私は、嫌いなものが多くあるのです
たとえば……
いい歳して苦くてまずいピーマンが嫌いです
昨日全然寝てないアピールする人が嫌いです
残念感と半端な感じが強い、連休にならない水曜とかの祝日が嫌いです
あんなに面白そうだったのに期待外れだったあのゲームが嫌いです
衝撃の結末にしたいためだけに最後、台無しな展開にしたあの映画が嫌いです
すごく分かりづらくて何度も迷うあの駅の乗り換えが嫌いです
まだまだ嫌いなものは出そうと思えば出てきます
けど、大好きなものもたくさんあるのです
たとえば……
ひき肉とソースの味がたまらないミートソースパスタが好きです
落ち込む私を動物園へ誘ってくれた友達が好きです
年末年始の、なんとも言えないワクワク感が好きです
昔、誕生日プレゼントでもらって、エンディングで泣いたあのゲームが好きです
ドラマチックさはないけど、終始ひたすら笑わせてくれたギャグアニメが好きです
用事があって行った街で、並ぶビルの迫力に圧倒されたあの景色が好きです
まだまだ大好きなものは出そうと思えば出てきます
嫌いなものも大好きなものも相当ある私ですが、どうせなら楽しく生きていきたいので、大好きなものを全面に押し出していきたいです
嫌いなものは、避けられない時になったら考えることにします
前は嫌いなもののことばかり考えて、イライラしていたんです
でもやめにします
大好きなもののことを考えていたほうが、幸せになれそうな気がするので
考えることが必要になる時以外は、私の中の嫌いは封印です
こんなに大好きなものがあるのだから、そっちを考えないのは損ですからね
叶わぬ夢など、俺にはない
だから俺は夢で心を乱されないのだ
夢破れて落ち込むことなど絶対にないのだから
今までの歴史の中で、いったい何人が夢を見て、破れ、絶望したことか
何人が夢を叶えた他者を見て、劣等感に襲われたか
俺はそんなこととは無縁だ
夢が叶わぬと苦しむことも、夢を失ったと嘆くこともない
当然のことだろう
俺は、そもそも夢を持ったことがないのだから
夢というのがなんなのか、よくわからない
悲しくないのかって?
なぜ悲しむんだ?
夢がなくても、俺は何も困っていない
夢の何がいいのかも理解できない
まあ、だからといって他人が夢を見ることを否定はしないが
みんなは夢があるんだな
俺が言えたことではないけど、叶うようがんばるといい
俺の中には無い世界だがな
花の香りと共に目を覚ました
起き上がると、一面の花畑
おおっと?
私は死んでしまったのかな?
ここに来る前は確か
ああ
人生なんにもうまくいかなくて、自暴自棄になった末、通り魔と刺し違えて死んだ気がする
誰かをとっさに庇うとか、捕まえようとしてとか、そんなんじゃなくて、殺意を持って相手に襲いかかるあたり、完全に自暴自棄だったな、私は
私と通り魔がお互い唯一の被害者なのがまだ救いか
通り魔も悪いんだけど、相手が暴れてるからって自分の人生の不満をぶちまけるように殺意を向ける私も、向こうとたいして変わらないかもな
とか思って横を見たらいるよ、通り魔が
私と同じところに送られてるよ
なんか、通り魔も困惑してるな
それはそうか
やっぱり死後だな、ここ
なんだか気まずい
「あなた達に、異なる地でもう一度人生を与えましょう」
背後から声がした
二人して振り向くと、いかにも女神です的な外見の女性がいた
おやぁ?
異世界転生させてくれる感じ?
「話が早くて助かります
言い方はちょっと失礼ですが、同じ世界に転生させてもなんか、同じような結末を辿りそうな予感がするんですよね
本質がそういう感じなので
世界と反りが合わない的な?
あなた達も世界も、互いに相手の枠に全くハマれない的な?
