ストック1

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「来てないようだね……」

婆ちゃんが少し寂しそうに言った
ここは無人島
普通の方法ではたどり着けない聖域で、私はどうやってここへ来たのかわからない
少なくとも、船には乗らなかった
ただ、婆ちゃんについていっただけだ
つくまでの記憶も曖昧で、正直、夢の中にいるような感覚
婆ちゃんは、昔、親友とささやかな約束をしたらしい
この場所へ、子供と孫を連れてくると
そしてここが、親友と会える唯一の場所らしい

「婆様、ガッカリするのは早いだろう
俺たちが来たからって、あちらさんも同時に来るとは限らないんだからな」

お父さんが落ち着いた声で婆ちゃんを元気づける
こういう時のお父さんは心強い

「そうだけどね、あいつは時間に対して真面目だったから、心配でね」

婆ちゃんはそれでも不安なようで、珍しくそわそわしている

「向こうの生活が忙しくて、忘れちまったかもしれない」

「たしか、この世界とは全然違う法則の世界に住んでるんだよね」

「法則の違う世界、か
想像もつかないな」

婆ちゃんから昔、そんな話を聞いた
婆ちゃんが若い頃、この島へ迷い込んだ時、別の世界から来たという人に助けられたという
そしてこの島への行き方を教えてもらい、定期的に交流をするようになったそうだ
ただ、出会ってから10年ほど経ったある日、婆ちゃんは親友から、長い間会えなくなると告げられた
向こうの世界でやるべきことがあると

「それで今日この日、お互いの子と孫を連れて来て、共に再会を喜ぼうって約束したんだ」

「きっと来てくれるよ
真面目なんでしょ?
約束は破らないって」

「そうだね
待つとしよう」

私の言葉に、婆ちゃんがそう返した直後、目の前が光り、婆ちゃんと同い年ぐらいの女の人が、大人二人、子供三人と現れた

「待たせてごめんなさい
やるべきことがなかなか片付かなくて、遅れてしまったわ」

この人が婆ちゃんの親友
落ち着きのある上品な人だな
見たことのないキレイな服を着ている
他の人たちは、たぶん子供と孫だろう

「いいんだよ
こうして来てくれたなら
兎にも角にも、まずは再会を喜ぼう
また会えて嬉しいよ」

「私も、またあなたに会えて嬉しい」

二人はとても穏やかで、だけど、喜びが溢れ出てきているとわかる笑顔で抱き合った

「さて、時間はたっぷり作ってきたから、ゆっくりと語り合いましょう
みんなでね」

「久々にあたしの魔法による武勇伝でも、あんたの子や孫らに聞かせてやろうかね」

あの話か
ちょっと刺激が強い気がするけど

「それなら私は、ロボットを駆って暴れた時の話をしようかしら
もう引退しちゃったけどね」

ロボットか
婆ちゃんから聞いたことがあるけど、よくわからなかったんだよね
本人から聞けば色々わかるかな
さて、これから九人でたくさん話をするんだ
せっかくだから楽しまないとね

11/14/2025, 11:41:21 AM