スリル
味気ない日常に嫌気がさして、俺は
とある研究所に行った。
そこには科学者である友人が住んでいる。
錆びた扉を開けると ギィー と少し嫌な音が鳴った。
そして一番に目に入ってきたのは
どでかい機械たち。
「やぁ、君か」
相手はゆっくりと腰を上げた。
「今日はどうしたんだい?」
いつもと変わらない穏やかな口調で言った。
「最近なんだか刺激がなくてさ、
生きた心地がしないっていうか…」
すると彼は牛乳瓶の底を貼り付けたような眼鏡を
カチャッと上げた。
「じゃあ、君にいいものがあるよ。」
そう言って手招きしてきた。
「また爆発したりしないよなぁ…?」
「大丈夫だよ。爆発したとしても、せいぜい
髪がなくなる程度だから」
「……。」
そして俺たちがやって来たのは小さな物置だった。
埃っぽく、すこし寒い。
「君はスリルが欲しいんだよね?
だったらこの中で少々スリルを味わって貰おう。」
そう言って静かに扉を開けた。
「さぁ、入りなよ。」
「…本当に、大丈夫なのかよ…?」
フフフ…と彼は不気味に笑った。
そしていきなり背中を押された。
「いってらっしゃ~い!」
「うぁぁぁぁ!!」
中は底が見えないほどに深い穴だった。
一体何が潜んでいるのだろうか…?
すると突然黒い物体が現れた。
しかも複数いる。
しかし、一番驚いたのは
『ソレ』に見覚えがあったことだ。
何度も見たことがある…!
気味の悪いソレは……
「ぎゃあああああああああ!!!」
「ご、ゴキブリ〜!!!!!」
急いで目を開けた。
そしてあたりを見回す。
もう、ご……ソレはいなかった。
全部夢だったのだ。
俺にはあんな友人はいないし、
研究所なんて興味がない。
もうスリルなんていらない。
そう思った。
11/12/2023, 11:37:09 AM