ストック1

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8/30/2025, 11:30:44 AM

ふたりがどこから来たのかはわからない
具体的に、どういう存在なのかも
ただわかることは、普通の人間は頭の上に輪っかなど無いし、翼も生えてない
それから、私以外の人間からは見えないなんてこともあり得ない
人のようで、明らかに人でないもの
ふたりは人間の生活を見に来たらしい
ふたりが仕える存在が、長らくこの世界を見られない状態になっていて、その存在が頑張ってギリギリふたりを送り込めたのだと説明された
その存在がなんなのか、私にはよく理解できなかったけど
このふたりも、このふたりが仕える存在も、世界が混沌を極めているのではないか、すでに滅んでいるのではないかと心配していたそうで、なるべく急いでやって来たそうだ
でも、この世界は今、至って穏やか
気の遠くなるような大昔には戦争とかが起きていたらしいけど
現代では、サイモンの夢という複数のシステムによって、人々が適度に快適な生活を送れるような社会が構築され、資源や土地などを巡って争うこともない
ふたりは興味深そうに、見て回っていた
色々なことを知りたがったから、私は世界のさまざまな情報が集まる、ライブラリーを勧めた
私が端末を操作して、ふたりの興味の赴くまま、情報を調べる
そんな感じで何日間も、私はふたりとともに街を回ったり、情報を調べたりした
なぜふたりは自分たちで自由に動かず、私について来るのだろう
そう思って聞いてみるとふたりは、誰かに認識されないとここでは活動できないのだと話した
だから、私にだけ姿が見えるように現れ、認識してもらったのだと
他の人に見えなくしたのは、混乱を起こさないためだと言われ、納得する
一ヶ月ほど経った時、ふたりはそろそろ帰ると告げた
仕える相手に、いい報告が出せそうだとのこと
それが終われば、次は別の世界の観測をしないといけないようで、まだまだ忙しさは続くらしい
その世界、住人からは地球とかアースとか、様々な呼ばれ方をしているとかなんとか
まあ、私には関係ない
ふたりは、サイモンの夢が安定してるなら、この世界は大丈夫だろうと言うと、感謝の言葉を残してどこかへ去っていった
本当に、不思議なふたりだったな
また来るようなことを言ってたから、また会えるかな
できることなら、また会いたい

8/29/2025, 10:38:53 AM

心の中の風景は、本当に綺麗で
これから始まる冒険に胸踊らせていた記憶がある
当時はすごく美しい風景だったんだ
本気で綺麗だと思っていたんだ
これが思い出補正ってやつか
いまやレトロゲームと呼ばれるそのゲームソフト
久々にプレイしてみようと起動してみたら、なんということか
思ってたのと違う景色が広がっていた
けっこうカクカクしている
記憶の中ほど美しくない
広いと思ってたけど、なかなかに狭い
他にも、巨大に感じていた物が、意外と小さかったりな
俺の感覚では壮大で、オープンワールドと比較対象になるとはさすがに思ってないけど、かなり広いよね、と思っていたゲームの中心となる最も大きいマップ
今改めて走ると、狭苦しくて端まですぐ着く
体感、セミオープンワールドのひとつのエリアより狭い
俺は記憶と現実の落差にショックを受けた
一番ショックなのは、美麗なグラフィックに慣れすぎて、レトロな3Dゲームの絵をしょぼく感じてしまう自分自身だ
この景色に美しさを感じてワクワクしていたあの頃の俺はどこへ行ってしまったのだろう
けど、実際ゲームを進めてみたら、グラフィックの質なんてものは気にならなくなった
不便さはあるものの、相変わらずひたすらに面白い
そしてキャラクターの演出だが、むしろこのグラフィックだからこその、限られた表現から繰り出されるドラマ性のようなものの虜になっていく
今ならグラフィックの粗は欠点ではなく、個性だと思える
そういえば、わざと昔のゲームのグラフィックレベルに落としたインディーゲームがあるって聞いたことがあったな
やっぱり、魅力に感じる何かが、綺麗なだけでは表せない何かがあるんだろうな
ドット絵だって未だに現役だし
さて、改めてこのゲームの魅力に気づけた俺は、ノリノリでプレイを続行するのだった
やっぱりこのゲーム、最高だ

