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1/23/2023, 9:14:56 AM

目の前から降り立ったクソババアが
鬼の仇みたいに俺を睨んでる。
目の前に立ってこっちを睨んでるのだけでも
クソババアだが、
見た目が完全にクソババアだ。

髪の毛は砂みたいな色でボサボサ、
肌にはあちこちにシミがあって、
白目は黄色っぽい。
開いた口は洞窟みたいに真っ暗で、ひどい匂いがした。
多分、歯がないんだろう。
その辺のスーパーで売っているようなトレーナーとズボンを履いていた。
触らぬ神に祟りなしで、そのババアを遠巻きにして進もうとすると
ぐいっと近づいてきて、
「お前のせいで人生が滅茶苦茶になった」と叫ぶ。

俺にはこんなババアの知り合いはいない。
舌打ちをして、反対を向いて歩く。

ババアどこまでもすがってきた。

「お前のせいで人生がめちゃくちゃになった」と繰り返す。
イヤホンの音量を上げて完全に無視しようとしたが、
ババアが
俺の改名前の本名を叫んだので、
立ち止まった。

「符凛水(プリンス)!お前のせいで、人生がめちゃくちゃになった」

そう、俺の名前は18歳まで符凛水(プリンス)という名前だった。
もっともその名前をつけた女は俺が物心着く頃には目の前からいなくなっていた。
俺は親戚の家で育ち、ネットで調べて18歳を機に拓実に改名したのだ。
俺に食ってかからんばかりのババアはひたすら、弱りきった自分の面倒を見ない俺が悪いというようなことを言っている。
拓実だ、今の俺は拓実。
このババアのことはあのふざけた名前と同時に捨てたと心の中で繰り返す。

「どなたかと勘違いされているのでは?」
「わたしにはあなたのような母はおりません」と言って、腕を振り払った。
心底、他人だという声が出た。

ババアはきょとんとして、そんなはずがないとわめいていたが、俺は一瞬の隙をついてタクシーを捕まえ、乗り込んだ。
「どちらまで?」と聞かれたので
「空港へ」と返した。
「ご旅行ですか?」
「はい。たった今、思いついたので」

勤め先に、休みの連絡を入れて、スマホからチケットを購入する。
できるだけ、遠く、
できるだけ、あたたかいところへ行こう。

タクシーに乗っている間だけ、過去に戻って
その先には2度と思い出さない。
このタクシーだけが、
タイムマシーンだ。
そして2度と乗らない。

1/21/2023, 10:55:11 AM

いつもみたいに、
「1時間後にスペースやります」とツイートする。
スマホの画面をすごい頻度で確認してるけど
♡はつかない。
でも、見ている人はいる。
インプレッションの数は50くらい。
でもこれって何度も確認している自分の数もカウントされてるのかもしれない。
49回自分が確認していて、1回が誰かなのかも。
1時間はあっという間に過ぎてしまった。

Twitterスペースを開く。
「こんばんは」
「えーとえーと今日も話したいと思います」
今回はこれまでと違って、
言いたいことを少しだけ紙に書いた、
まずはそれを読む。
「えーとえーと。ボクは話をするのが苦手で」
「それで、家の外ではほとんどしゃべらないんですけど」
「しゃべらないっていうか、しゃべれないっていうか、うまく言葉が出なくて」
「ずっとそういう自分が嫌いで」

もっともっと言いたいことはあるのに言葉にならない。
喉の辺りがひきつる。
「えーとえーと…そういう自分を少しでも変えたいなーと思って」
「最近スペースをやってます」
「目の前に、人がいないなら…少しはしゃべれるみたいなことに気づいたので…」
「考えてることを言えばいいって言われるんですけど…やっぱり頭は真っ白になります」
息を吐く。
「えーとえーと…今日は昨日見た動画について…紹介します…えーとメモ…メモ…」

前回は初めて5分で話すことがなくなってしまったので、
今回はしゃべる内容をメモにしたのだ。
そして今日は、
誰かが聞いても
聞かなくても、
それを全部しゃべると決めていた。

メモの内容を話し切って10分。
あれだけ時間をかけたけど、10分で終わってしまった。
何人かは聞きにきてくれたようだったけど、
怖くて反応は見られなかった。

でも、自分の約束は守れた。
何があってもメモの分はしゃべること。
それができた。
まだ震えている。
でも、
今夜は特別な夜だ。

1/20/2023, 10:40:20 AM

沈んでいく。
小さい泡がぷくぷくと上がっていく。
見える世界のすべては
絵の具を解いたような翠色。
ところどころ色がけぶっている。
海は青くはないんだな、と思う。
小さい泡を目で追うと、
頭上だけがぼんやり明るい。
ずいぶん遠い。
頭上を影が通っていく。 
一体、あれはなんの影なのだろう。
ここは海の底。

