美夜

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2/4/2023, 2:13:31 PM

 『Kiss』


 初めて彼が声を掛けてくれた夜、浮かれてちょっと飲み過ぎて、酔ってしまった。こんな失態をするつもりじゃなかったのに、フラフラになってしまって、
 「送っていこうか?」
 と言われて、いいです、大丈夫です!と拒否したものの、
 「そんな状態じゃ心配だよ。飲ませ過ぎてごめん。」
 と、家まで送ってもらうことになった。
 方向も違うのに、電車を乗り継いで家の前まで送ってくれて、
 「すみません、遠いのにありがとうございました。」
 とお辞儀をしてお礼を言うと、
 「無事に送り届けられて良かった。心配してる方が気が気じゃないからね。」
 と優しい笑顔で言ってくれる。
 「あの……」
 「ん?」
 「本当はお茶でも出した方がいいのかもしれませんが……」
 「何を言ってるの。いいんだよ、そんな気遣いしなくても。」
 「すみません。」
 「今日はゆっくり休んで。また今度会いましょう。」
 「……」
 「?」
 「家に送られて、襲われちゃうかと思いました。」
 「え?」
 「すみません、変なこと言って。」
 「俺が送り狼になると思った?」
 「……」
 「そんな、勢いで済ますようなことはしないよ。大事にしたいから。」
 「え?大事……」
 「……」
 「……」
 沈黙して、見つめられて。
 「大事にしたいです、君の事。」
 「……先輩。」
 「また二人で会ってくれますか?」
 まっすぐ見つめられて、私は見つめ返せなくなって俯いて、
 「……はい。」
 とだけ答えた。
 ふいに彼の手が、私の顎に添えられて。
 「え……」
 口唇が触れた。私は慌てて目を閉じた。
 彼が、キスしてくれた。
 その事実に時が止まったように感じて。
 (想いが、通じた……!)
 口唇が離れて、ぎゅっと目を閉じたままの私に、
 「嫌、だったかな。」
 と、彼の躊躇う声。
 私は慌てて目を開けて、
 「い、いいえ!」
 と言うのが精一杯だった。私は口唇を閉じて俯いてしまって。
 (口唇が触れた感触が……)
 そんな私を優しく見つめて、
 「……ありがとう。」
 と言ってくれた。
 私は目を上げて、
 「こちらこそ!」
 と、彼を見つめた。優しい微笑みが、嬉しかった。私も思わず笑ってしまって。にやけた顔が抑えられなかった。恥ずかしくて、顔を両手で覆った。
 「また、会おうね。」
 彼が私の顔を覗き込んで、笑顔でそう告げた。
 「はい!」
 酔ってるせいで熱いのか、わからなかったけど、火照ってる顔をペチペチと叩いて、はっきりと返事した。
 手を上げて帰ってゆく彼の後ろ姿を、私はいつまでも見送っていた。


 今日は最っ高の一日だった。
 これからどんな日々が待っているのだろう。
 彼のキスが嬉しくて、嬉しすぎて、その日は目を閉じても思い出して眠れなかった。

2/3/2023, 11:26:25 AM

 『1000年先も』


 1000年先なんて予想もつかない。
 生きてないから興味もないけど、宇宙に住んだりしてるのかな。
 月とか火星とか木星とかに住んでみたいな。宇宙服着て浮遊してみたい。
 エイリアンは怖いけど。
 テレビで宇宙の特番を見て、なんとなく思った。
 月から木星へメールとか、立体のホログラムの動画とか送れたら面白いよね。
 そんなことを彼に話したら、彼はとても生き生きした目をして、
 「宇宙は時間の流れも違うと思うから、長生き出来るといいよな。遠くまで宇宙旅行してみたい。」
 と、笑顔で話す。
 (宇宙、好きなんだ。)
 「じゃあ、1000年後まで生きてたら、一緒に宇宙旅行しようね!」
 そんな途方もない事を言うと、
 「いいね。行こう!」
 と、破顔する彼。
 叶うことのない約束だけど、夢想するだけでちょっとほっこりした。

2/2/2023, 10:43:35 AM

 『勿忘草』


 出張で長野に行った際、道端に青色の可愛い小花を見掛けた。
 彼女が好きそうかなと思って写真を撮り調べたら、勿忘草の一種のエゾムラサキという花だそう。
 撮った写真を彼女に送った。
 『出張で離れてる間も、俺の事忘れないで。』とメッセージを添えて。

 そしたら、しばらくして返信が返ってきた。
 『もちろん、忘れないよ!』と笑顔の絵文字と、黄色いパンジーの写真。
 その花言葉は、記憶、つつましい幸せ、純愛など。
 同じく調べてくれたんだなと思って、ちょっとジンとした。
 離れていても、彼女の存在をとてもあたたかく感じる。
 (帰ったら、何か花をプレゼントしようかな。)
 そんなことをふと思う、一人の夜。

2/1/2023, 10:56:00 AM

 『ブランコ』


 帰り道の途中、ブランコだけある小さな公園がある。
 近道に通り抜けようとしたら、ピロン!とスマホの通知音が鳴った。俺はスマホを鞄から取り出し、ベンチ代わりにブランコに座った。
 キィと鉄製の音が鳴る。懐かしい。
 大人になってから乗ると、意外と小さくて低いんだな。
 スマホのロックを解除し、メッセージを確認する。彼女からだ。
 「今、ブランコに乗ってるよ。」と、自撮り写真など送ってみたら、『え、なんで??』と楽しそうな絵文字が付いてきた。
 久しぶりに、勢いをつけて揺らしてみると、案外怖い。つい、ズズズと靴を擦らせ止めてしまった。
 子供の時って、よくこんな乗り物乗ってたなぁ。ちょっと驚いてしまった。
 子供の感覚なんて、忘れてしまうものなんだな。
 「今度、二人乗りブランコみつけたら、乗ってみない?」そんなメッセージを送って、シンと静まる夜の公園を見渡す。
 (俺、一人で何やってるんだろ。)
 ちょっと不審者っぽく感じて、スマホを閉じて俺はブランコから降りた。
 (女の子のスカートが捲れて、パンツが見えないかとか考えてたよなぁ。)
 ふと変なことを思い出し、これは彼女には言えないなと思った。

1/31/2023, 10:14:30 AM

 『旅路の果てに』


 大学生の頃、一人旅行をしたことがあった。
 特に目的も決めず、ただ温泉に浸かるくらいのことしか考えず、気ままにぷらぷらと。
 立ち寄った温泉地でその地域のご飯を食べ、旅館で一人くつろいでいて、ふと思う。
 『ここに誰かと一緒に来られたらな。』
 彼女がいいな、彼女がいいな、彼女がいいなぁ~。
 彼女が居なかった頃の気ままさも楽しかったけど、『二人で温泉』というのには憧れる。
 いつか彼女が出来た時には、一緒に温泉に入りたい。
 それがひとつの夢になった。

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