この世は一方通行だ
人は皆、過去に、今に、別れを告げ、明日に向かって歩く
でも、あの時こうしていればとか、過去を変えられればと思うこともあるだろう
私もそうだ
深く後悔したことに対し、戻ってやり直せればと考えたことは、数えるのも馬鹿馬鹿しいくらいにある
だが私はある時、不思議な何者かによって、時間を遡る力を手に入れた
この力で、今よりも幸せになれるかもしれない
そう思い、後悔を解消するため、力を使った
そうして運命を変えるために奔走した結果、私はもとの運命よりも不幸な結果へ至った
こんなことになるとは予想外だ
もう一度やり直そう
今回は考えうる最善の行動をとりながら、万全の態勢で動いた
だが、私の努力を嘲笑うように、私はまた不幸に……いや、不幸を通り越して絶望的な状況に追いやられる
その後も何度もやり直したが、元々の運命よりも幸せな状態にはならなかった
最後に私は、覚えている限り最初と同じ行動をとることにした
一番気を使い、非常に不安だったが、おかげで私は元の運命に戻すことに成功する
もう、あんな思いをするのはごめんだ
この力は捨てることにしよう
時間を遡っても、幸せは掴めない気がする
力を捨てた私に、ある考えが浮かんだ
もしかしたら、私は充分に幸せだったのかもしれない
ただ、そのことに気づいていなかっただけで
あまりに後悔の多い私に、あの力を与えてくれた何者かは、後悔するとしても、自分の進んだ道を信じろと、そう言いたかったのだろうか
この世は一方通行だ
人は皆、過去に、今に、別れを告げ、明日に向かって歩く
でも、あの時こうしていればとか、過去を変えられればと思うこともあるだろう
私もそうだ
だが今は、そんなふうに思いたくなってしまうような過去も、決して無駄ではないと思えるようになった
ある日、彼女は世界から忽然といなくなった
僕の前に現れた狐のぬいぐるみのような生き物によると、彼女は別の世界に飛ばされたらしい
本来いるはずのない世界に、別の世界の人間がいると、同一人物が二人いる矛盾から、その世界にも本人にもよくないことが起こるらしい
狐のぬいぐるみ生物……狐ぬいから、安全に世界を渡り、留まれる魔法をかけてもらい、僕は様々な世界を旅することになった
彼女を見つけ出すために
別の世界の彼女に出会った
若くして大企業の社長になったらしい
その情報網で目撃情報を集めてくれた
最後に彼女が目撃された場所へ行くと、別の世界へのゲートが現れた
狐ぬいによると、このゲートを通った形跡があり、もうこの世界にはいないらしい
僕たちはゲートをくぐり次の世界へ
その世界の彼女は、世界を守る変身ヒーローだった
ヒーローなら何か知っているのではと思い、事情を話すと、なんと、すでに出会っていたという
話によると、彼女は何かを探して自ら自分の世界を出たとのことだった
この世界をすでに去ったようだ
その後も別の世界の彼女たちの力を借り、痕跡を辿った
繰り返すうち、わかったことがある
彼女は僕のいた世界の人間ではない
そして彼女は、自分の故郷を探していたのだ
僕の世界に彼女が問題なく留まれたのは、その世界に、別の彼女が存在していなかったから
ふと思う
君が故郷を見つけたら、僕は君にもう会えないのだろうか?
その世界で暮らすのだろうか?
それは困る
僕はまだまだ君と色々なことをしたいんだ
頼むから、僕の前からいなくならないでほしい
たくさんの世界を旅して、たくさんの君と出会ったんだ
でも、僕はどの君もしっくりこなかったよ
やっぱり、僕のよく知っている君が一番いい
君と一緒にいたい
どの世界の君とも違う、ただひとりの君へ、この思いを伝えよう
ついに彼女を見つけた
そこは植物に侵食されて廃墟と化したビルが並び、僕と彼女以外に、誰も人はいなかった
この世界の人類は、彼女を除いて滅んでしまったようだ
狐ぬいは、最後の人類である彼女を、この世界の住人が何らかの技術で、僕の世界へ逃したのだろうと言った
そういえば、彼女は養護施設で育ったんだった
彼女はある日、世界を渡る力に目覚めたのだそうだ
それと同時に、この世界の技術なのか、自分の出自と、力の使い方を瞬時に知った
そして頭の中で、両親の映像が流れ、世界が安定したら帰っておいでと言っていた、と話してくれた
だが、この状態を見るに、きっともう……
僕には、彼女が何を思い、どんな心境なのかは想像もできない
どんな言葉をかければいいかもわからない
だけど僕は、伝えたかったことも忘れて、その時思っていたことを、そのまま口にした
それが正しい言葉なのかはわからなかったけど
「帰ろうか、僕たちの世界へ」
彼女はうなずくと、静かに微笑んで、僕とともに元の世界への帰路についた
狐ぬいは、それを見届けると、満足そうな顔をして僕たちに別れを告げた
狐ぬいが何者なのか、よくわからなかったけど、おかげで彼女を見つけられた
僕も、感謝しながら別れの言葉を言い、彼女と二人で狐ぬいを見送るのだった
僕はね、気に食わないやつの手のひらで踊らされるのは、絶対に御免被りたいんだよ
そいつに翻弄されるのは単純にムカつくし、それで相手が喜ぶのは心底不快だからね
だけど、愛する人の手のひらで踊らされるのなら、僕は本望だよ
その人のために自分のすべてをなげうったっていいくらいだ
僕が踊ることで、愛する人が喜んでくれたり、幸せになるきっかけを作れたらそれ以上望むことはないね
たとえ僕がその人にとって、手のひらの宇宙の中の、小さな星に住むごくごく小さい、全然見えないような存在だとしても、だよ
普段見えない存在でも、大きな存在に大きな影響を与えることだってできるかもしれない
とても小さな細菌たちが、地球の生態系に大きく関わっているようにね
もし、踊らせている本人がそのことに気づかないとしても、僕が踊った結果が、その人が幸せになる助けに少しでもなれたのなら、満足さ
仮に踊らされたあとに、手のひらから振り落とされて、宇宙から追放されたって、その人が幸せなら、僕は幸せだよ
なのに、だ
僕の愛する人ときたら、僕にすごく優しくしてくれるんだ
こんなことがあっていいのかな?
