ストック1

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6/26/2025, 11:09:12 AM

あー、ヤバい
緊張する
なんでこんな大役に選ばれちゃったんだ
僕が希望してたのは別の役回りなのに
始まるのはもうちょっとあとだけど、足が震える
僕には荷が重いよ
これ、僕がミスったら全部台無しだもんな
こんなに緊張してるの、人生で初めてじゃないの?
ていうか、これ絶対みんなが嫌がった結果だよね
決める時、僕は風邪ひいて休んでたからね
こんなの誰もやりたくないっていうのはわかる
わかるんだけどさ
風邪ひいてその場にいなかった僕に押し付けるのは卑怯じゃないかな
まあ、そんなこと言ってもしょうがないけどね
それに押し付けた手前、僕がミスしても責めるに責められないでしょ
だから、そんなに気負わなくても大丈夫かな
……と思えれば楽なんだけどね
僕はそんな楽観視できない、心配症の緊張しいな人間なんだよ
あー、そろそろ始まるぞ
ついに開始だ
僕の出番はまだだ
みんなが頑張る中、棒立ちしていないといけないのは地獄の時間だな
終盤に差し掛かった
もうすぐ僕の出番だ
みんなの合唱が終わるぞ
終わった、今だ!

「ランラララン!!」

最後の締めの歌唱
この最後の声が僕の唯一の出番だった
なんとか、台無しにせずにすんだ
タイミング、音程、ともに完璧!
文句なし
よくぞ緊張に打ち勝った、僕!
周りも、ホッとしたような顔をしている
出番は一瞬だけど、みんなから称えられてもいい働きをしたと思うよ
恐ろしい役回りだったけど、うまくいってよかった
もう二度とごめんだけどね

6/25/2025, 11:34:50 AM

世の中には色々な愛があるわけです
家族のために心を込めて料理を作るのも愛
恋人に喜んでもらおうと、デートの計画するのも愛
誕生日に親友へのサプライズを行うのも愛
同僚を労い、店で相談に乗りながら一緒に食事するのも愛
自分がファンをやっている歌手を応援するのも愛
それらは相手への大きな愛情の成せること
全く知らない相手に対し、親身になって愛情を注げる人など、そうはいないでしょう

しかし、親しい人への大きな愛だけが愛じゃない
そこまで熱心ではないけど、ちょっとした小さな愛を全く知らない赤の他人に与えることもあるはずです
たとえば……
立っているのが辛そうな人に、電車で席を譲る
道に迷っている人に、目的地への道順を教えてあげる
落とし物をした人を呼び止めて、知らせてあげる
ネットで見かけた、素晴らしいイラストにいいねする
買ってくれたお客さんにちょっと商品をオマケしてあげる
そこまで大きくはないけど、これらも愛の形

大きな愛はもちろん、小さな愛だって、きっと世の中では大切な要素でしょう
こうした小さな愛がたくさん積み重なって、人々の励みになったり、大きな愛を育むきっかけになると思うのです
大きな愛だけじゃない
小さな愛だって、受け取った人々の心に刻まれていくはず
注ぐ時も、注がれる時も、大きな愛だけでなく、小さな愛も大切にしていきたいですね

6/24/2025, 11:09:04 AM

空はこんなにも高くて広いのに、人類はそこまで空を有効活用してないよね
してないというか、できてないよね
ヘリや飛行機で飛ぶくらいだよ
と思ったので、僕と同志たちの天才的な頭脳で研究して、浮遊大陸を作った
費やした時間は五年
たったの五年だ
自分でもこれはすごいと思う
さすが天才集団
これぞ才能の無駄遣い
だって、浮遊大陸を何に使うのか、考えてないのだから
とりあえず飛ばして空に移住してみた
でもこれ、勝手に作ったから各国から色々危険視されそうだよね
でも大丈夫
バリアみたいなものも張れるから、ミサイルとかも防げるし、文句言われても食糧の確保など、僕たちの生活は浮遊大陸で完結させられるので、無視を決め込める
僕たちのロマンは国家ごときでは止められない
天空生活最高

