異界の敵によって世界は危機に陥っていた
私たちはその敵に対抗できる数少ない存在で、仲間たちとともに敵と戦う決意をした
長く激しい戦いの末、私たちは敵を打ち倒す
世界は救われたのだ
ただ、世界を救った代わりに、仲間たちの肉体は限界を超え、今、滅びへと向かっている
もう、どうすることもできない
私は仲間たちを守れなかった
けど、みんなの魂は別の世界へ送る
私の最後の能力で、安らげる平行世界へみんなを届ける
記憶は失うことになるけど、みんななら大丈夫
みんなの魂のつながりは強いから、必ず集まって、また仲間として絆を結べるよ
私もみんなと一緒に行きたいけど、私は私の魂を運べない
私の分まで、みんな幸せになって
最後の魂を見送った
みんな、さようなら
もう一度みんなと、あなたと、笑い合いたかったな
ここはどこだろう
いや、覚えがある
世界の意思を名乗る存在から、異界の敵に対抗する力を授かった場所だ
私は死んでしまったのかな
頭の中に声が響く
あなたたちは世界のために命を賭して戦ってくれた
世界はあなたたちに深く感謝しています
あなたたちの力と心、そして絆によって、この世界は滅びから救われました
私は世界の人々の、意識の集合体のようなもの
正確には違いますが、そう言っておきます
人の感覚では理解が難しいのです
あなたたちに救われた世界の人々の、あなたたちへの深い感謝が私に奇跡の力を与えました
その力で、あなたの魂を、仲間たちの世界へ送ります
そこで、今度こそ仲間たちと幸せに
私は心の底から驚いた
本当に?
本当に私は、みんなのもとへ行けるの?
はい
ただし、あなただけは、記憶を保ったままです
この世界での思い出は、仲間と共有できないでしょう
それでも、仲間のもとへ行きますか?
もちろん
みんなと、絆を結んだ仲間ともう一度笑い合えるなら、みんなのいる世界へ行きたい
思い出は、また作り直せばいいから
わかりました
それでは、あなたの魂を仲間たちの世界へ送ります
私の周りを光が覆う
この世界の記憶を連れて、魂が転生を始めた
たとえ誰も私を覚えていなくても、私はみんなを覚えてる
大好きな親友の、あなたのもとへ
ともに戦った、大切なみんなのもとへ
今、行くよ
私は、こっちの世界で転入した学校で、唯一再会できた親友に連れられて、ある部の部室の前にいた
再会したと言っても、親友に前の記憶はないけど
それでも、この子との日々は充実していた
さて、彼女は私を、自分が入る部に勧誘したいらしく、ここまで連れてきた
この子が面白そうだという部活なら、本当に面白いだろうから、入部してみようと思った
ノックして、部室へ入る
少し緊張しながら部室の中を見た瞬間、心臓がドキンとした
……いる
みんながいる
前の世界で一緒に戦ったみんなが
もう、先にみんな再会できてたんだ
同じ部の部員として
私は足が震えて立てなくなり、その場でうずくまって泣いた
みんなが驚いて私に駆け寄って、色々な言葉をかけてくれるけど、嬉しすぎて頭に入ってこない
また、みんなと笑い合えるのだと強く実感した
これからきっと、戦う前の、あの頃みたいな、楽しい日々が帰ってくるんだ
僕は隣の席の福杜さんと共に、ギリギリの戦いをしている
福杜さんは笑いの沸点がかなり低い
そんな福杜さんに、授業中にそっと、そぉーっと、僕が考えたネタを紙に書いて渡す
笑いの沸点が低い福杜さんが僕のネタを見て、笑い声を出したいのを必死にこらえて、バレない程度にそっと笑う
先生にバレなければ成功
福杜さんが笑い声を上げてバレたら失敗
福杜さんにウケなかったら、お話にならないので、この場合は大失敗
もちろん、福杜さんも同意の上でやっている
二人とも、こういうくだらないスリルが好きなのだ
笑いの沸点が低い福杜さんを、大ウケさせずに、ちょっとだけ笑わせる
そのギリギリを攻めるのが楽しく、先生にバレないようにそっと行うこのスリルがたまらない
ちゃんと授業に集中するべきなんだろうけど、言い訳をさせてもらうと、成績は僕も福杜さんもけっこういい
それに、ちょっと遊んでも授業には問題なくついて行けてるので大丈夫
なので、こんなことをしているのだ
まあ、だからといって許されるわけじゃないけどね
今日も福杜さんは必死に笑い声をこらえている
そっと、バレない程度に肩を震わせ笑っている
よし、今日もギリギリのところで笑いを抑えられたみたいだ
授業が終わったあとで、福杜さんとうまくいった喜びを分かち合おう
「まだ見ぬ景色ってやつ、見たくない?」
友達が唐突にそんなことを言い出した
この人はよく変な思いつきを言う
この前も、蛇を首に巻きに行こうとか言ってたし
しかも、できる場所を探したのは私で、彼女は一切を任せっきり
二人で写真撮ってもらって楽しかったけどね
それで今回はまだ見ぬ景色
探して提案するのは私だろう
なんて無茶ぶり
旅行の予定でも立てさせる気なのかな?
