私は魔王だ
勇者と長く争っている
最初は世界を支配しようなどと息巻いていたのだが、戦い続けるのは疲れるし、命令を聞く部下は増えるが何でも分かち合える友人などはできない
そのため、最近、戦いに嫌気が差してきている
一度、偵察で勇者パーティを見に行ってみたが、大変なはずなのにとても楽しそうだった
命がけの旅とは思えないほどに
私はそれを見て羨ましさと寂しさを覚えた
なぜ私はこんな人間に嫌われるような真似を始めたのだろう
部下も全く楽しそうじゃない
むしろ、私の顔色をうかがい、ビクビクしている気がする
心を許せる友だっていない
もう戦いをやめたい
しかし戦いを終わらせるなどと言って、今まで必死に戦ってきた部下や、人々を守るため、命がけで私を討とうとしてきた勇者たち、人間たちは受け入れてくれるだろうか
私は恐怖心に押しつぶされそうになった
どうすればいいんだ
考えるだけで体が震える
ふと、勇者の顔が浮かんだ
勇気ある者、勇者か
彼も、最初は恐怖心があったはずだ
それでも、頑張って恐怖を克服し、私と戦おうとしているのだな
私は、彼ほど心を強く持てない
だが、彼の勇気には及ばないかもしれないが、小さな勇気を出し、腹を割って部下、勇者、人間たちと対話しようと思った
私の心配がくだらなく思えるほど、部下たちは喜んだ
彼らも疲弊していたのだ
心の中では戦いたくなかったのに、私が恐くて命令に従うしかなかったのだろう
そして私に対し、怒りや恨みを抱いている者がいなかったのはありがたかった
なんだかんだで、部下たちは私を慕ってくれていたようだ
次に、勇者のもとへ単身で訪れた
部下たちは心配していたが、心の内をわかってもらうには、一人で行くしかない
当然、勇者一行は最初は警戒していた
しかし、私が本音で全てを話すと、信じると言ってくれた
だが一方で、人々は私を許さないだろうと告げる
そこで勇者は、私を討ち取ったことにし、部下たちも、私が恐怖で縛り、仕方なく戦わされていたことにしようと提案してきた
我々が怒りを受けないようにと、配慮してくれたのだ
断る理由はない
私は感謝し、提案を承諾した
それから月日が経ち
私は元部下たちとともに、名も無きただの魔族の一人として、人々とともに平和へ歩むこととなった
まだ完全に人々の怒りが消えたわけではない
だが、我々が真面目に、友好的に接していけば、いつかきっと受け入れられる時が来る
私はそう信じている
先日、孫が家に来た時、
「じいじ、わぁ!おどってー」
とせがんできたのだが、「わぁ!」とはなんだろう?
とりあえず娘に聞いてみた
どうやら幼児向け番組に出てくる歌らしい
なるほど、他ならぬあの子の頼みだ
ここはひとつ、覚えて一緒に踊ろうじゃないか
仕事から帰ったあとにやっているその番組を見ながら練習を開始する
おや、意外と難しいぞ?
幼児向けだからすぐ踊れるだろうと侮っていたが、そもそも僕はこういう踊りや運動が苦手だった
ラジオ体操第一ですら、頑張って頑張ってやっとできるようになったくらいだ
後日、仕上がっていない状態で孫が来て、とりあえず一緒に踊ったのだが、
「じいじちがうよー」
と笑われてしまった
それはもういい笑顔だった
孫の笑顔は可愛いが、満足に踊れなかったことはちょっと悔しい
僕は番組を録画して、「わぁ!」の歌詞と踊りを覚えるべく、毎日何度も練習することにした
妻はその姿を静かに見守ってくれて、終わるとねぎらいの言葉をかけてくれたので、それが励みになり、続ける活力がみなぎっていく
何度も練習をした結果、ようやく仕上がり、そして万全の態勢の中、孫が来た
やはり「わぁ!」を一緒に踊ることをせがんで来る
この時を待っていた!
「じいじじょうずになったね!」
やったぞ!
孫からお褒めの言葉を頂いた!