8/28/2025, 11:10:57 AM

ここにはかつて、私の城があった
今や、とても広い範囲に夏草が生い茂るだけの場所になっているけれども
現在、私はただの旅人
特別な生まれでもなく、特別な力を持っているわけでもない
しかし前世は一国の王だった
私の治めていた国は、少なくとも私がかつて王として生きていた間は繁栄していたはずだが、長い年月をかけ、滅んでしまったようだ
ここは今は別の国の領土となっている
自分の城の跡地がどんな状態か気になっていたのだが、事前の情報通り何もなかったな
だが、私の目的はそんなことを確認することではない
前世で私が命がけで封印した悪魔がどうなったのか、それが重要だ
まさか封印が解けたなどということはあるまい
奴は当時、私の精神を乗っ取り、この王国で好き放題しようとしていたらしいが、残念ながら私は悪魔に対する対処法を心得ていた
対悪魔の魔法の勉強が趣味だったからだ
しかし奴は強く、私では封印するので精一杯だった
今生において、私は悪魔の所在が心配でしかたなく、ようやく都合がついてここまで来たのだ
私は生い茂る夏草の中へ入っていく
かつてより弱まっているものの、悪魔の気配を感じる
やはりまだ封印されているようだ
封印を強化して、この国のしかるべきところへ悪魔の存在を伝えよう
そう思って気配の方へ近づくと、弱々しい仔猫がいた
こいつ、悪魔だな
なぜ仔猫になっている?

「貴様、かつてのジェームズ2世だな?」

「そういう貴様はあの時の悪魔だろう?
そんな姿で何をしている?」

「頼む、我のここまでの経緯を聞いてくれ」

なんだか、こいつには危険性を一切感じなかったので、経緯とやらを聞くことにした
悪魔曰く、封印を解くために様々な魔法を長い年月、試し続けたそうだ
だが私の封印が思ったより強かったらしい
それは私も知らないことだった
私はかなりの実力者だったのか
ともかく、封印を解く方法を試しすぎて魔力が底をつきそうになったのだ

「しかも気づくのが遅れたが、恐ろしいことに、我は魔力を取り込む力が貴様との戦いで失われてしまっていたのだ
後遺症というやつだな
で、なんとか対悪魔封印から脱するだけでも実現するために、残る魔力で体の悪魔要素をできるだけ薄めた」

その結果、仔猫の姿に肉体が再構成されたらしい
残念なことに、魔力が尽きて体が動かなくなって、三十年間夏草の中で倒れていたようだが

「我はもはや悪魔的な行為はできん
しかも悪魔ですらない
ちょっと悪魔成分があるだけの特殊な仔猫だ
飼ってくれ」

正直断りたいが、本当に危険がないのを感じるのと、仔猫の姿で潤んだ目を見せられては、放置するのは良心が痛む

「悪さは絶対にするなよ?」

「やりたくてもできんし、もはややる気もない
貴様に永い時間封印されたのがトラウマになっている」

ならばいいか
私は仔猫化した悪魔を家族として迎え入れることにした

……のちにこの悪魔、いつの間にか力を取り戻していたのだが、私と暮らす中でなにか感化されたようで、その力を人のために振るうようになっていた
そもそも、途中から悪魔のくせに気配が天使のそれに近かったので、もはやこいつは善性の存在に生まれ変わったようだ

8/27/2025, 12:14:02 PM

「お前の探しているものがここにある」

俺は特に何も探していないが

「そんなこと言うなよ
この店すごいらしいから」

俺は無駄金は使いたくない
欲しいものがないのに素晴らしい店に入って、ノリで買ってしまうなんてことは避けたいんだが?

「大丈夫
今、欲しいものがなくても、店で見てこれいい!ってなったら、それはもはや欲しいものがあるってことなんだよ」

だから、俺はそういう感じで買いたくないんだよ
買いたいものがなかったらそもそも店に行かないタイプなんだ

「お前はそれでいいのか!
この店は何でも揃ってるんだぞ!
きっとお眼鏡に叶う掘り出し物がある!
なぜならこの店にないものはない!」

ないものはない
つまり、俺の元々ない欲しいものもないってことだ
はい、解散

「バッカヤロウ、そっちのないものはないじゃない!
すべてのものがあるって意味だ!」

そんな店があるもんか
もしあったらなんらかの都市伝説的な店だよ
絶対なにか怖ろしげな代償を払わされるだろう

「代償は金だけだから安心しろよ
たしかに値段は高いけど、それくらい価値あるものしかないらしいから
行こうぜ
あと、都市伝説を怖がれる立場か、俺たち?」

都市伝説が都市伝説を怖がっちゃいけない理由はないだろ
口裂け女さんだって、メリーさんにストーキングされたらビビると思うよ?
むしろ、俺たちは命を失ってる分、何を奪われるかわかったもんじゃない
第一、俺たちみたいに夜道を歩く人間に生前の愚痴を話す、少し迷惑だけど目立った害のない弱小都市伝説なんて、なんかあったら一発で潰されるだろう
その危険を考えると、行きたくないよ

「でもさあ、この間口裂け女さんが貯金をけっこう使って買い物したらしいんだよ
でもすごくいい買い物だったってウキウキで語っててさあ」

あー、口裂け女さんがそんな感じなら、行ってみようかな
あの人なら信用できるし

「それがいいよ
お前の欲しいものがきっとある!」



在庫が何もないな

「そういえば、口裂け女さん、最初は何もないけど、そのうち欲しいものが現れるって言ってたっけ」

俺、欲しいものないんだけどな
出てくるのか?

