【久しぶりの笑顔】
親友が両親を亡くして何事にも無気力になった。
そんな親友を見るのが苦しくて、どうにかして助けになりたかった。
だから、荷物をまとめて親友の家に泊まりに行った。
親友がする家事を一緒に手伝ったり、親友を外に連れ出して日光を浴びせたり、明るい話題の会話をしてみた。
親友が一人になりたいと言ったら距離を取って、寂しいと言ったら寄り添って優しく親友を抱きしめた。
そうやって日々過ごしてたら、親友の様子が少しずつ変わっていった。
何をするにも無気力で暗かった親友の表情が、次第に明るくなっていった。
笑うようになった親友を見た時はすっごく嬉しかった。
笑顔の親友を久しぶりに見たからか、親友の笑顔が今まで見たよりも輝いて見えた...
お題「輝き」完
【毎日来る夜】
私、夜が怖いの。
お人形が動き出しそうで...お化けが驚かしに来そうで...
だから、怖いその時は逆に楽しい事を考える。
ベッドに置いてるうさぎさん、くまさん、あひるさんの人形達がお歌を歌ってくれるかも...
お化けは可愛いリボンをつけた女の子かも...
って考えると、怖くない...はず!
ギシッ...ガタッッ
えっ!?何?何っ?何っ!?
..........
何も起きない...あぁ...やっぱり夜は怖い...
お昼の友達と遊ぶ時間で止まってくれたら嬉しいのになぁ
それなら、毎日来る怖くて眠れないこの夜を過ごさなくてすむのに...
お題「時間よ止まれ」完
【30秒の声】
数年前にデジカメで撮ったビデオを再生する。
何故撮ったのか忘れた、たった30秒の映像には今は亡き彼女との何気ない日常風景が映っていた。
彼女の笑う君の声が、いつも聞いていた声が、こんなに近くに聞こえる。
『ちょっとぉ!いつから撮ってるの!?』
笑いながら必死にカメラを止めようとする彼女の姿で映像は終わった。
「...あぁ、君の声がまだ聞こえる内に伝えたかったな」
俺は手に握っていた指輪の入っている赤い箱をゆっくり手の中で動かした。
お題「君の声がする」完
【声に出す】
本当に些細な事でも、その人を変えるきっかけになる。
私と姉はそろって警察官で、地元で活動してる。
でも、姉は私と違って父の意向で警察官になったからか、ずっと警察官を辞めたいと呟いていた。
でも気軽に辞めちゃえば?...なんて言えず、姉はいつも日々を削るように過ごしていたと思う。
そんな姉が、珍しく仕事が終わって笑顔を見せていた。
私は姉に、何があったのかなんとなく聞いてみた。
姉曰く、今日地元の小学生の女の子に手を上げようした不審者を現行犯で取り押さえたらしい。
いつもなら、絶えない犯罪予備軍にうんざりするところが、今日は違って、小学生の女の子に
「お姉ちゃん、助けてくれてありがとう!」
って言われてびっくりしたんだって。
普段なら、子供はその場から逃げたり、逆に手を上げたと子供や親に誤解されたりするんだと。
だから、ありがとうなんて言われたのが本当に、本当に...嬉しかったんだって。
皆、心では助けてくれてありがとうって思ってるなら、この仕事もいいもんだねって姉は最後に言った。
イライラする事も精神的に辛くなる事も多いけど、子供からしたら目をキラキラさせるくらい憧れの仕事...
警察官。
まぁ、実際はなかなか苦しくて心が折れそうな仕事だ。
でも、「ありがとう」の言葉で続けられる人がいる。
ならば、実際に声に出して相手に伝える事がどれくらいの心の支えになるのか考えると、計り知れないな
...と、私は姉の件で身に染みた。
お題「ありがとう」完
【ふとした真夜中】
真夜中に目が覚めた。
怖い夢を見たわけでも、早く寝過ぎたわけでもない...
すぐ隣には1歳になる娘と結婚して5年になる夫がいた。
ふとんから体を起こして2人を見る。
...その時、ふと、この瞬間って凄く幸せなんじゃないかと思った。
私達の元に来てくれた愛しい娘。
私を愛してくれてる優しい夫。
何にも変えられないものが今、隣で寝息をたててる。
幸せなんだと認識した瞬間、なんとも言えない幸福がぐっと込み上げてくる。
真夜中だから、大きな声で言えないけど、ぐっと込み上げてきたこの気持ちを、そっと2人に向けて伝えた。
「私に出会ってくれてありがとう」
お題「そっと伝えたい」完