透明な涙と呼ばれる宝石がある
この宝石は、一定の明るさの中では人の目には見えなくなるのだ
見えづらいとかではなく、まさしく無色透明で視認できない
触って感触を確かめない限り、誰もそこにあるとは気づかないだろう
そして、この宝石のおもしろいところは、一定の暗さになると、輝き始める点にある
そう、明るい場所では見えず、暗くなって初めて、美しさを発揮するのだ
で、透明な涙の所有者であるカール・フェザーストーン氏が、何を思ったか、そんなものを屋外の立食パーティで、ケースにも入れずに置き、夜になって何もないと思われた場所で輝き始めた透明な涙を見せて驚かせようなどという、バカの極みみたいなドッキリをしたいと抜かした
もう一度言うが、透明な涙は昼間は透明なのだ
さらに計り知れん価値を持つ、超貴重な宝石だ
それをケースに入れず放置しろと言っている
我々は反対した
猛反対した
宝石を守るという仕事で報酬をもらっている以上、たとえ雇い主の思いつきでも、責任を放棄するような、危険な真似はできない
しかしフェザーストーン氏は、だったらクビだなどと言い始め、生活がある我々は渋々承諾した
その結果、パーティ直前、他ならぬフェザーストーン氏が、透明な涙が健在であると確認するためにちょっと触れようと近づいた瞬間、転んだ
その勢いで宝石の乗った台を盛大にぶちまけた
透明な涙は音もなく、姿も見えず、どこかへ吹っ飛び、もしくは転がり、見事に行方不明となったのである
だから言っただろバカ野郎
夜になれば輝きを取り戻すとはいえ、のんきに待つことはできない
盗まれる心配や、破損する恐れがあるからだ
幸いパーティは始まっていないので、客はおらず、恐ろしく面倒なことにはならずに済んだ
我々は、見つけても盗まぬように、ペアになって探すことに決定
探す役と監視役に分けたため、探せる人員は我々のチームのうち半数だ
しかも、監視役がしっかり監視できるよう、探す側も手順に沿わなければならず、効率が悪すぎて夜になって見つかる確率のほうが高い
フェザーストーン氏はオロオロしている
心配の言葉を口にしているが、うるさくて集中できないので黙っていてほしい
結局、日が傾いてきて、透明な涙が輝くことで見つかる可能性が限りなく濃厚になる
パーティ?そんなものは中止だ
周囲が暗くなってきた時、ようやく透明な涙が輝き始めた
落ち着かないフェザーストーン氏が心を安定させるために持っていた、からっぽのグラスの中で
どうやら、台をぶちまけた際、近くのテーブルにあったグラスに入ったらしい
それにフェザーストーン氏が気づかず、精神安定のため持ったと
我々の必死の捜索は何だったのだろう
これまでに経験したことのない、激しい脱力感に襲われた
フェザーストーン氏は先ほど以上にオロオロし始め、なんと詫たらいいかわからない、といった感じだったが、我々はもう疲れ果て、謝罪の言葉などどうでもよくなっていた
もう今すぐにでも寝たい
1/16/2025, 11:52:01 AM