えバカバカしく思えることでもね
それにこの日焼け、現代アートとしてはなかなか面白いんじゃないかと、僕は思っているよ
他人に評価されるかどうかは知らないけど、僕が満足するためのものだから、刺さる人がいなくても、別にかまわないのさ
「来てないようだね……」
婆ちゃんが少し寂しそうに言った
ここは無人島
普通の方法ではたどり着けない聖域で、私はどうやってここへ来たのかわからない
少なくとも、船には乗らなかった
ただ、婆ちゃんについていっただけだ
つくまでの記憶も曖昧で、正直、夢の中にいるような感覚
婆ちゃんは、昔、親友とささやかな約束をしたらしい
この場所へ、子供と孫を連れてくると
そしてここが、親友と会える唯一の場所らしい
「婆様、ガッカリするのは早いだろう
俺たちが来たからって、あちらさんも同時に来るとは限らないんだからな」
お父さんが落ち着いた声で婆ちゃんを元気づける
こういう時のお父さんは心強い
「そうだけどね、あいつは時間に対して真面目だったから、心配でね」
婆ちゃんはそれでも不安なようで、珍しくそわそわしている
「向こうの生活が忙しくて、忘れちまったかもしれない」
「たしか、この世界とは全然違う法則の世界に住んでるんだよね」
「法則の違う世界、か
想像もつかないな」
婆ちゃんから昔、そんな話を聞いた
婆ちゃんが若い頃、この島へ迷い込んだ時、別の世界から来たという人に助けられたという
そしてこの島への行き方を教えてもらい、定期的に交流をするようになったそうだ
ただ、出会ってから10年ほど経ったある日、婆ちゃんは親友から、長い間会えなくなると告げられた
向こうの世界でやるべきことがあると
「それで今日この日、お互いの子と孫を連れて来て、共に再会を喜ぼうって約束したんだ」
「きっと来てくれるよ
真面目なんでしょ?
約束は破らないって」
「そうだね
待つとしよう」
私の言葉に、婆ちゃんがそう返した直後、目の前が光り、婆ちゃんと同い年ぐらいの女の人が、大人二人、子供三人と現れた
「待たせてごめんなさい
やるべきことがなかなか片付かなくて、遅れてしまったわ」
この人が婆ちゃんの親友
落ち着きのある上品な人だな
見たことのないキレイな服を着ている
他の人たちは、たぶん子供と孫だろう
「いいんだよ
こうして来てくれたなら
兎にも角にも、まずは再会を喜ぼう
また会えて嬉しいよ」
「私も、またあなたに会えて嬉しい」
二人はとても穏やかで、だけど、喜びが溢れ出てきているとわかる笑顔で抱き合った
「さて、時間はたっぷり作ってきたから、ゆっくりと語り合いましょう
みんなでね」
「久々にあたしの魔法による武勇伝でも、あんたの子や孫らに聞かせてやろうかね」
あの話か
ちょっと刺激が強い気がするけど
「それなら私は、ロボットを駆って暴れた時の話をしようかしら
もう引退しちゃったけどね」
ロボットか
婆ちゃんから聞いたことがあるけど、よくわからなかったんだよね
本人から聞けば色々わかるかな
さて、これから九人でたくさん話をするんだ
せっかくだから楽しまないとね
人の心は、他人が知ることはできない
できるのはただ、推測することだけである
「皆さん、この世界のため、平和を神に祈りましょう」
神官が教会に集まった信徒たちに、そう促す
今日はこの宗教の信徒たちにとって、特別な日である
皆で心を合わせ、神に平和を祈り、平和のために力を尽くすことを誓うのである
祈りの果てに、世界平和が訪れると信じて
しかし、本当に皆が平和を祈っているのだろうか?
人の心の中はわからない
しかし、今回は特別に祈る信徒の心の声を覗いてみよう
ある信徒はこうだ
(神よ、私は遊んで暮らしたいのです
私を大金持ちにしてください)
世の中やっぱり金である
金は誰しも欲しいものだ
彼は欲望にとても忠実だった
この信徒はどうだろう
(会社の嫌な上司がやらかしてクビになりますように)
世界の前にまずは自分の平和を守りたかったようだ
これは本人にとっては死活問題
祈りたくもなるというもの
もう少し見てみよう
(ライブのチケット!
ライブのチケット当ててください!
解散ライブだから!)
彼女は自分が好きなバンドの解散ライブのチケットが望みのようだ
当たれば一生の思い出になることだろう
さあ、次の信徒はどのような祈りを捧げるのか
(楽して小説が書けるようになりたいです!
努力とか絶対にしたくないんです!)
夢のための努力は大切だが、それは時に苦痛を生む
彼はもしかしたら頑張ることに疲れてしまったのかもしれない
見たところ、とても自分に正直な信徒たちのようだ
では、聖職者たる神官の心を覗いてみよう
彼は敬虔な信徒として、皆とは違い平和を祈るのだろうか
(なにが神だバカヤロー
そんなもんいてたまるかクソが)
彼は敬虔ではなかったようだ
神をまるで信じていない
なぜわざわざ信じていない神の神官をやっているのだろうか
他に進む道があったように思えるが
さて、誰も彼もが己の願望ばかりで全く世界平和を祈らない
しかしそれでいい
それでこそ我が信徒たち
我が信徒たちはそれくらいでなくては困る
私に仕える者たちはこうでなくては
私は彼らに信仰される神として誇らしい
これからもそのままの信徒たちでいてくれ
そうすれば、私は退屈せずに済む
心の迷路に迷い込んだ
この迷路、いくら歩いても、どこを歩いても、出口に辿り着かない
歩きながら、ひたすら自問自答を続けて迷いから解放されなければ、出ることは叶わないという迷路
問題は、僕は自分の心の迷いに覚えがないということだ
なぜ迷路に迷い込んだのか理解できない
悩みは……無いとは言わないけど、正直そんなに重要視していないし、なんなら最終的にはどうでもいいとさえ感じている
そんな楽天的な思考の僕が、こんな心の迷路に飛ばされるほど、何を迷い悩んでいるというのか
たぶん、自分で気付かないほど心の深い部分に悩みがあるんだろうけど……
面倒なことこの上ないな
まずは自覚するところから始めないといけないとか
最近嫌なこととかあったっけ?
友達に延々自慢話を聞かされて、どうしてくれようかと思ったこと?
違うな
たしかに頻繁に自慢話を披露してくるけど、ウザさは感じても悩むまでは行かない
趣味の歌がうまく上達しないのは……まぁ趣味だし、自分が気持ちよく歌えればよくないかな?
音痴ってわけじゃないしねぇ?
うわぁ、わからない
悩みを見つけることに悩みそうだよ
いや、悩みとは限らないか
心の迷いだもんな
なにか、二者択一とかで迷っていることがあったかな?
あったな
いやいや、でもまさかそんなちょっとしたことで心の迷路に入るかな?
いや、僕にとってはたしかに重大だ
なにせ、もう1人の自分を作るようなものなんだから、しっかり決めないと
メタバースでのアバターの僕の名前
犬太(いぬた)にするか、描猫(びょうびょう)にするか
これは非常に迷う
ストレートに名前っぽく犬太もいいし、変わった方向性で描猫も面白い
人からしたらどっちでもいいわと言いたくなるだろうけど、これはしばらくは迷路から出られなさそうだ
ま、迷いを自覚出来ただけ前進できたかな