「そんな大げさな話じゃないよ
私たちって自分が住んでる街の全てを知り尽くしてるわけじゃないでしょ?
だから、近場で行ったことのない場所の景色を楽しもうかなって」
遠出しないで済んでよかった
「で、よさそうな場所を私に調べろと」
「そうそう」
本当に自分勝手だなあ
了承して調べちゃう私も私だけど
で、よさそうなところの情報を聞いたので、後日二人で行くことになった
最近できた商業施設で、上の方の階の窓から見る景色がけっこういいと、別の友達に紹介されたのだ
「最高だよ!
近場にこんないいところができたんだね」
彼女は買い物しながらそんなことを言った
いや、景色じゃないんかい
いいところなのは同意するけど
「まだ見ぬ景色、そろそろ見に行こうよ」
「そうだね、本来の目的を思い出させてくれてありがとう!
すぐにでも向かおう!」
調子いいなあ
私たちはやっと目的の階へ行き、窓から景色を見た
これは、思ってた以上にいい眺めだ
「うわあ、額に入れて飾りたくなる景色だね」
「さすがに大げさじゃない、それは?」
ご満悦みたいでよかったよ
こんなに目をキラキラさせてるのを見ると、なんかほっこりしちゃうよね
変なことを思いついておいて、人任せな友達だけど、不思議と思いつきに付き合うと毎回楽しいんだよね
だから私も受け入れるんだけど
本当に、不思議な友達だな
夢っていうのは、一期一会だ
一度覚めてしまったら、再び見ることはできない
その先なんてものも見られないし、そもそも夢の内容を忘れてしまうことのほうが圧倒的に多いだろう
俺の夢もそうだ
現実に引き戻されたら、もうその夢はお終いなんだ
しばらくは覚めた夢を思って辛くなるだろうが、いつかは忘れられる
そんな風に考えていた
今思えば、俺は疲れ果てていたんだろう
未練を感じながらも、夢を見つづける苦痛が、叶えたいという思いを上回ったんだ
だが、そんな中で、あいつは俺をまた夢の中へ引き込んでくれた
あいつが俺に力を貸すと言った時、同じ夢を見ても、またその夢から覚めてしまうかもしれないことが恐くて、拒否してしまった
それでも、あいつは俺のため、奔走してくれた
友人として、助けになりたいと
その姿を見て、俺もまだまだ頑張れるんじゃないかと、そう思えたんだ
俺はあいつのおかげで、一度は諦めたあの夢のつづきを見ることができた
いや、まだ見つづけているんだろうな
叶ってもなお見つづけられる、楽しい夢
俺は、あいつのおかげでそんな素晴らしいものに出会うことができた
もし、あいつが覚めたくない夢から覚めそうになったとしたら、今度は俺が全力で夢に引き込もう
厳しい現実に叩き起こされたとしても、その現実の中で白昼夢を見せてやる
俺があいつから、そうしてもらったように
君はあたたかいね
え?冷え性だって?
体温の話じゃないよ
君に触れたことなんてないのに、体温なんて知るわけないでしょ?
言うのは恥ずかしい感じがするけど、心だよ、心
私、けっこう君のことを観察してるんだけどさ
あっ、気味悪がらないでよ?
これには深いわけがあって、まあ、その話は置いといて
ともかく、観察の結果、君ってかなりの友達思いだと思うんだよ
付き合いよかったり、勉強を教えたり、みんなが嫌がることも率先してやろうとするし
普段すごく優しいけど、ただ優しいだけじゃなくて、友達のためを思って、言うべきことははっきり言うじゃん
あと、学校の外でも人に親切だよね
たまたま街で見かけたとき、道に迷った外国の人に時間をかけて熱心に教えてあげてたし
周りのみんなはそんな君のこと、すごく好きなんじゃない?
君を嫌いになる人なんて、嫉妬する人くらいじゃないかと思うよ
君の人へのあたたかさは中々出せるものじゃないよ
まあ、私が言いたいのはそういうことだから
え?君を観察してた理由?
くだらないことを気にするね、君
そんなのどうでもよくない?
あ、ダメ?
ええと、その、なんというか、言わなきゃダメ?
あー、はい、言います
君のことが、あの、恋愛的な意味で好きだからです
私の心は寒がりなので、あたたかい君に惹かれました
あの、告白しちゃった以上、返事は欲しいけど、その、一旦持ち帰ってくれると助かる
返事がどっちだとしても頭がパンクしそうなんだよね
じゃあ、私帰るね!
また明日!