と、思うでしょ?
僕たちもここは楽園だ!とか言ってたんだけどね
浮遊大陸ってさ、娯楽全然ないんだよ
ネットにも繋がらないしさ
作ってから気づいたよ
僕たちって天才だけど、すっごい偏った天才と言われていたのを思い出した
定めた目標を達成できるけど、それ以外の部分は全くダメな集団だった
今回も僕たちの考えた最強の浮遊大陸を作るという考えのもと、計画を進めていったけど、ロマンを詰め込むだけ詰め込んで、他の必要な部分は一切考えていなかったのだ
バリアも食糧の安定供給の方法も、必要だったからじゃなくて、楽しいから発明したわけで……
それ以外には手を付けてなかったんだよね
これはうっかりだ
しかも誰も気づかなかった
あと、大陸って言うけど、広さはどこぞのテーマパーク二つ分くらいだから、島です
そんなわけで、僕たちは地上へ帰ることにした

地上では浮遊大陸の話題で持ちきりかと思ったけど、驚くほどなんの話題にもなっていなかった
なんでだろう
そう不思議に思っていたら、仲間の一人が僕たちに内緒でステルス機能を付けていたらしい
外からは何も見えない状態なのだ
驚かそうと待っているうちに、本人も含め、僕たち全員が天空生活に飽きて、バラす間もなく地上に降りたのだそう
うーん、なんの話題もないのは少し寂しいけど、問題にならなくてよかったのかな
今回の浮遊大陸は失敗だったけど、いつか、飽きのこない生活ができる浮遊大陸を作れるといいな
そして、人類の生活の場を空にも増やしてみたい!
ロマンは滅びぬ、何度でも蘇るさ!

6/23/2025, 11:00:38 AM

「子供の頃の夢か
とてもじゃないが、俺は言えないな」

高野さんが、私は何も言っていないのにこっちから話を始めたかのような口ぶりで、なにやら話を始めた
言えないな、と言いつつ聞かれる気満々なところが非常に鬱陶しい
ここで「無理に言わなくていいですよ」などと突き放せば、間違いなく私が聞くまで「言えない夢だったよ」とかなんとかわざとらしく呟くことだろう
話を聞くのも面倒だけど、アピールはうざいことこの上ないので仕方なく聞く

「どんな夢だったんですか?」

「いやいや、さすがに無理よ
他人に話せる内容じゃないって
引くよ?
絶対に引くよ?」

うわ面倒くさ
聞いてほしいなら素直に話し始めてくれないかな
どうせくっだらない内容なんだからさ
さっさと話を終わらせてほしい

「大丈夫ですよ
もとから引いてますから」

「あっはっはっは
辛辣だなぁ」

こういう時はバカみたいな冗談を混ぜることで高野さんは気分が良くなって、すぐに本題に入るのだ

「じゃあ本当に引かないでよ?
俺の子供の頃の夢
11歳くらいの時なんだけどな、漫画のヒロインと結婚することが夢だったんだ」

引いた
何がって、ヒロインとの結婚を目指すこと自体に引いたわけじゃない
それ単体でもなかなかとは思うけど、まあそういう話は聞く
そこまで激レアなものじゃないから、そういう人はいるよね、と思える
問題は目指した年齢だ
小学校高学年
もっと小さい子どもなら、可愛いねで済む
もう少し歳が上がったら、思春期特有の錯綜かなとか、大人でも、まあ現実をわかった上で、あえて気を紛らわせるために言ってるのかな、とか思う
しかし小学校高学年
世の中というものをちょっとは理解している年齢
低い年齢の無邪気な結婚する発言からは卒業しているはず
かといってもう少し上の年齢の、あの現実逃避気味の架空キャラへの恋へ至るには、まだ早すぎる
高野さんはいったいどんな心でその夢を得るに至ったのだろう
それを考えると、うわぁ、引く

「あの、引かないって言ったじゃん
ていうかその顔、マジの表情だな」

顔に出てたらしい

「あー、ええと、心の中でちょっとオエッてなりました」

「心がえずいたの?
なんか、ごめん
そんなに気持ち悪かった?」

「私からは、あまり他人に話さないほうがいいんじゃないか、とだけ……」

その後、高野さんは「やっちまった」みたいな顔をしてトボトボ歩き始めたけど、私にはどうすることもできなかった
そして、高野さんに引いていたのでどうにかしたいとも思わなかった
むしろ、冷徹かもしれないけど、これに懲りてうざ絡みをやめて欲しいとさえ思った

そして次の日

「あー、信じられないよなぁ
あれは信じられないって」

高野さんは相変わらずうざいアピールをしている
この人は、懲りるとか、反省するとか、学習するとか、そういう言葉を知らないのかな?

