ここにはかつて、私の城があった
今や、とても広い範囲に夏草が生い茂るだけの場所になっているけれども
現在、私はただの旅人
特別な生まれでもなく、特別な力を持っているわけでもない
しかし前世は一国の王だった
私の治めていた国は、少なくとも私がかつて王として生きていた間は繁栄していたはずだが、長い年月をかけ、滅んでしまったようだ
ここは今は別の国の領土となっている
自分の城の跡地がどんな状態か気になっていたのだが、事前の情報通り何もなかったな
だが、私の目的はそんなことを確認することではない
前世で私が命がけで封印した悪魔がどうなったのか、それが重要だ
まさか封印が解けたなどということはあるまい
奴は当時、私の精神を乗っ取り、この王国で好き放題しようとしていたらしいが、残念ながら私は悪魔に対する対処法を心得ていた
対悪魔の魔法の勉強が趣味だったからだ
しかし奴は強く、私では封印するので精一杯だった
今生において、私は悪魔の所在が心配でしかたなく、ようやく都合がついてここまで来たのだ
私は生い茂る夏草の中へ入っていく
かつてより弱まっているものの、悪魔の気配を感じる
やはりまだ封印されているようだ
封印を強化して、この国のしかるべきところへ悪魔の存在を伝えよう
そう思って気配の方へ近づくと、弱々しい仔猫がいた
こいつ、悪魔だな
なぜ仔猫になっている?
「貴様、かつてのジェームズ2世だな?」
「そういう貴様はあの時の悪魔だろう?
そんな姿で何をしている?」
「頼む、我のここまでの経緯を聞いてくれ」
なんだか、こいつには危険性を一切感じなかったので、経緯とやらを聞くことにした
悪魔曰く、封印を解くために様々な魔法を長い年月、試し続けたそうだ
だが私の封印が思ったより強かったらしい
それは私も知らないことだった
私はかなりの実力者だったのか
ともかく、封印を解く方法を試しすぎて魔力が底をつきそうになったのだ
「しかも気づくのが遅れたが、恐ろしいことに、我は魔力を取り込む力が貴様との戦いで失われてしまっていたのだ
後遺症というやつだな
で、なんとか対悪魔封印から脱するだけでも実現するために、残る魔力で体の悪魔要素をできるだけ薄めた」
その結果、仔猫の姿に肉体が再構成されたらしい
残念なことに、魔力が尽きて体が動かなくなって、三十年間夏草の中で倒れていたようだが
「我はもはや悪魔的な行為はできん
しかも悪魔ですらない
ちょっと悪魔成分があるだけの特殊な仔猫だ
飼ってくれ」
正直断りたいが、本当に危険がないのを感じるのと、仔猫の姿で潤んだ目を見せられては、放置するのは良心が痛む
「悪さは絶対にするなよ?」
「やりたくてもできんし、もはややる気もない
貴様に永い時間封印されたのがトラウマになっている」
ならばいいか
私は仔猫化した悪魔を家族として迎え入れることにした
……のちにこの悪魔、いつの間にか力を取り戻していたのだが、私と暮らす中でなにか感化されたようで、その力を人のために振るうようになっていた
そもそも、途中から悪魔のくせに気配が天使のそれに近かったので、もはやこいつは善性の存在に生まれ変わったようだ
8/28/2025, 11:10:57 AM