やっと、お前を特定できた
この物語は終わらせて、次へ進めなければならない
こんな終わらない物語など、認めるわけにはいかない
お前は何十回も時を巻き戻し、同じ時間を繰り返しているが、私はそれに気づいているぞ
私の記憶は絶対に失われることはないのだ
おかげで、忘れたいことも忘れられないがね
何度も時を繰り返し、自分が満足する完璧な世界を作ろうとしているようだが、不満なんてものは必ずどこかで出る
お前の理想郷など、何百、何千回、いや、何万回やり直しても、創れはしない
それに、幸福なのはいいことだが、なんの苦もない世界など、虚しいだけだぞ
人は幸と不幸を経験し、比較することでより幸せを感じられ、よりよくする努力ができるのだ
仮にお前が理想郷を創れたとしても、すぐに飽きるだろう
それに、私はお前のような能力を持った者をたくさん知っている
そして、その能力のおかげで幸せになれた者はただの一人もいない
いいか、私の一万二千年間の記憶の中で一人も、だぞ?
私は記憶が失われないのだ
死してもなお、な
つまり、転生しても能力を得た人生からの記憶は消えない
その私が言おう
もう、この物語は終わらせるべきだ
現実が苦しいのなら、私が改善する手伝いをしよう
こうして出会ったのも何かの縁だからな
お前のような者たちに協力するのも、初めてではないのだ
さあ、再演は終わりだ
物語を、未来へ向けて動かそう
「空が青いのはね、赤いと人が興奮してそこかしこで争い始めて、すぐ滅亡するから、落ち着かせるために青いんだよ」
よく、君はそんなバレバレの嘘話をするよね
「私はね、昔、勇者の子孫に会ったんだよ
日本に忍者の末裔っているでしょ?
あれの西洋版」
勇者の子孫とは、壮大な嘘だな
自分でバレバレだとわかっているだろうに、君がなんでそんな嘘をつくのか
面白いことを思いついたから、誰かに発表したい、とかかな
ちなみに、僕は楽しく聞いている
「で、昔の空は真っ白かったんだって
でもある日、魔王的な奴が武力を使わず人類を排除するために、空を赤く染めたんだよ
その結果、さっきも行ったとおり、人々は興奮したり、怒りやすくなって、争い始めたってわけ
で、滅亡の危機に陥ったらしいよ」
魔王、自分では手をくださず、リスクを避けて自滅を狙うとは、策士だな
戦いのなんたるかをわかってらっしゃる
「そんな時、どこからか聖剣を携えた勇者が現れて、謎のパワーで空を青く染めたら、みんな冷静になって争いをやめたそうだよ」
謎のパワーってなんだよ
そこは考えてないんだな
「さらに仲間を集めて、すぐさま魔王城に乗り込んだんだ」
まさか魔王もそんなあっさり策を破られるとは思わなかっただろうな
しかも油断していたのか、即刻乗り込まれちゃってるよ
「その後は早かったってさ
勇者が仲間と連携して戦って、十数分で魔王を倒したんだよ」
十数分だってわかってるのか?
いつの時代の話だっけ?
「それで、世界は一時の平和を取り戻したと
そして、勇者の名前から、空と同じ色をブルーって呼ぶようになったって話
ちなみに、レッドは魔王の名前ね」
これで話は終わりらしい
すごい荒唐無稽の極みみたいな話だけど、僕はけっこう好きだな
少し気になったので、なんでそんな嘘話を僕にするのか、聞いてみた
「嘘じゃないよ、歴史的事実だよ
それはともかく
君、普段退屈そうにしてるからさ、面白い話でも聞かせて、ちょっと楽しんでもらおうかと思ってね」
どうやら、退屈な僕を楽しませるためのやさしい嘘だったようだ
確かに、僕は日々、退屈にしていることが多い
そんな毎日の中で、君の話は楽しくて、心が潤う
今度は、なにか、僕が君を楽しませられる話を考えようかな
君は退屈してなさそうだけどね
君のことがとても眩しい
くすんだ俺と違って、強く輝いている
心の瞳をとじてしまえば、見ずにいれば楽なのだろう
だが俺は、瞳を見開いて君を見る
君の今の姿こそ、俺が目指すところだからだ
君を見ている限り、くすんでしまった俺でも、輝けるのだと思うことができる
そのおかげで、俺は苦しくても上を目指せるんだ
だから友よ、待っていてくれ
必ず君に追いつく
いつか君のとなりに立てるように、肩を並べられるように、俺は頑張ることをやめないから
痛いほど眩しくても、瞳をとじたりせず、君を標にしながら、たとえくすんでいても、磨き続ければ輝けるということを証明するよ
あなたは「何もいらないよ」、なんて笑いながら言ってましたけどね、そうはいきませんよ
私は是が非でも、たとえ天地逆となって西からライジングサンしてもあなたへの贈り物を渡しちゃいますよ!
