ストック1

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私は魔王だ
勇者と長く争っている
最初は世界を支配しようなどと息巻いていたのだが、戦い続けるのは疲れるし、命令を聞く部下は増えるが何でも分かち合える友人などはできない
そのため、最近、戦いに嫌気が差してきている
一度、偵察で勇者パーティを見に行ってみたが、大変なはずなのにとても楽しそうだった
命がけの旅とは思えないほどに
私はそれを見て羨ましさと寂しさを覚えた
なぜ私はこんな人間に嫌われるような真似を始めたのだろう
部下も全く楽しそうじゃない
むしろ、私の顔色をうかがい、ビクビクしている気がする
心を許せる友だっていない
もう戦いをやめたい
しかし戦いを終わらせるなどと言って、今まで必死に戦ってきた部下や、人々を守るため、命がけで私を討とうとしてきた勇者たち、人間たちは受け入れてくれるだろうか
私は恐怖心に押しつぶされそうになった
どうすればいいんだ
考えるだけで体が震える
ふと、勇者の顔が浮かんだ
勇気ある者、勇者か
彼も、最初は恐怖心があったはずだ
それでも、頑張って恐怖を克服し、私と戦おうとしているのだな
私は、彼ほど心を強く持てない
だが、彼の勇気には及ばないかもしれないが、小さな勇気を出し、腹を割って部下、勇者、人間たちと対話しようと思った

私の心配がくだらなく思えるほど、部下たちは喜んだ
彼らも疲弊していたのだ
心の中では戦いたくなかったのに、私が恐くて命令に従うしかなかったのだろう
そして私に対し、怒りや恨みを抱いている者がいなかったのはありがたかった
なんだかんだで、部下たちは私を慕ってくれていたようだ
次に、勇者のもとへ単身で訪れた
部下たちは心配していたが、心の内をわかってもらうには、一人で行くしかない
当然、勇者一行は最初は警戒していた
しかし、私が本音で全てを話すと、信じると言ってくれた
だが一方で、人々は私を許さないだろうと告げる
そこで勇者は、私を討ち取ったことにし、部下たちも、私が恐怖で縛り、仕方なく戦わされていたことにしようと提案してきた
我々が怒りを受けないようにと、配慮してくれたのだ
断る理由はない
私は感謝し、提案を承諾した

それから月日が経ち
私は元部下たちとともに、名も無きただの魔族の一人として、人々とともに平和へ歩むこととなった
まだ完全に人々の怒りが消えたわけではない
だが、我々が真面目に、友好的に接していけば、いつかきっと受け入れられる時が来る
私はそう信じている

1/27/2025, 11:11:57 AM