微笑みながら「ありがとうね」と言い、頭をなでているが、内心では舞い上がっている
練習の日々が報われたのだ
そしてまたしばらくたった別の日
孫が来てこんなことを言った
「ゴシゴシおどり、おどってー!」
愛する孫のため、僕の練習の日々が再び幕を開けた
やっと、お前を特定できた
この物語は終わらせて、次へ進めなければならない
こんな終わらない物語など、認めるわけにはいかない
お前は何十回も時を巻き戻し、同じ時間を繰り返しているが、私はそれに気づいているぞ
私の記憶は絶対に失われることはないのだ
おかげで、忘れたいことも忘れられないがね
何度も時を繰り返し、自分が満足する完璧な世界を作ろうとしているようだが、不満なんてものは必ずどこかで出る
お前の理想郷など、何百、何千回、いや、何万回やり直しても、創れはしない
それに、幸福なのはいいことだが、なんの苦もない世界など、虚しいだけだぞ
人は幸と不幸を経験し、比較することでより幸せを感じられ、よりよくする努力ができるのだ
仮にお前が理想郷を創れたとしても、すぐに飽きるだろう
それに、私はお前のような能力を持った者をたくさん知っている
そして、その能力のおかげで幸せになれた者はただの一人もいない
いいか、私の一万二千年間の記憶の中で一人も、だぞ?
私は記憶が失われないのだ
死してもなお、な
つまり、転生しても能力を得た人生からの記憶は消えない
その私が言おう
もう、この物語は終わらせるべきだ
現実が苦しいのなら、私が改善する手伝いをしよう
こうして出会ったのも何かの縁だからな
お前のような者たちに協力するのも、初めてではないのだ
さあ、再演は終わりだ
物語を、未来へ向けて動かそう
「空が青いのはね、赤いと人が興奮してそこかしこで争い始めて、すぐ滅亡するから、落ち着かせるために青いんだよ」
よく、君はそんなバレバレの嘘話をするよね
「私はね、昔、勇者の子孫に会ったんだよ
日本に忍者の末裔っているでしょ?
あれの西洋版」
勇者の子孫とは、壮大な嘘だな
自分でバレバレだとわかっているだろうに、君がなんでそんな嘘をつくのか
面白いことを思いついたから、誰かに発表したい、とかかな
ちなみに、僕は楽しく聞いている
「で、昔の空は真っ白かったんだって
でもある日、魔王的な奴が武力を使わず人類を排除するために、空を赤く染めたんだよ
その結果、さっきも行ったとおり、人々は興奮したり、怒りやすくなって、争い始めたってわけ
で、滅亡の危機に陥ったらしいよ」
魔王、自分では手をくださず、リスクを避けて自滅を狙うとは、策士だな
戦いのなんたるかをわかってらっしゃる
「そんな時、どこからか聖剣を携えた勇者が現れて、謎のパワーで空を青く染めたら、みんな冷静になって争いをやめたそうだよ」
謎のパワーってなんだよ
そこは考えてないんだな
「さらに仲間を集めて、すぐさま魔王城に乗り込んだんだ」
まさか魔王もそんなあっさり策を破られるとは思わなかっただろうな
しかも油断していたのか、即刻乗り込まれちゃってるよ
「その後は早かったってさ
勇者が仲間と連携して戦って、十数分で魔王を倒したんだよ」
十数分だってわかってるのか?
いつの時代の話だっけ?
「それで、世界は一時の平和を取り戻したと
そして、勇者の名前から、空と同じ色をブルーって呼ぶようになったって話
ちなみに、レッドは魔王の名前ね」
これで話は終わりらしい
すごい荒唐無稽の極みみたいな話だけど、僕はけっこう好きだな
少し気になったので、なんでそんな嘘話を僕にするのか、聞いてみた
「嘘じゃないよ、歴史的事実だよ
それはともかく
君、普段退屈そうにしてるからさ、面白い話でも聞かせて、ちょっと楽しんでもらおうかと思ってね」
どうやら、退屈な僕を楽しませるためのやさしい嘘だったようだ
確かに、僕は日々、退屈にしていることが多い
そんな毎日の中で、君の話は楽しくて、心が潤う
今度は、なにか、僕が君を楽しませられる話を考えようかな
君は退屈してなさそうだけどね
君のことがとても眩しい
くすんだ俺と違って、強く輝いている
心の瞳をとじてしまえば、見ずにいれば楽なのだろう
だが俺は、瞳を見開いて君を見る
君の今の姿こそ、俺が目指すところだからだ
君を見ている限り、くすんでしまった俺でも、輝けるのだと思うことができる
そのおかげで、俺は苦しくても上を目指せるんだ
だから友よ、待っていてくれ
必ず君に追いつく
いつか君のとなりに立てるように、肩を並べられるように、俺は頑張ることをやめないから
痛いほど眩しくても、瞳をとじたりせず、君を標にしながら、たとえくすんでいても、磨き続ければ輝けるということを証明するよ