ある日、彼女は世界から忽然といなくなった
僕の前に現れた狐のぬいぐるみのような生き物によると、彼女は別の世界に飛ばされたらしい
本来いるはずのない世界に、別の世界の人間がいると、同一人物が二人いる矛盾から、その世界にも本人にもよくないことが起こるらしい
狐のぬいぐるみ生物……狐ぬいから、安全に世界を渡り、留まれる魔法をかけてもらい、僕は様々な世界を旅することになった
彼女を見つけ出すために
別の世界の彼女に出会った
若くして大企業の社長になったらしい
その情報網で目撃情報を集めてくれた
最後に彼女が目撃された場所へ行くと、別の世界へのゲートが現れた
狐ぬいによると、このゲートを通った形跡があり、もうこの世界にはいないらしい
僕たちはゲートをくぐり次の世界へ
その世界の彼女は、世界を守る変身ヒーローだった
ヒーローなら何か知っているのではと思い、事情を話すと、なんと、すでに出会っていたという
話によると、彼女は何かを探して自ら自分の世界を出たとのことだった
この世界をすでに去ったようだ
その後も別の世界の彼女たちの力を借り、痕跡を辿った
繰り返すうち、わかったことがある
彼女は僕のいた世界の人間ではない
そして彼女は、自分の故郷を探していたのだ
僕の世界に彼女が問題なく留まれたのは、その世界に、別の彼女が存在していなかったから
ふと思う
君が故郷を見つけたら、僕は君にもう会えないのだろうか?
その世界で暮らすのだろうか?
それは困る
僕はまだまだ君と色々なことをしたいんだ
頼むから、僕の前からいなくならないでほしい
たくさんの世界を旅して、たくさんの君と出会ったんだ
でも、僕はどの君もしっくりこなかったよ
やっぱり、僕のよく知っている君が一番いい
君と一緒にいたい
どの世界の君とも違う、ただひとりの君へ、この思いを伝えよう
ついに彼女を見つけた
そこは植物に侵食されて廃墟と化したビルが並び、僕と彼女以外に、誰も人はいなかった
この世界の人類は、彼女を除いて滅んでしまったようだ
狐ぬいは、最後の人類である彼女を、この世界の住人が何らかの技術で、僕の世界へ逃したのだろうと言った
そういえば、彼女は養護施設で育ったんだった
彼女はある日、世界を渡る力に目覚めたのだそうだ
それと同時に、この世界の技術なのか、自分の出自と、力の使い方を瞬時に知った
そして頭の中で、両親の映像が流れ、世界が安定したら帰っておいでと言っていた、と話してくれた
だが、この状態を見るに、きっともう……
僕には、彼女が何を思い、どんな心境なのかは想像もできない
どんな言葉をかければいいかもわからない
だけど僕は、伝えたかったことも忘れて、その時思っていたことを、そのまま口にした
それが正しい言葉なのかはわからなかったけど
「帰ろうか、僕たちの世界へ」
彼女はうなずくと、静かに微笑んで、僕とともに元の世界への帰路についた
狐ぬいは、それを見届けると、満足そうな顔をして僕たちに別れを告げた
狐ぬいが何者なのか、よくわからなかったけど、おかげで彼女を見つけられた
僕も、感謝しながら別れの言葉を言い、彼女と二人で狐ぬいを見送るのだった
1/19/2025, 11:17:33 AM