「そんなの悪いよ」じゃないんです
これはね、私のために、私が勝手にやることなんです
私がただ、あなたに贈り物がしたいだけなんですよ
そこにあなたが悪いと思ったり、恩を感じたりする隙間なんてものはありません!
断言します、ありません!
というか、お願いします
私はあなたへの贈り物がしたくてしたくてたまらないんです
私の望みを叶えるために一役買ってくれませんか?
ほんと、もらってくれたら、恩に着りますから!
ん?ここまで言ってもまだ悪いと感じてるんですか?
じゃあもうこれは強制です、命令です
私は贈り物がしたいので、黙って受け取りなさい!
……ようやく受け取ってくれましたね、ハァハァ、ゼーゼー
まったく、なんで贈り物するだけでこんなに苦労しなきゃならないんですかもう!
それじゃあ、最後にこれだけ言っておきますよ!
ハッピーバースデイトゥーユー!
この深く、日中でも暗い広大な森は、羅針盤で方角を見なければ抜け出せないし、目的地へもたどり着けない
コンパス?
いやいや、羅針盤って言ったほうがかっこいいじゃん
私たちは、この羅針盤を命綱にして、財宝伝説のある遺跡を探していた
何度も迷いそうになったけど、その度に羅針盤で方角を確認、古びた地図と照らし合わせ、修正していった
そして私たちはついに遺跡を発見するのだった
フハハ、財宝ゲットだぜ
あ、いや、もちろん調査目的だし、財宝も歴史的価値に着目しているんだけどね、フヘへ
まあ、遺跡を発見しただけだし、まだ気が早いけど
私たちは警戒しながらも、早速、遺跡の調査を始めた
探索を進めると、すぐに財宝が眠っていると思しき部屋に当たった
どうやら罠の類は無いようでホッとしたけど、当時は荘厳であっただろう見た目の割に中は単純な造りだったな
私は仲間とともに、明らかに財宝入ってますアピールをしている、とてもわかりやすい豪奢な、長い時を経たとは思えないきれいな宝箱を、錠を突破して開けた
中には、え?文字の彫られた石版?
思ってたのとは違うけど、絶対に歴史的価値の高いものなので、慎重に取り出し、解読してもらった
曰く
『こんなところに一人で来る愚か者はいない、というか、たどり着けるわけがないので、君たちは仲間とともにここまで来たのだろう
さて、君たちはここに財宝目当てで来たと思う
しかし、ここには財宝なんて何もない
なぜなら、仲間とともに達成した事実こそが、君たちにとっての宝⸺』グチャッ!
最後のは私が羅針盤を地面に叩きつけ、破壊した音である
財宝がないって?
あはは、なめてるのかな?
言いたいことはわかるけど、財宝あっての達成感でしょうが!
なんにもない遺跡に仲間と一緒に苦労してたどり着いて、よかったねーてなるかあ!
怒りに震える私だったが、ふと、自分が致命的なミスをしたことに気づいた
命綱の羅針盤、壊しちゃった
待って、私たち財宝もない遺跡に来てこのまま遭難して死ぬのか!?
犬死にならぬ無駄足死にじゃん!
などと慌てていると、仲間が自分の懐から羅針盤を取り出した
あっ、全員一つずつ持ってるんだった
私以外の仲間は全員冷静に、とても冷静に石版を持ち帰るべく準備をしている
あれえ?財宝に熱意があったの私だけ?
みんな淡々と作業してるんだけど
こうして、私だけがとてつもなく疲労した状態で、ふざけた遺跡をあとにするのであった