「願いが1つ叶うならば、お主はなにを望む?
わしの力で願いを1つ、どのようなものでも叶えてやろう」
1つ?
1つか
人生において、1つ願いが叶った程度で何かを変えるのは厳しいな
仮に1つ叶えたところで、それによって人生が好転するどころか、悪い方向に進む可能性すらある
いや、その可能性のほうが高い
この世は様々な要素が絡み合って、互いに関わり合って、影響しあって成り立っている
結局、様々な人間の様々な願いを叶えない限り、1人の人間を幸せにすることすらもできないと思うな
「いや、わしはそういう神だし、そんなこと言われても困るのだが……」
まあ、確かにそうだな
しかし、このままではあなたは人を幸せにはできないのではないか?
というか、今まで、あなたが願いを叶えた相手で幸せになった人はいるのか?
「痛いところを突いてくるな
確かにわしがこれまで願いを叶えた人間で、幸せになった者は見ないな
人間が強欲だからだとか、そのように考えていたが、そもそも人間社会が複雑で、1つ叶えたところで解決しないのか」
かといって、多くの願いを叶えても、その人が堕落しそうだな
人の願いを叶えるというのは難しいかもしれない
「ううむ
人に聞くのもどうかと思うが、わしはどうすればいいのだろうな」
転職するわけにはいかないのか?
「人間と違って役割は最初から決まっているゆえ、転職するわけにもいかぬ
できることなら、こんな役割からは抜けたいが……」
そうだな
……よし、なら私があなたの願いを叶えよう
人と違って、あなたの願いなら、1つ叶えればなんとかなりそうだ
人ではなく神なのだから、あとはなんとでもなるだろう
「どんな手段で叶えるというのだ?」
簡単だ
あなたの願いを叶える力で、私があなたの願いを叶えてほしいと願う
まあその後はあなた次第だが
「なるほど
わかった、その後の進む道はわし自身でなんとかするとして、さっそく願いを頼む」
いいんだな?
「うむ
まさか、神が人に願いを叶えてもらうとはな
しかし、それもたまにはいいのかもしれん
では、願いを1つ言うがいい」
あなたが、あなたの望む役割に就けるように……
「……ありがとう
わしは今、旧き役割から解放された
いつかまた、新たな役割を知らせに、お主に会いにゆくと誓おう」
ああ、楽しみにしておくよ
私は、叶えたい願いが多すぎるから、こういう使い方が一番いい
すべての願いは叶えられないが、ひとつでも多く叶うように、自分で頑張るさ
嗚呼っていうゲーム?
それの商品化を目指す?
あの、本気ですか?
本気ですかというか、正気ですか?
パクリでしょ
あのゲームのパクリでしょ
紛うことなき純度100%の盗作じゃないですか
ちょっと何言ってるかわからない、みたいな顔しないでくださいよ
私が自分で考えたんだって、そんなわけないでしょ
湯船につかって嗚呼と言った時に思いついたとか、やけにリアリティのある嘘を吐いてもダメですよ
怒られますって
こんな企画通るわけないじゃないですか
いくら最近、思ったようにうまくいかなくて不調気味だからって、自暴自棄になって既存の製品をパクらないでくださいよ
商品化どころか、企画を出した時点で即バレて、しかるべき対応を取られちゃいますよ?
私はあなたの、盗作に手を染めるような、そんな情けない姿は見たくなかったですよ
ちょっとちょっと、泣かないでくださいって
自分の情けなさは自分がよくわかってる?
いやいや、そんな卑下しないで
頑張っていきましょうよ
確かに今は不調かもしれないけど、皆さんもあなたの実力はちゃんと理解してますし、これまでの活躍だって評価してくれてますから
他の皆さんも多かれ少なかれ調子の悪い時はあるから大丈夫ですって
焦らないでいいと思いますよ?
じゃあ、早めに切り替えて、できることから少しずつやっていきましょう!