「おっ、俺の欲しいものが出た」

なにそれ、チケット?

「これをレジに出して引き換えるみたいだな」

お前は何が欲しかったんだ?

「命」

え?
生き返るつもり?

「俺の本心は、そうみたいだな
気づかなかったけど
1000万霊円か
ギリギリ、俺の貯金全額近くで買えそうだ
とはいえ、この値段とは安い命だ」

そうか
少し寂しいけど、今度こそ長生きしろよ

「引き止めないのか?」

そりゃ、友人の夢が叶うなら、後押しするのが当たり前だからな

「ありがとな
で、お前は何か出ないのか?」

出た
ああ、たしかにこれは、俺の欲しいものだな

「ハハハ、お前らしいな」

お前の相棒として蘇る権利、か
結局、ここでお別れとはいかないな
値段が思ったより安いんだけど、お前の相棒としての命ってそんなに価値ない?

「本当だ
俺の命ともどもひどい値段だぜ
ま、でも買えない値段じゃなくてよかったな」

それにしても、この店はなんなんだろうな

「ここ、どの都市伝説に聞いても正体は知らないらしい
一説によると、都市伝説とは別ジャンルの超常現象グループが、活動資金を得るために開いてるんだってよ」

ああ、海外に似たような存在がいるらしいな
詳しくは知らないけど
ま、なんにせよ、俺たちは都市伝説じゃなくなるから、この店ともこれっきりだな
最後に他の都市伝説の人たちとお別れしたかったが、しょうがない

「でもきっと、生き返った俺たちを影で祝福してくれるさ」

なんか、想像できるな

「次こそは頑張るぞ!」

だな



「なあ、これどういうこと?」

相棒ってことだろ?

「双子を相棒っていうか?」

言わないな
ただの兄弟だな
俺は冴えない顔からお前似の爽やかイケメンになれて満足だよ
お前の顔、前から羨ましかったんだ

「瓜ふたつのタイプの双子かぁ……」

戸籍も変わってたな
ここまで現実を改変するなんて、すごい霊力だよな

「まあ、問題なく蘇れたのはいいけど、お前にはもっとこう、親友ポジションになってほしかった」

こうなってしまったものはしかたない
これからは兄弟としてよろしく頼むぜ、相棒

8/26/2025, 10:57:25 AM

私は銭湯や温泉などが好きだ
銭湯はたまにふらっと行ったり、旅行先では必ず温泉にも入る
しかし、矛盾しているように思えるだろうが、私は入浴という行為に関して面倒臭さを感じる部分がある
入る事自体はもちろん好きだ
だがその前の服を脱いだり、出る際に体を拭く、服を着る、髪を乾かすといった行為が非常に嫌いである
いや、服を脱ぐのはまだいい
入る前だからな
さんざん楽しんだあとに、なぜあれほど面倒なことをしなければならないのか
そのせいで、銭湯や温泉を純粋に楽しめない自分がいる
まさに玉に瑕
あの時間さえ無ければ完璧なのに
だが、そんな私に朗報だ
そんな面倒なことをしなくても済む風呂がある
しかも、それは場所によって無料で入れることも多い
入ったあとは、手間とも言えないちょっとした行動をするだけで済む
そこは、そもそも服を脱がない
服は着て、靴と靴下だけを脱ぎ、素足のままで入ることができる風呂
そう、足湯だ
たしかに、全身が浸かる風呂よりは感じる気持ちよさが少ない
しかしそれ以上に、気軽に入れるのが魅力的じゃないか
入ったあとはタオルで足だけ拭けばいい
温泉や銭湯をラーメン屋のラーメンと例えるなら、足湯は手軽なインスタントラーメン、といったところか?
ともかく、以前は全身を浸からせないなんて、と思っていたが、試しに入ってみるとどうだ
これは私が充分満足できる、立派な風呂ではないか
温泉、銭湯、そこに足湯が加わり、私の入浴ライフはさらに充実したのだ

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