また会いましょう
「また会いましょう。」
そう言って君は夜の暗闇に消えていった。
カツ…カツ…
沈黙の中でハイヒールの音だけが響いた。
星一つない真っ黒な夜空
震えるほどの冷たい夜風
本当にまた君に会えるのだろうか…?
君を連れ去った暗闇を
いつまでも見つめていた。
スリル
味気ない日常に嫌気がさして、俺は
とある研究所に行った。
そこには科学者である友人が住んでいる。
錆びた扉を開けると ギィー と少し嫌な音が鳴った。
そして一番に目に入ってきたのは
どでかい機械たち。
「やぁ、君か」
相手はゆっくりと腰を上げた。
「今日はどうしたんだい?」
いつもと変わらない穏やかな口調で言った。
「最近なんだか刺激がなくてさ、
生きた心地がしないっていうか…」
すると彼は牛乳瓶の底を貼り付けたような眼鏡を
カチャッと上げた。
「じゃあ、君にいいものがあるよ。」
そう言って手招きしてきた。
「また爆発したりしないよなぁ…?」
「大丈夫だよ。爆発したとしても、せいぜい
髪がなくなる程度だから」
「……。」
そして俺たちがやって来たのは小さな物置だった。
埃っぽく、すこし寒い。
「君はスリルが欲しいんだよね?
だったらこの中で少々スリルを味わって貰おう。」
そう言って静かに扉を開けた。
「さぁ、入りなよ。」
「…本当に、大丈夫なのかよ…?」
フフフ…と彼は不気味に笑った。
そしていきなり背中を押された。
「いってらっしゃ~い!」
「うぁぁぁぁ!!」
中は底が見えないほどに深い穴だった。
一体何が潜んでいるのだろうか…?
すると突然黒い物体が現れた。
しかも複数いる。
しかし、一番驚いたのは
『ソレ』に見覚えがあったことだ。
何度も見たことがある…!
気味の悪いソレは……
「ぎゃあああああああああ!!!」
「ご、ゴキブリ〜!!!!!」
急いで目を開けた。
そしてあたりを見回す。
もう、ご……ソレはいなかった。
全部夢だったのだ。
俺にはあんな友人はいないし、
研究所なんて興味がない。
もうスリルなんていらない。
そう思った。
脳裏
ここはマンションの20階。
おそらく即死だろう。
うちの会社の社長はクズで馬鹿で大っ嫌いだった。
自分は女と酒に溺れてるくせに。
俺らばっかりに仕事を押し付けやがって。
まさに『ブラック』だった。
そんな会社に何十年もいれば
当然我慢の限界だってくる。
だが、金のためにも辞めるわけにはいけなかった。
どうせこんなおっさんを雇ってくれるところなんて
ないだろうから。
―そして今に至る。
ベランダの柵に手を掛け、
飛び降りる準備はできていた。
あとは…
誰かに電話でもしておくか…
そう思い、携帯を手にした。
手にした途端、
プルルルル…
同僚から電話がきた。
「あ、岩崎さん。昨日休んでましたけど、
体調大丈夫ですか?」
どうやらこちらの体調を気遣ってくれたらしい。
「あぁ、大丈夫。この歳になっても無駄に
抵抗力が高いもんでね。」
「無駄じゃないですよ。むしろ羨ましい。」
なぜだろう。
こいつと話していると心が軽くなる。
「…君はさ、死んだほうがましだって
思ったことはあるのか?」
「僕ですか?…ないです。」
「…!」
正直驚いた。
大体みんな辛いとか死にたいとか
思ってるものだと思ってた。
「だって、あんな社長のせいで自分が死ぬなんて
馬鹿馬鹿しいじゃないですか」
彼は淡々と続けた。
「それに、いつかあいつをギャフンと
言わせたいんですよ。だから僕は死にません。
…死ねません。」
「…そうか。
おまえは強いんだな…。」
「なぁに言ってるんですか!岩崎さんのほうが
心も体も眼力も強いでしょ?」
「…眼力は余計だ。」
「あははは!ほんと岩崎さんと話してるときは
楽しいなぁ…!」
「まぁ、元気になったんならまた明日会いましょうね。んで、さっさとあのゴミカスみたいな仕事を終わらせて飲みに行きましょ!」
「…おう。」
電話は終わった。
…空はすっかり暗くなっていた。
あんな社長のために死にません。
…死ねません。
俺は死にたいのに
あいつの言葉が脳裏から離れない。
結局、俺が一番弱いのかな
そして静かに窓をしめた。
速くあいつと飲みに行きたい。
意味がないこと
明日を迎えたくないと
布団に潜って泣いた。
学校が嫌だ
勉強が嫌だ
他人に会うのが嫌だ
辛くても生きないといけないのが嫌だ
世の中の全てが嫌だ…
そもそも人間ってなんで生まれてきたんだろう?
誰もこの世にいなければよかったのに。
これも神様のいたずらですか…?
こんなこと、考えてもなんの意味もないのに
泣いたからって明日が来ないわけじゃないのに
少しでも人生が楽になるわけじゃないのに
毎日毎日、
この繰り返し。
本当に無意味な時間を過ごしている私。
あなたとわたし
あなたのような優等生になりたいと
劣等生の私は思っていた。
誰からも頼りにされて、
みんなを正解へと導けるようなリーダーに。
私は前に進もうとしても
すぐに後ずさり変わってしまう。
頼りにされるプレッシャーに
耐えられるはずがない。
だから、必死にしがみついてる。
足手まといにだけはならないように。
人間が嫌い。
学校が嫌い。
人生が嫌い。
優等生になったら
それらを全て見ないといけない。
やっぱり私は劣等生。
優等生にはなりたくない。