春色といえば桜のピンク
夏色といえば海の青
冬色といえば雪の白
では僕のイメージで秋色はなにかというと……
他の季節と違って、オレンジ、黄色と、色の系統こそ同じものの、異なる二色を連想してしまう
秋の象徴として紅葉とイチョウの二つが頭に出てくるからだろう
唯一、ふたつの色をイメージする季節
これだけで秋にちょっとした特別感を感じる
あと、秋だけ違うといえば、僕は春、夏、冬は昼間をイメージするんだけど、秋は夕方の情景を思い浮かべるね
オレンジっていうのは、そこからも来ているのかもしれない
ただ、どうして夕方が思い浮かぶのか、その理由はよくわからないな
秋だけ違うと感じるのは、それだけじゃない
他の季節は、明るくてポジティブな雰囲気があるような気がする
あくまで僕の感じ方だけど
一方秋は、大人しくて少し切ない雰囲気をまとった季節だと思う
こういった印象はいったいどこから来るのだろう?
なかなか答えは出ない
まあ、理由なんてものはどうでもいいか
最近はあるのかないのかわからない、みたいに思えることもあるけど、たしかにまだある秋は、他の季節に負けない魅力に溢れた季節だと思う
もしも世界が終わるなら
……くだらないもしもの話
そう思っていた
それなのに、今では現実になってしまっている
あとどれくらい持つんだっけ、この世界?
「二日ですね
あと二日で完全消滅してしまいます」
その短い間に、残りの住人の魂を回収しろってことだね
私はこんなハードで責任の重い仕事、したくないんだけどしかたない
私と相棒にしかできないから
古代に封印されてた大量の魂を刈り取る禁断の魔法を改造して、別の生まれたての世界に刈り取った魂を転生させられるようにしたしたらしい
今はもう魂だけになった七賢者の皆さんがね
私と相棒はその魔法を使いこなせた
なんか、使いこなせた
七賢者は改造しといて使いこなせず、魔法を発動する道具だけ私たちによこして、とっとと魂を刈り取られてもう転生待ち
それにしても、間に合うのかなこれ
「元が大量殺戮兵器ですからね
残り人口を考えれば、順調にいけばギリギリ間に合いますね
問題は、私たち以外この道具が救済のための物だと理解していないことです
刈り取る時の罪悪感、ハンパない」
私たち、世界終焉を前にして狂ったテロリスト扱いだもんね
刈り取るのがかなり心苦しくて、精神的にだいぶキツい
いいことをしてるはずなのに
「それでも、やるしかないですよ
生かすために一度殺すのです」
そうだね
あなたがいてよかったよ
ひとりじゃ病んでただろうから
「それは私も同じことです
感謝してますよ」
ところで、全員終わったらどっちから先に死ぬ?
「私があとから新しい世界に行きますよ
あなたでは私の魂を刈り取る仕事、とんでもなく苦痛で悲しいでしょうから」
そこまで考えてくれてたか
ありがとうございます!
じゃ、遠慮なく殺されるよ
でも、あなたは平気なの?
「余裕ですよ
状況を理解してる人が相手ならね」
そこは割り切れるんだね
「ま、全ては世界に残り二人だけにならなきゃ、しょうがないですけど」
そうだね
じゃ、残る魂をサーッと刈り取って転生させますか!
私は一流暗殺者
今回のターゲットは敵組織の暗殺者
同業を相手にするなら、一切の油断は捨てなければならない
なぜなら、相手も暗殺のなんたるかを心得ているから
暗殺者は暗殺するだけではない
暗殺を防ぐ方法も熟知している
いかにして相手の警戒をかいくぐり、暗殺を成功させるかの勝負となる
暗殺方法は絞殺
紐をかけ、一気に首を絞り、殺害するのだ
ごく自然な流れでしゃがみ、靴紐を抜いて、目の前で背中を見せるターゲットの首にかけようとして……転んだ
盛大に
大きな音と悲鳴を上げて
暗殺は失敗した
ヤバい、死ぬ
殺される
ターゲットは私を見下ろし、しゃがみながらぬっと手を伸ばして……
私の手を取ると立ち上がらせた
え?
「お前、もうちょっと頑張ったほうがいいよ?」
渋い声と哀れみの目でそう言うターゲット
「返り討ちにしようと、最初は思ってたんだがな、やめだ
あまりにもお粗末な尾行と、アホみたいな暗殺方法だったから、正直こんな腕で仕事任されてるのかと思って、敵意より可哀想が勝るよ」
お粗末?
アホみたい?
「そ、そんなわけない!
私は一流暗殺者!
ボスだって、お前なら奴を仕留める一助になれるだろうって言ってたし!」
一助って意味は知らないけど、一番役に立つとかいう意味だろう、たぶん
「一助は少しの足しって意味だぞ
使い捨てる気満々じゃないか
さっきから俺の隙を伺ってる連中がいるし、お前で俺の気を引いて足手まといのお前ごと始末するつもりだったんだろうぜ」
え、嘘
私、この人を殺すための生贄にされそうになってた?
ていうか、他に組織の人来てたのか
気付かなかった
「とりあえず、特別にお前を助けつつ連中を返り討ちにするから、そこでじっとしていろ」
そう言うと、ターゲットは私の靴紐を拾い、私を物陰に隠した
すると、私の組織の人たちが数人、拳銃片手に現れる
本当にいるよ
これはもう射殺されるんじゃないかな?
