もしも未来を見れるなら
“未来双眼鏡 一回100円”
なんだこれは
どでかい双眼鏡に張り紙が貼られている
下に小さく説明が書かれていた
『これはあなたの未来を見ることができる双眼鏡です。見たい年齢をダイアルで操作してください。なお、
どんな未来が広がっていようと、絶望して現実を
投げ出すようなことはしないでください。
こちらではいっさい責任を負いません。』
未来、か……
少し興味が湧いた
この現実離れした世界でもあまり驚かなかった
絶対、夢に決まっていると信じていたからだ
ポケットの中を探ってみた
夢の中とはいえ、200円しか持っていない自分に
嫌気がさした
おそるおそる100円玉を手に取り、入れてみた
ダイアルを30にセットすると、カチンと音がした
さて、
このレンズの向こうにはどんな世界が
広がっているのだろうか…
もはや失うものは何もなかった
未来がどうであろうと生き続けなければ
ならないのだから
ゆっくりとレンズを覗き込んだ
するとあたりが急に眩しい光で溢れた
咄嗟に目を閉じた
目を開けると、白い世界が広がっていた
手には布団の感触が
「やっぱ、夢だったかぁ…」
最後まで見てみたかった
そう思った
無色の世界
人生を『楽しい』と思ったことがなかった
何に対しても興味がなく、たとえ気に入ったとしても
三日坊主で終わってしまう
退屈で刺激のない日々
まるで人工知能を失ったロボットのようだった
平凡な生活がおくれるのは、平和の象徴でもあるが、
どうせ生きなければならないのなら、
より良いほうがいいだろう
今の私は真っ白なキャンパスだ
まだ何も描かれていない
何色にも染まっていない
いつか私の、無色の世界が
鮮やかな色で彩られるその日まで
桜散る
ふと見上げると、桜の花びらが舞っていた
青空の美しさに負けぬように、
1秒でも多く人の目に映るように、
ふわりふわりと踊っている
桜の最期とは実に美しく、儚いものだ
地面に落ちてしまえば、誰も見てくれない
それどころか踏まれに踏まれて霞んでしまう
だから最後まで必死に足掻いているのだろうか
それに比べて人間の最後は
悲しいものだ
長い年月をかけて築き上げてきた骨や臓器は
灼熱の炎によって焼き尽くされ灰になる
その姿は桜とは比べ物にならないほどに残酷だ
人も、動物も、植物も、
みんないつかはいなくなる
永遠なんて言葉は似合わない
人生という試練を乗り越えてきたのだから、
せめて最後くらいはもう少し華やかなものに
ならないだろうか
世の摂理には抗えないと知りつつも、
そんなことを考えていた
手のひらに一枚、花びらが落ちた
夢見る心
「空からお金が降ってくればいいのにね〜!」
「は?そんなことあるわけないじゃん。馬鹿なん?笑」
私は絶対に共感してくれるだろうと思っていた
でも、相手の返答は思った以上に冷たかった
「何その言い方!そんな言い方じゃなくても…!」
無意識に反論していた
沈黙になるのが嫌だったから冗談を言っただけなのに
ありえないことは勿論、分かってる
心で思うくらいいいじゃない
だからって正論で返してこないでよ
「ただ本当のこと言っただけなんだけど?」
真顔で言う姿を見て、私の中のナニカが切れた
「あのねぇ、女性脳は男性脳と作りが違うの、
女は共感してもらえるだけでも嬉しいの!そっちの意見なんて別に求めてないし」
「あーあ、ついに本音がでたね笑
俺の意見なんて所詮どうでもいいんでしょ、
だったら一緒にいる意味なくない?
そんなに共感してもらいたいなら、女同士で喋れば?」
悔しいが、言い訳できなかった
ちょっとした冗談がこんなことになるなんて…
だが、ひとつだけ、間違いなく決断できたことがあった
「もういい、別れましょう」
「自分が感情に任せてぎゃあぎゃあ喚いてるだけなのに俺のせいにしようってんだ。卑怯だねぇ」
確かにそうだ
怒りというコントロールできない感情に任せて
言う必要のないことも沢山言ってしまった
だが、メリットもあった
彼が今まで猫を被って“いい人”を演じていたことを
見抜けたのだ
「あなたがこんなに酷い人だなんて、
知らなかった。さようなら」
「はいはい、まったくどうして__…」
それ以上、彼の声を聞きたくなかったので
早足で店から出た
心の中に秘めておいたほうがいいことも、
口に出したほうがいいこともある
そう実感した
_届かぬ想い_
両想い
気付かぬうちに
片想い
愛も尽きれば
哀となりうる