誰とも話をしたくない時、
何も考えたくない時、
僕はいつも「海の底」にいる。
これは1つのライフハック。

名前を何度か呼ばれてハッとする。
「またぼーっとしてる」と
呆れたように言われたので
いつもの癖で、
頭を下げた。
「そんなにつまんない?」
「…そういうわけじゃない…です」
先輩は僕を見て鼻で笑う。
「じゃあ、なんの話してたか言ってみて」
話なんかひとつもしてなかった。
いつものパターンで
1番要領の悪いタマキをいじって、笑って
その動画を撮ってただけだ。
タマキは頭が悪い。
先輩の前で別の先輩を褒めたりする。
先輩はそういう頭の悪いやつを見逃さない。
遊ぶ理由になるからだ。

ひとまず、僕に矛先が向いてホッとしている上半身裸のタマキを
ぶん殴って、床に引き倒し、一発蹴りを入れた。
周りがどっと湧き、そこに汚い嗚咽の声が漏れた。
横目でちらっと先輩を見ると、満足したようだった。
心の底から笑ってる。
なので、勢いのまま、何度か、追撃の蹴りを入れ、後ろに飛び退った。
あとは他の奴らがなんとかしてくれるだろう。
輪から外れて壁にもたれて座った。

ここは海の底。
なんの生き物もいない。
沈んでいく。
見える世界のすべては
絵の具を解いたような翠色。
ところどころ色がけぶっている。
頭上だけがぼんやり明るい。
ずいぶん遠い。
頭上を影が通っていく。 
一体、あれはなんの影なのだろう。
ここは、海の底。
誰も届かない。








1/20/2023, 12:52:59 AM

学校なんてつまらない。
授業も退屈だし、先生はうるさいし
クラスメートは幼稚な奴らばっかりだ。
アイドルや動画配信者の話しかしない奴らと
話すことなんてない。
周りがうるさいから登校しているだけ、
誰にも何も言われたくないから行ってるだけ、
そう思っていた。
つい半年前までは。

夏休み明け、先生に連れられて、君がやってきた。
物怖じしない、飄々とした雰囲気で
自己紹介をして、
すとんと自席に座った。
あとから聞くと、すごく緊張してたんだという。
そんな風には見えなかったというと、
「そういう顔だから」と言ってのける。

仲良くなったきっかけは
君がたまに呟く一言に笑ってしまったことからだった。

多分、担任のひどく適当な言い回しに、
「責任感のない言動」と呟いたのを聞いてしまったのだ。
担任はいい人なのだが、全体的に雑なところがある。
いいように言えば前向きなんだろうけど、
時々気に触る、と感じていたので
君の一言にひどく納得した。
担任が去ってから、君の「笑ったよね?」という一言に、
堪え切れずに声を上げてしまった。

それからは、お互いの考えていることをこっそり伝え合うようになった。
校外学習って意味ある?
アイドルって大体みんな同じ顔じゃない?
悪ふざけ動画は苦手。
ポテトチップスはうすしおにかぎる。
冬より夏が好き。
どうして大人ってやろうとしてたことを言ってくるの?
わからないのに偉そうなのはなんで?
そういうささやかなことをたくさん話す。

不思議なことに2人でぶつぶつ言っていると
退屈や不快が
遊びになる。
「ああ、むかついた」と言いながら、元気になる。

君に会いたくて、学校に行っている。
そう言いあえることが、こんなにも、嬉しい。

1/19/2023, 12:10:30 AM

この文章を読む人など本当にいるのだろうか。
この画面の向こうに、これを読んでいる人がいるような気がしない。
こうやって打ち込んだ文章は誰にも読まれず気付かれずアプリの中に残るだけ、という方がしっくりくる。
誰も読まず気付かれない文章になんの意味があるのだろう、と思う時がある。

でも2023年は
どうしても文章を書くことに慣れたい。
日常的に書けるようになりたいのだ。

誰にも読まれず気付かれず、どこにも届かない。
逆に考えればそれは自分のためだけのものだ。
この閉ざされた日記だけが、本当に私だけのもの。
本物の贅沢だ。

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