しかし、誰も銃を撃たない
「撃てないだろ?
俺の体にはダイナマイトが巻き付けられてるからな」
なんて恐ろしい防御方法を
なにかの事故で爆発したらどうするのか
それでもターゲットは気にせずに、堂々と歩く
「いいか?
靴紐はこう使うんだ」
私にそう言うと、一人のもとへ走り出して、素早く右腕を靴紐で絡めとると、そのまま相手の手をひねって、離した銃を奪う
その後は早かった
周りの敵全員を目にも止まらぬスピートで射殺していき、最後に自分が銃を奪った相手にとどめを刺した
す、すごい
「ま、こんなところか
さて、もうお前は組織には戻れんだろう」
「使い捨てられたわけだからね……」
「じゃあ、俺の組織に入れ
お前を一流の暗殺者に育ててやる」
他に選択肢のない私は、素直に従うことにした
ああ、まさかこんなことになるなんて
でも、死ななくてよかった
この人に付いていけば、一人前になれるかな
これから頑張らないと
せっかく助けてもらえたのだから
答えは、まだもらっていない
勇者側につくのか、我々魔族側につくのか
人類の英雄たる彼は、きっと勇者を選ぶ
たとえ今回現れた勇者が、強い野心を抱いていたとしても
彼は人類の英雄としての働きを期待されているのだから
私たちは勇者を倒し、戦いを終わらせなければならない
人類を救うために
あの勇者は危険だ
勇者らしからぬ、邪悪な野望を持つ
そもそも、魔族は人類が同族争いで滅ばないために、脅威として存在している
我々という共通の敵の前で、人類はひとつとなるから
我々はそういう役目の存在なのだ
しかし、あの勇者は魔王である私を倒し、その力を奪おうとしている
魔王の力で世界に覇を唱え、自らの望む世界を作ることを目的として
勇者の望む世界
それは、戦いの終わらない世界
勇者は戦争が好きだった
自分が前線で戦うのも、策を練って侵略するのも
戦いこそ、彼にとって最も楽しい娯楽
その結果、世界が滅んでも勇者は本望なのだ
世界のバランスを保つために戦う我々とは、理由が全く違う
英雄がいてくれれば、あの歴代の中でも突出した力を持つ勇者を倒せる可能性が高まる
だからこそ、交渉をしたのだ
ただ、望みは薄いと思う
なぜなら、彼は人類の英雄だ
たとえ断られたとしても、私は恨むことはない
そして彼と刃を交えることになっても、ためらわない
我々は、我々の使命を果たすのみ
英雄は来た
答えはまだだが、彼から勇者側につくと告げられる覚悟はしている
……私の前に現れた英雄は、魔族の紋章が描かれた盾を掲げた
私は目を見開く
魔族の紋章を掲げる
それの意味するところは、魔族として同志たちと共に戦うという意思表示
彼は勇者を敵とし、我々とともに歩むことを決断してくれたのだ
彼の目からは、とても強い意志が感じられた
我々に、頼もしい仲間が増えた
私は最大限の感謝を英雄に捧げる
さあ、この先の戦い、絶対に負けるわけにはいかない
我々魔族は英雄とともに勇者を倒し、人類を守る
俺たちの動画投稿アプリでのグループ名は「センチメンタル・ジャーニー」
子供の頃、親戚が失恋がきっかけで独り旅をしたことに由来する
その際、「こうなったらセンチメンタル・ジャーニーだ!」と親戚が言っていたのが、強く印象に残っていたのだ
仲間も、かっこいい響きだと賛同してくれてこのチーム名となった
決して、かの有名な昭和アイドルの名曲が由来ではない
というかチーム名にした時、俺たちはその曲を全く知らなかったのだから、由来になりうるはずがないのだ
親戚の発言は曲の影響を受けた可能性はあるけども、それはまた話が違うだろう
しかし、偶然有名なものと同じ名前にしてしまった宿命か
曲が由来だと大勢から勘違いされる
毎回いちいち否定しているが、ソースもないのに思い込んで由来だと断言してしまう人もいるため、なかなか誤解が解けない
おまけに、俺たちが活動を開始した年齢も勘違いに拍車を掛けている
曲を知っていて、勘のいい人ならだいたいの想像はつくんじゃないだろうか
そう、活動開始した時の年齢は16歳だったのだ
よりによって16歳
曲の中でも16歳というワードが最も目立つ形で出てくる
これでは勘違いするなと言う方が難しい
しかしそれでも、無関係なものは無関係なのだ
俺たちはこれからも勘違いの由来を否定していこうと心に決めている
決めているのだが……
さすがにウィキペディアの記事に曲が由来だと記述されていたのを発見した時は、心が折れかけた
後日見たらちゃんと正しい由来に修正されていたので、よかったけれど
もういっそ正しい由来を広めるため、由来ではないとアピールしつつ逆に歌ってみた動画をアップしてみるのも手か
まあ、別に由来を勘違いされても、問題はないといえばない
ただ、自分たちの間違った情報が広まるのって、実害のあるなしに関わらず、なんか嫌じゃないか?
俺はこのままではスッキリしないので、しつこく正しい由来を広める活動をしていきたい
そんなことより他に情熱を傾けることがあるだろうという意見は無しで頼む