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沈んでいく。
小さい泡がぷくぷくと上がっていく。
見える世界のすべては
絵の具を解いたような翠色。
ところどころ色がけぶっている。
海は青くはないんだな、と思う。
小さい泡を目で追うと、
頭上だけがぼんやり明るい。
ずいぶん遠い。
頭上を影が通っていく。 
一体、あれはなんの影なのだろう。
ここは海の底。

誰とも話をしたくない時、
何も考えたくない時、
僕はいつも「海の底」にいる。
これは1つのライフハック。

名前を何度か呼ばれてハッとする。
「またぼーっとしてる」と
呆れたように言われたので
いつもの癖で、
頭を下げた。
「そんなにつまんない?」
「…そういうわけじゃない…です」
先輩は僕を見て鼻で笑う。
「じゃあ、なんの話してたか言ってみて」
話なんかひとつもしてなかった。
いつものパターンで
1番要領の悪いタマキをいじって、笑って
その動画を撮ってただけだ。
タマキは頭が悪い。
先輩の前で別の先輩を褒めたりする。
先輩はそういう頭の悪いやつを見逃さない。
遊ぶ理由になるからだ。

ひとまず、僕に矛先が向いてホッとしている上半身裸のタマキを
ぶん殴って、床に引き倒し、一発蹴りを入れた。
周りがどっと湧き、そこに汚い嗚咽の声が漏れた。
横目でちらっと先輩を見ると、満足したようだった。
心の底から笑ってる。
なので、勢いのまま、何度か、追撃の蹴りを入れ、後ろに飛び退った。
あとは他の奴らがなんとかしてくれるだろう。
輪から外れて壁にもたれて座った。

ここは海の底。
なんの生き物もいない。
沈んでいく。
見える世界のすべては
絵の具を解いたような翠色。
ところどころ色がけぶっている。
頭上だけがぼんやり明るい。
ずいぶん遠い。
頭上を影が通っていく。 
一体、あれはなんの影なのだろう。
ここは、海の底。
誰も届かない。








1/20/2023, 10:40:20 AM