幸せすぎて脳のキャパシティを超えて、僕はそのうちおかしくなるんじゃないかと少し心配してるんだ
本当に、僕はこの世で一番幸福な人間なんじゃないかと、常々思っているよ
もっと幸せになるべき人が他にいるんじゃないかってくらいにね
さて、僕の話はこのくらいにしておこうかな
聞いてくれてありがとう
こういう話は、する方は楽しいけど、される方は微妙な心境になるよね
すまない
だけど、どうしても誰かに自慢したかったんだ
今度、まあ、今からでもいいけど、君のどんな話も、長かろうとなんだろうと真剣に聞くと約束するよ
だから許してくれ
それはまさしく風のいたずらだった
道を歩いていたら、強い風で飛ばされた紙が、僕の顔にぶつかった
なんだよ、と思いながら顔から剥がす
それは何かのアニメ映画のチラシだった
チラシの絵を見た瞬間、心臓を撃ち抜かれたような衝撃が走る
一目惚れだった
いや、誤解されそうなので一応言うが、キャラクターに一目惚れしたわけではない
チラシの絵全体に対して一目惚れした
どうやらこれは以前テレビで放送していたアニメの初の劇場版作品らしい
そういえば、このアニメの話題は度々耳に入っていた気がする
その時は全く興味を持たなかったのだが
チラシの持ち主だろう人が、すいませんと言いながらこちらへ駆け寄って来る
僕は、こちらこそありがとうございます!と熱を込めて、その人にチラシを返した
相手は困惑していたが、気にならない
気にする余裕はない
すぐに家に帰って、公式サイトでどんなアニメか調べた
面白そうだった
絶対に僕が好きなタイプのアニメだ
僕はなぜこんな自分好みの作品をスルーしていたのか
即座に配信サイトで一話を見た
予想通り僕の好みの真ん中を貫く作品だ
その勢いのまま、三日で全シーズン全話をいっき見
かなり疲れたが、僕は満足感に包まれる
そして原作も全巻購入だ
一瞬にして作品のファンになった僕は、映画公開までの間、原作を読み切り、知るのが遅れたぶんを取り戻すため、本気で楽しむことを誓ったのだった
透明な涙と呼ばれる宝石がある
この宝石は、一定の明るさの中では人の目には見えなくなるのだ
見えづらいとかではなく、まさしく無色透明で視認できない
触って感触を確かめない限り、誰もそこにあるとは気づかないだろう
そして、この宝石のおもしろいところは、一定の暗さになると、輝き始める点にある
そう、明るい場所では見えず、暗くなって初めて、美しさを発揮するのだ
で、透明な涙の所有者であるカール・フェザーストーン氏が、何を思ったか、そんなものを屋外の立食パーティで、ケースにも入れずに置き、夜になって何もないと思われた場所で輝き始めた透明な涙を見せて驚かせようなどという、バカの極みみたいなドッキリをしたいと抜かした
もう一度言うが、透明な涙は昼間は透明なのだ
さらに計り知れん価値を持つ、超貴重な宝石だ
それをケースに入れず放置しろと言っている
我々は反対した
猛反対した
宝石を守るという仕事で報酬をもらっている以上、たとえ雇い主の思いつきでも、責任を放棄するような、危険な真似はできない
しかしフェザーストーン氏は、だったらクビだなどと言い始め、生活がある我々は渋々承諾した
その結果、パーティ直前、他ならぬフェザーストーン氏が、透明な涙が健在であると確認するためにちょっと触れようと近づいた瞬間、転んだ
その勢いで宝石の乗った台を盛大にぶちまけた
透明な涙は音もなく、姿も見えず、どこかへ吹っ飛び、もしくは転がり、見事に行方不明となったのである
だから言っただろバカ野郎
夜になれば輝きを取り戻すとはいえ、のんきに待つことはできない
盗まれる心配や、破損する恐れがあるからだ
幸いパーティは始まっていないので、客はおらず、恐ろしく面倒なことにはならずに済んだ
我々は、見つけても盗まぬように、ペアになって探すことに決定
探す役と監視役に分けたため、探せる人員は我々のチームのうち半数だ
しかも、監視役がしっかり監視できるよう、探す側も手順に沿わなければならず、効率が悪すぎて夜になって見つかる確率のほうが高い
フェザーストーン氏はオロオロしている
心配の言葉を口にしているが、うるさくて集中できないので黙っていてほしい
結局、日が傾いてきて、透明な涙が輝くことで見つかる可能性が限りなく濃厚になる
パーティ?そんなものは中止だ
周囲が暗くなってきた時、ようやく透明な涙が輝き始めた
落ち着かないフェザーストーン氏が心を安定させるために持っていた、からっぽのグラスの中で
どうやら、台をぶちまけた際、近くのテーブルにあったグラスに入ったらしい
それにフェザーストーン氏が気づかず、精神安定のため持ったと
我々の必死の捜索は何だったのだろう
これまでに経験したことのない、激しい脱力感に襲われた
フェザーストーン氏は先ほど以上にオロオロし始め、なんと詫たらいいかわからない、といった感じだったが、我々はもう疲れ果て、謝罪の言葉などどうでもよくなっていた
もう今すぐにでも寝たい