……ふぅ、なんとか前を向かせられた
嗚呼ぁ
……今のは疲れた時の嗚呼
僕には、ごく一部の人間を除いて、誰にも教えていない秘密の場所がある
自宅から5kmほど離れたところに建つ家屋
週末になると、ここで一日自由に過ごすのだ
持ってきたゲームで誰にも邪魔されず遊んだり、動画を見まくったり、周りを気にせず歌を歌ったり
築年数はそんなでもないが、価格は超格安
なのにそこそこ広く、2階建て
おまけに防音の部屋がある
そんな所がなぜ安いか
それは、ここに幽霊が住み着いているからだ
歴代入居者は全員、見えない何かが引き起こす現象に恐怖し、退去していったらしい
僕は霊感があるので、幽霊を視認できる
なので、まあ、なんとかなるだろうと思って購入したのだが、幽霊はいきなり水道から血を流すという悪質な嫌がらせをしてきた
さらに壁に血の手形を複数残すなども
イラッときた僕は、事前に用意した札を自分の足に貼り、怒りの回し蹴りをお見舞いしたのだった
恐れをなした幽霊は浮きながら土下座して謝り、祓わないでここに住み続けさせてほしいと頼み込んできたので、邪魔しなければ別にいい、と許可した
先に住んでたのはあっちだし
そんなこんなで入居後は平和に過ごすことができている
入居して最初の方は一人の時間をただただ楽しんでいた
しかしたまにだが、物足りない気分になる時が出始める
何にも縛られない自分だけの時間は欲しいが、さすがに毎週一回、一日フルで一人というのも、飽きてくるものだ
僕は人と接するのが嫌いなわけではない
むしろ好きな方だ
だから、あまりにも一人の時間が長いと、孤独感のほうが大きくなる
退屈になった僕は、幽霊とコミュニケーションを取ることにした
幽霊は案外ノリのいいやつで、会話はけっこう楽しめたし、こちらの趣味にも興味を示してくれた
ゲームの対戦をしたり、漫画を貸したり、動画を一緒に見たり、一緒に歌ったり
まさか、幽霊の友人ができるとは思わなかったが、楽しいのでそこはどうでもいい
秘密の場所で秘密の友人ができたことで、僕の生活はますます楽しくなったのだ
ところで、僕には誰にも迷惑がかからないし、社会で許されないようなことをしているわけでもない平和な内容だが、誰かに言うのは個人的にためらわれる趣味を持っている
それがなにかは絶対に言わないが
誰にも言ってないが、実はそれを気兼ねなくできる場所を探したかった、というのが購入の最大のきっかけだ
しかし、秘密にしたいこととはいえ、誰とも共有できないというのはつらいものだ
幽霊の友人はそんな僕の趣味を理解して応援してくれたので、かなり救われた
僕にとって一番よかったのは、秘密を共有し、応援してくれる友と知り合えたことだろう
我が信念は楽邏羅(ラララ)
これの意味するところを語ろう
まず、楽とは楽しきこと
次に、邏は見回ること
そして羅、網にかけて捕らえることを、それぞれ意味する
即ち、楽邏羅とは、人生の楽しきことを探して世を見回り、発見した楽しきを網羅するということを示す
人生を楽しみ尽くすことに人生の全てを懸けるのだ
しかし言うは易いが、これが非常に難しい
人生は楽しいことばかりではないからだ
生きていれば、つらいことや悲しいこともあるだろう
それでも楽邏羅の精神で、貪欲に楽しきを見つけるために見回り、捕らえ、自らの喜びに変える
この信念のおかげもあり、楽しきことに対して敏感になり、様々な物事に喜びを感じられるようになった
少し意識すると、この世には楽しきことに溢れているとわかる
大事なのは、それに気付けるかどうかだ
最後に、楽邏羅は私の造語だ
辞書で調べても出てはこない
わかるとは思うが、念の為、言っておこう
風が運ぶものといえばなんだろう
雲とか、種とか、寒さとか、色々あるだろう
雲が来て、多少雨や雪が降っても、災害級でなければ、私は気にしない
種が飛ぶのは、植物の緑が増えるから素晴らしいことだ
寒さが運ばれたとしても、まあ、厚着をすればいいし、冷たさを楽しむのも一興だと思う
だが、風が運ぶ花粉
あれは絶対に許さん
春に現れる魔物め
あれのせいで、くしゃみが出るわ、鼻水は止まらないわ、目は痒いわ、頭はぼーっとするわ、頭は痛いわ、集中できないわ、薬を飲まないといけないわ、目薬は面倒だわ、点鼻薬も必要だわ、病院代と薬代かかるわ、本当に腹が立つ!
奴らさえ、奴らさえいなければ!
ということで、これより杉の木伐採作戦を開始する!
これは我ら花粉症患者の自由への戦いである!
行くぞ、皆の者!
苦しみの春を終わらせるのだー!
………
……
…
「感動したぜ、花粉戦争
こんなにいい映画だとは思わなかった
隊長かっこよすぎだろ」
「お前が面白い映画を見つけたから一緒に見ようって言うから見たけどさ、何このZ級映画
色々ひどいな」
「お前は花粉症じゃないからこの映画の感動がわからないんだよ」
「花粉症でもわからないだろこれは
あれのどこが感動的なんだか……
お前の趣味はわからないな」