「やさしい人が好き」
って女はみんな言うくせに
かっこいいと言われてるやつは別にやさしくない。
むしろ、ひどいやつのことを
かっこいいっていう。
例えば俺みたいやつをいじって笑うやつとか
遠まきに見てるやつとか
結局はそう言うやつらを好きになる。
「やさしい人が好き」には
「ただしイケメンに限る」という言葉が
ついてくる。
あいつらは言ってることがめちゃめちゃだ。
きれいで、かわいい顔をして
すごく、怖い。
だから、
横目で見て近づかない。
向こうだって、俺と話したいとは思っていないだろう。
「やさしい人が好き」には
「私に」がついているのかもしれない。
「私にやさしい人が好き。ただし、イケメンに限る」
手を繋いで過ごす
真夜中が
1番好きだ。
わたしの安心は君だし
そして
わたしの不安は君なんだ。
君の一声で、生きててよかったって思う。
君の返信一つで、消えたくなる。
画面の向こうで、
ゲームをしたり
おしゃべりをしたりしている
君。
動画を色々みているうちに
君にたどり着いた。
一生懸命自分の好きなゲームについて語る声が
知っている人のように思えて
最後まで配信を見てしまったのがきっかけ。
案外豪快な笑い方で
わたしの知ってる人とは別人だと分かったけど。
配信日は待機するようになった。
今日も頑張ろうと言われたら
うん、頑張ると思うし
いつも応援ありがとうと言われたら
やっぱり嬉しいし
こういう僕でもいいのかなと言われたら
全然そのままでいいよといいたい。
1人も友達がクラスにいなくても
そういう言葉がどこまでもわたしの安心になる。
トイレに行くのが1人でも
教室移動が1人でも
別に気にしない。
君がくれた安心がある。
わたしには君がいる。
でも最近、
反対の気持ちになることも増えてきた。
誰にリプ飛ばしてるの?
誰のコメントを読み上げたの?
もしかして、誰かそばにいるの?
あのファンとやりとりしてるの?
そもそも、君は、わたしを認知してるの?
どんどん知りたくなって
その分不安になる。
でもまた一言で天にも昇るんだ。
ジェットコースターみたい。
上がって落ちている間には、自分の悲鳴しか聞こえない。
「恋なんていつかは終わるものだから」
失恋した友達に、
よく知ったような顔をしてそういう慰め方をする
友達、
それも自分は恋人がいる友達ほど
信じていけないものはない。
わたしの恋がお前の恋と同じだと思うなよと言いたい。
あんたは元々恋愛感情が自然にあって
しかも
異性が好きで
誰にも文句を言われたことがないくせに。
自分に恋愛感情があるかもわからず
誰かに触れることも苦手で
しかも同姓が好きなことにようやく気づいて、
奇跡みたいに付き合った相手と別れて
死ぬほど泣いて何が悪い。
もう2度と巡り会えないかもしれない相手に
「やっぱり無理だった」とか言われてみろよ
と思う。
飛びかかりそうなくらいに腹が立ったが
今のわたしには
こいつくらいしか呼び出せる奴がいない。
「何、そのひどい顔。ふいたら」
ティッシュの箱を投げてよこす、性格の悪さ。
「公園で別れ話して、土下座して、そこから立ち上がれなくて帰れないあんたを助けに来た友達にする顔じゃないでしょうよ、それ」
相変わらず口がへらない奴だ。
したから睨みつけるように見たら、
夕日の逆光で、ものすごく綺麗なシルエットで立ってやがった。
容赦がない。
そして容赦がないところが、
こいつの友達としての価値だ。
もう一回大声で泣きわめいても
動揺もせずに、まだ逆光のシルエットのまま、紙のタバコを吸っている。
本当に腹が立つ、美しさだ。
「さあ帰ろう」
まっすぐな道を歩いていく。
周りは白い草原。
さらさらと音を立てて揺れている。
雪や霜ではなく、
草そのものが白いようだ。
道は白っぽい黄色。
空は妙な色をしていた。
淡い紫色だ。
雲は濃い紫で横にたなびいていた。
ひたすら歩いていくと
白い石塔があった。
台座の上に長方形の石が載っている。
まるで墓だなと思う。
ただ、それにしては石材が変だ。
なんとなくだが、珊瑚で、できているのではないかと思う。
白くて、ポツポツと穴が空いていた。
ついつい台座の上の石を撫でてしまった。
すると水音がする。
ぽちゃん、ぽちゃん。
どこからか、水がもっているのだろうかと思って、石を触っていると、
台座の一部に穴が空いている。
拳ぐらいの大きさだ。
そうっと覗いてみると、その向こうに、水の溜まったところがあって、粗末な小舟に
綺麗な女と髭もじゃの男が向かい合って乗っているのが見えた。
しばらく見ていると
水音は、小舟に荒い波が当たって、跳ね返って出ているようだった。
綺麗な女も髭もじゃの男はどちらも疲れているようで顔を伏せ、何も喋っていない。
何か起きないかなぁとしばらく眺めていたが
波がぽちゃんぽちゃんと叫ぶ以外に何も起こらないので、
穴の向こうに息を吹き込んでやった。
すると波はさらに大きくなり、
小舟のへりを乗り越えようとしてくる。
髭もじゃの男は少し狼狽えた様子を見せ、綺麗な女に何か低く叫んだ。
息がを吹き込むのをやめると、小舟の揺れは少し落ち着き、2人も、ほっとした様子だった。
またぽちゃんぽちゃんと波の音だけになった。
つまらんなと思って、
今度はふうふう続けて息を吹き込んだ。
小舟はクルクル周り、波はざぶざぶ、小舟の中へ入り、髭もじゃの男と綺麗な女は抱き合った。
そうそう、これでいいのだと思って、最後に、満足のため息を吹き込んだ。
その最後の息が向こう側に届くと
船は真っ二つに割れて、髭もじゃの男と綺麗な女は
あっという間に沈んでしまった。
後には波だけが残った。
えらいことをしてしまったと穴から顔を上げると、
白い草原の中だった。
冷や汗をかいている。急いで元来た道を戻ることにした。
ただ、行きとは違って、
誰かこちらを見ている気がする。
ちょうど、頭の上の方。
なんだか急に風が吹いてきた。
なまぬるく、生臭い風が、気まぐれに。
こんな夢を見た。