6/22/2025, 11:59:09 AM

私は傭兵をやっている
人類の敵たる機獣を討伐したり、町の防衛、護衛任務、配達など、戦闘行為の発生する可能性がある様々な仕事を行うのだ
まったく覚えていないが、どうやら私はいつの間にか護衛の依頼を受け、達成していたらしい
知らない報酬が振り込まれていると思っていたら、仕事仲間が教えてくれた
ただ、仲間は詳しいことは知らないらしく、彼によると私は、きな臭いものではない正規の依頼だが、極秘のため、仕事に関する記憶を消去する必要があると言っていたらしい
たまにそういった依頼はあるが、私はそれに参加していたわけだ
ここ一ヶ月の記憶が不自然に抜け落ちているのはそのせいだろう
依頼内容は気になるが、護衛対象の安全のために記憶を消去されたのだろうから、好奇心は頭から追いやったほうがいい

それから少し経って、私を直接指名してきたある依頼を受けることとなった
指定の場所へ行くと、スーツを着た壮年の男性がすでに待っていた
場所の特定を避けるためだろう
挨拶もほどほどに、待ち合わせの場所から複雑な順路、手順をもって目的地へ向かう
依頼主は脅威から隠れているのだ
たどり着いたのは、きれいに整った地下基地だった

「依頼を受けてくださりありがとうございます
どうしてもあなたがいいとおっしゃるので」

「ご依頼主が、ですか?」

「ええ
一ヶ月と少し前、あなたが護衛をした方です
と言っても、記憶にないでしょうが」

ああ
機密保持で記憶を消去したらしい依頼か
リピーターになってくれたならありがたい

「私の仕事内容に満足いただけたなら、光栄です」

「ああいえ、仕事内容はもちろんなのですが、その
お嬢様は、あなた自身をたいへん気に入られて、できればまた会いたいと」

「私に?」

どうやら、私は依頼主に気に入られるようなことをしでかしたらしい
仕事に私情は挟まないように、最低限のことしかしないようにしているはずだが、当時の私は何をしたんだ?

「覚えてらっしゃらないでしょうが、あなたはお嬢様の親代わりのようになっていましたよ」

めまいがしそうだった
何を考えていたんだ、記憶から消えた私は
思い切り一線を越えている
しかも自分の記憶が消えるのに、その子と絆を育むなどと、狂っていたのか?

「致し方ありません
お嬢様は、天涯孤独の身で、さらに当時は心を固く閉ざしていましたから
あなたも放っておけなかったのでしょう
しかし、おかげでお嬢様は穏やかになられました」

心を閉ざす、か
依頼が来た時に聞いた話だと、人類を脅かす機獣を操るマザーブレインを破壊する能力を持つ機械を体に埋め込まれているらしいな
さらに、マザーブレインに特定距離近づけば、居場所も割り出せる、と
だからすべての機獣から狙われている
そんな緊張状態で過ごせば、そうなるか

「前回は、マザーブレインの位置を探って外へ出た際、ある機獣グループにこちらの位置がバレてしまい、緊急措置としてあなたに護衛をしていただきました
しかし、おかげでマザーブレインの居場所が判明
すでにお伝えしました通り、今回あなたには、お嬢様をマザーブレインのいる、PCセブン44研究所跡地まで護衛していただきたいのです」

機獣の脅威を永遠に消し去る重要な任務だ
失敗すれば人は機獣に怯えて暮らし続けることとなる
私の腕が役に立つのなら、行こう
機獣の目を誤魔化すため、少数精鋭で行うらしいが、必ず成功させる