要は外れものですね」
失礼だな本当に
事実なんだろうけど
「なので、今度はお二人にあった世界で、出血大サービスとして記憶も保持したまま、いい感じの状態で転生をしていただこうかと」
そうかぁ
自暴自棄になってたけど、もう一度チャンスを貰えるなら、がんばってみようかな
名も知らぬ通り魔もよかったな
次は真っ当に生きような
私も今度こそ真っ当に生きるさ
「お二人の行く先は同じ世界です
では、行きなさい」
私たちは、眩い光に包まれ、転生を果たした
その先の世界は……
あれ?
あまり世界の雰囲気が変わってないような
なんか、隣の元通り魔も困惑してるな
そういえば、赤ちゃんから開始じゃないんだね
いい感じの状態ってこういうことか
頭の中に女神の声が響く
「あなた達の新たな世界は、社会のシステムがほんの少しだけしか違わない、けれど、あなた達にとってとても過ごしやすい世界です
前世の記憶のおかげで1からこの世界を学ぶ必要もありませんし、以前よりもよい人生を送れるはず
最初は少しナビゲートしますけど、それからの生活はあなたたち次第
がんばってくださいね」
ま、下手にファンタジー世界に送られてもね
憧れはあるけど、苦労しそうだよね
こういう異世界転生もありか
じゃ、これもなにかの縁だし、隣の元通り魔さんも、一緒にがんばっていい感じの人生を、今度こそ送りますかね
終わり、また初まる、ということが、この世界では繰り返されている
なんでもそうだ
1日が終わったら、新たな1日になるし、学校が終われば放課後となる
ドラマが終われば次のドラマ
退職して仕事が終われば新しい生活
何かの終わりとは、新たな何かの初まりであると言える
だから、これは決して終わってしまったわけではない
何かが初まりを告げたのだ
確かに私はテストで恐るべき点を取った
クラスで最下位であろうことはほぼ確実だと思う
しかし、逆に考えてみよう
私がいろんな意味で終わったからには、これ以上ひどくはならないということ
もう上しかない
上がっていくしかない
下がることは絶対にない
下がりたくても下がれない
一番下だから
私の快進撃はここから初まるのだ
最下位より下はないのだから、上がらざるを得ない
なんて素晴らしいことか
私は決して落ちたのではない、やれば絶対に昇れるようになったのだ
ここから私のサクセスストーリーが初まる
そうとでも考えなきゃやってられない
だってこの点はないでしょ、いくらなんでも
「星が呼んでる」
突然、槙野がそんなことを言い出した
公園のベンチから立ち上がって、早歩きで立ち去ろうとする
おいおい、まだゲームの途中だろ?
俺の銀髪英雄とお前の赤い配管工でこれから対戦しようって時にどうした?
「星が呼んでるんだ」
槙野は俺のことは気にならないようで、何かに取り憑かれたように歩を進める
ちょっと待ってくれ
今日は俺と一日ゲーム三昧じゃなかったのかよ
これの対戦が済んだら俺の家に行って、育てたモンスターたちで3番勝負だろ?
「ごめん
約束、破ることになるけど、本当に悪い
星に呼ばれてる
俺は行かないといけない」
槙野はこちらに顔も向けず、立ち止まろうとすらしない
いやいや、なんかすごく嫌な予感がするぞ
ただ、止めたいけど、止めることはできなさそうだ
結局俺は、槙野を見送ることしかできなかった
悪いことが起きなければいいが
俺の心配は的中した
その日の夜、槙野から連絡が来た
「聞いてくれ、友よ
あのあと、幼馴染の星に告白された!
すごい嬉しいよ!」
なるほど、星に告白されたか
まあ、告白だろうと思ったからお前は俺を放って星のもとへ向かったんだな
たぶん、いや絶対これから槙野は俺と遊ぶ時間が減るよな
下手したら無くなるよな
彼女のほうが大事だもんな
……チクショウ!!
あーあ!
俺も彼女つくろうかなぁ!
できるかぁ!
好きな子なんていないんだよ俺は!
告白されてもOKする自信ないよ俺は!
だって恋愛興味ないもんな、俺!
万が一にもされないだろうけどね!
明日からボッチじゃねえか、どうすればいいんだクソッ!