【小さいけど大きな虹】
雨の後に空を見て虹を探すのがお約束だった。
幼稚園児の頃に、大雨の後に空を見て、虹を見つけたらラッキーっていう遊びを個人的にやってた。
...まぁ、高校になってからはそんな遊びもしなくなったけど...
でも、家の近所に住む幼稚園児の男の子が幼い頃の俺と全く一緒だったんだ。
雨上がりに家の外に出て虹を探してるんだよ。
虹が見えたら分かりやすぐはしゃいで、見えなかったら分かりやすぐ落ち込むんだ。
その姿がめっちゃ可愛かった。
だから、とっておきを見せてあげようと思った。
雨上がりの日、男の子はいつものように虹を探してたけど、見つからなかったみたい。
落ち込んで家に帰ろうとする男の子に俺は声をかけた。
手には花壇に水をやる為のシャワーがある。
頭に「?」を浮かべる男の子に水がかからないよう俺はシャワーの水を高らかに空に向けた。
綺麗な水の弧を描いたシャワーの水に、太陽の光が合わさって、男の子の背よりも大きな虹が出来た。
空の虹に比べたら、随分ちっぽけな虹だけど、男の子からしたら大きく見えたようで目を輝かせてくれた。
男の子は分かりやすくはしゃいでくれて、俺もめっちゃ嬉しかったし、楽しかった。
その日から俺は、男の子に会うたびに"虹のお兄ちゃん"なんて呼ばれるようになった。
お題「君と見た虹」完
【星は動かない】
小さい頃、ずっと不思議で面白かった事がある。
それは、夜空の星が自分が逃げたら追いかけてきたり、星を追いかけたら逃げたりする事だった。
もちろん、星が追いかけたり、逃げたりなんてしない。
でも、小さい頃は本当にそれが不思議で、面白くて、星と遊ぶのに夢中だった。
夜、両親と一緒に近所の公園に行き、広い夜空の下で星に追い付こうと公園内を駆けた。
1番大きな星を見つけては追いかけて、赤っぽい色や青っぽい色の星を見つけては逃げてみたりした。
大人になった今は、星を見ても追いかけたり逃げたりしない。
...でも、今日の仕事帰りの事だ。
仕事場から家の帰路の途中ですれ違った親子の幼い男の子が星を見て母親に言った事に私ははっとした。
「ママ、星が追いかけてきてるっ」
「星?追いかけてきてないよ、動いてないでしょ?」
「ほら!見てみて!動いてる!追いかけて来てるよ!」
母親にはピンときていない、子供の言う星が追いかけてくると言う発言。
そういう感性は、星の仕組みを理解してない、純粋な子供だからこその発見だったのか...と。
親子と完全にすれ違った後、私は男の子の発言を聞いて初めて、今日星を見た。
なんだか懐かしい気持ちに駆られて、私は夜空の1番大きい星を追いかけようと、駆けて家に帰ってきたんだ。
お題「夜空を駆ける」完
【自己完結】
私には高校で2年間、片想いしてる男の子がいる。
自分に芯があって、自分の周りの空気を和ませられたり、人を大切に出来る人。
委員会だったり、部活が同じっていう大きな接点があるわけじゃないけど、好きだなぁって思ってた。
でも、もし告白が上手くいって、彼と付き合う事になってから...
なんとなく、そこから先がいつも想い描けなかった。
一緒に何処かに遊びに行ったり、名前を呼んだり、笑い合う想像が出来なかった。
だから、あぁこの人と付き合えても、上手く行かないのかもしれない...そう思った。
でも、彼に対する想いを無かったことにしたくない。
...なのに、告白してはっきり嫌だと言われたくない、私も彼を嫌いになりたくない。
そんな優柔不断な想いが、私の頭の中をぐちゃぐちゃにかき混ぜる....
だから...私、決めたの。
この想いは誰にも言わない。
ずっと...心にしまっておくの。
お題「ひそかな想い」完
【今日も同じ質問】
「おはよう、調子はどう?」
『....』
「今日はぶどうゼリーを持ってきたんだ、好きだったよね?」
『....』
「グミも差し入れしたかったけど、グミって病院に持ち込んだら駄目なんだね...知らなかったんだ」
『....』
「あっ、DVDを借りてきたんだ、見れるかな?」
_____30分後_____
「そろそろ帰るよ、また明日来るね」
『.....』
『....待って』
「!....なぁに?」
『...あなたは...誰なの?』
「またその質問?」
「僕は母さんの子供だよ」
「また明日来るから、僕の事忘れないでね...母さん」
お題「あなたは誰」完
【手紙の旅路】
インクに羽ペンを浸ける。
少し模様の入った年季を感じる紙に、時おり口にペンを当てながら、言葉を考えて綴っていく。
30分程して書き終えると、男は、丁寧に手紙を折り畳んで用意していた新品の淡い空色の封筒に入れた。
家を出て、町の郵便屋に向かい、配達人に一言声をかけて手紙を託す。
配達人に受け取られた1通の手紙はやがて町を出て、山を越えた。
山を乗り越えた先で、なんと船に乗って海路に出た。
無事に海を渡りきり、再び陸に上がる。
この手紙は、一体何処に行くんだろう?
また山を1つ...2つ...3つと乗り越えていく。
手紙が無事に届けられた時には、明るかった空は、もう真っ暗で夜遅かった。
手紙を受け取ったのは年老いた男だった。
手紙を受け取った男は配達人に一言礼を告げ、家の中に戻った。
暖炉の前に座り、暖かい火に当てられながら淡い空色の封筒をレターナイフで切り、中の手紙を手に取る。
手紙を開くと、男にとって懐かしい字が現れ、思わず顔がほころんだ。
『拝啓、先生お元気ですか?
覚えているでしょうか?先生の1番弟子の___です。
僕は___。』
「...おやおや、そこの君、すまないな」
「この手紙は私の弟子からだ、1人で読ませておくれ...」
お題「手紙の行方」完