そして、任務が始まった

「あの、メイさん」

依頼主の少女が恐る恐る話しかけてきた

「どうした?」

「お母さんって呼んでいいですか?」

「構わないよ
前は、そう呼んでくれたのだろう?
敬語も不要だ」

私がそう言うと、依頼主……エレナは安心したように笑った

「よろしくね、お母さん」

「ああ、必ず守るから安心するといい」


おかしい
いくらなんでも順調すぎる
研究所についたが、敵に見つからず、マザーブレイン手前まで来てしまった
それに、最奥部だというのに、機獣が一体もいないというのは不自然だ
そんなことを考えていたら、背後で扉が閉まり、ロックがかけられた
罠だ
次々とマザーブレインのいるであろう部屋から、機獣の群れが出てくる
非常にまずい
応戦するも、仲間たちは倒れていく
私も含めサイボーグで構成されているため、即死はせず、戦闘不能になっているだけだが、もともと数が少ないため、敵に余裕ができ、とどめを刺され始めるのも時間の問題だろう
せめてエレナだけでも死守し、逃さねば
そう思った直後、奴らは私を倒せばエレナの守りが手薄になると判断したのだろう、一斉攻撃を始めた
ダメだ、耐えきれない……!
エレナの悲鳴が聞こえ、すぐ私に駆け寄った

「お母さん!」

「エレナ、逃げろ
私はもう動けない
他の仲間も、恐らくもうじき倒れるだろう」

「嫌だ!
お願いだから、死なないで
もう、私を置いてどこにも行かないで!」

もう置いて行かないで、か
記憶を消去した時のことだろう
願いを叶えてやりたいが、無理だな

「君を失うわけにはいかないんだ
言うことを聞いてほしい」

「絶対に離れない!」

強情な子だな
以前の私は、どれだけこの子に好かれるようなことをしたんだ
完全にこの子の足かせじゃないか
私が記憶にないことで罪悪感を感じていると、エレナが両手を前に突き出した

「私、頑張るから
だから、死なないで!」

エレナが言った瞬間、私の体の機械部分の出力が上がった
これは……なんだ?
まさかこの子は、マザーブレインの破壊だけじゃない
サイボーグなどにも使われる、バイオマシンの潜在能力を引き出す力があるのか?
倒れた仲間たちが次々立ち上がる
おそらく、マザーブレインを破壊する機械に搭載された本来の機能とは、この能力のことだ
きっと、マザーブレインの能力限界を突破させることで負担を増やし、自壊させるのだろう
それを今、負荷にならない程度に調整し、私達の力を強化してみせたのだ

「調整が大変だから、私、たくさん練習したんだよ
お母さんが教えてくれたこの力を
危ないから練習して、本当に危険な時にだけ使いなさいって言ってた、この力を」

「私だったのか……エレナに教えたのは
よく頑張ったな、偉いよ
あとは任せてくれ」

戦況をひっくり返すには充分だった
私達は攻勢を強め、戦う
その場にいる機獣を全滅させるのに、そう時間はかからなかった
私達は勝利したのだ
エレナとともに最奥部へ入り、マザーブレインのもとへついにたどり着く
心臓のような形で、鼓動を繰り返すその機械
人類を脅かす敵のコア
エレナは冷静に、マザーブレインの能力を限界突破させ……
鼓動が早くなったと思ったら、マザーブレインは内部でバチン!という音を出し、機能を完全停止させた
こうして、人類最大の脅威は排除されたのだった

私はその後、自由を手に入れたエレナと正式に親子となり、危険な傭兵稼業も引退した
今は飲食店を開いている
エレナを守ってきた仲間たちも、やることがなくなったとかで、従業員として働いている
評判は上々
エレナも、学校へ通い始め、楽しくやっているらしい
まさか、こんな人生になるとは思っていなかったが、娘ができて、傭兵時代よりも充実していると感じている
だがきっと、エレナに危機が迫るようなことが起きたら、私は迷わず力を振るうだろうな
そうならないことを願いながら、私は今日も料理する

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