枯葉が落ちるとき
「寂しいな」と感じる心と
「秋だなぁ」という季節を美しいと感じる心が同時に発生して
更にそれが淋しさを加速させるような気がしながらも
やっぱり限りある生命と四季の美しさに心打たれるのだから
『日本人だなぁ』
なんて思うのだ。
「ずっと黙ってたけどさ、お前、ダルいんだよね」
そう言われて彼氏と別れてから早一ヶ月。
“ダルい”が何なのかもよく分からないまま彼の事を引きずって毎晩泣いていた。
友達は「まだ大学生なんだし出会いあるよ!」と励まして時々合コンに誘ってくれているが、出てみても彼以上の人と出会えてはいなかった。
そんな時、もう最後にしようと思って出た合コンで、今までに見たこともないような美人と出会った。
あまりの美しさに、席に座ることも出来ないどころか呼吸すら忘れていた。
真っ赤なリップに切れ長の目。
女から見ても綺麗。
友達に名前を呼ばれてやっと意識を取り戻し、席についた。
何となく彼女を見ることが出来ずに横に座っていた男の人とばかり話した。
会も終わり、解散しようとした時、その男性から声をかけられた。二人で二軒目にどうかというお誘いだった。
良い人そうだったし行こうかな、と思って頷きかけた時、誰かが私の腕を後ろから掴んだ。
例の彼女だった。
驚いていてると、彼女は「私が先約」とだけ言って私を引っ張って近くの公園まで歩いた。
「あの…」
「アンタ、見ててイライラするんだけど」
「え?」
何ですか?って聞こうと思っただけなのに急に罵倒されて言葉が出ない。
「周りの顔色ばっか伺って、ずっと気配ってて、その上トイレに立つ時に飲み物残していって、男の下心にも気づいてないし。イライラする。それとも何?そう言うのが好きなの?」
馬鹿にされたように笑う彼女に沸々と怒りが湧いてくる。
「顔色伺う事の何が悪いんです?私貴女に迷惑かけてないし、それに、私だけじゃなく彼の事も悪く言うのやめて下さい!彼、優しい人ですよ!」
言い返し、睨むと、彼女は驚いたような表情を見せた。
「何だ。言い返せるんじゃん。てっきり主張出来ない女なのかと思ったよ。あ、あの男はアンタの飲み物に何か入れてたから。私が新しいの頼んどいた」
今度は私が驚く番だ。そんな事する人には見えなかった。でも彼女が嘘をついているようにも、嘘をつく必要も感じない。と言うことはそう言うことなのだろう。
「そ、うなんですね。ありがとうございました」
下を向きながらお礼を言うと
「ふーん。アイツが振った女がどんなもんか見てみようと思っただけだったんだけど、気に入っちゃった」
と彼女の口元が弧を描いた。
「今日にさよならしなきゃね?」
この出会いが私を大きく変えるきっかけとなった。
玄関にある大きな姿見の前で全身をチェックする。
黒く艶のある長い黒髪に切れ長の目、真っ赤なリップ。
満足気に笑う鏡の中の私はあの日の彼女とそっくりだった。
「お前のお気に入りの子来てるよ」
クラスの奴にそう言われて
「はぁ?」
と返すと、入り口には顔を真っ赤にしている部活の後輩が来ていた。
そう、俺の好きな子、“お気に入りの子”だ。
彼女の赤面に釣られるように俺も顔が熱くなっていく。
周りの男共がニマニマと腹の立つ顔でこっちを見てくるのに耐えかねて彼女の腕を引いて階段の踊り場にいく。
後ろで茶化すような「ヒューヒュー!!」という野次が飛んでいたが無視した。
踊り場までくると彼女と向き合って謝罪する。
「ごめん、揶揄われて嫌だったよね。本当ごめん」
申し訳なさで少し下を向きながら謝ると、彼女は手と顔をブンブン振りながら「大丈夫です!」と答えた。
その仕草が可愛くて心臓がキュッと鳴ったのを感じながらも平静を装う。
「えっと…それで、俺に用事?」
そう聞くと彼女は「あっ!」と言ってポケットからメモ用紙を取り出した。
「これ、顧問からです!先輩に渡しとけって言われて!」
なるほど。おつかいで来てくれていたのか。
というか顧問もわざわざこんな事せずに俺に直接言いにくれば良いものを。
「わざわざありがとう。用事はこれで終わり?」
「はい!」
元気よく答える彼女に笑みを漏らしながら
「じゃあ、また部活で」
と別れようとして、もう一度振り返り彼女を呼び止める。
「あの、さっきの“お気に入り”ってやつなんだけど。何だか物みたいな言い方で嫌だし俺はそんな事思ってないからね。でも、君のこと気になってはいるので、良かったら意識してもらえると、嬉しい…デス…。それじゃ」
恥ずかしくて赤面+敬語+尻窄みになりながら逃げるようにその場を去ると、後ろの方で「はい」という返事が聞こえた。
誰よりも低い目標で生きていても、意外と何とかなる。
10年後の私から届いた手紙には文字が書かれていなかった。
では何故10年後の私からだも分かったのかと言うと、中に一枚の写真が入っていたからだ。
日付は丁度今日から10年後。
あと、便箋の絵柄が私好みだったから。
写真には、近くの公園で見た事ない女性と肩を組んでいる私が写っていた。
きっとこの場所に行って出会え、と言う事なのだろう。
公園には写真の女性を少し幼くした様な少女がいた。
私たちは意気投合して親友になった。
5年後、また私から手紙が届いた。
中にはやはり写真一枚だけ。例の公園で知らない男性と手を繋いで写っている。
公園には写真の男性を少し若くした様な人がいた。
私と彼は意気投合して付き合い、3年後に結婚した。
全部未来の私からのプレゼントだった。
さらに2年後、私も過去の私に手紙を出さないとな、と考えて思い出の写真を漁っていると、親友と夫が温泉旅館で腕を組んでいる写真が見つかった。
「え?」
真っ白になる頭で必死に考えて3枚の写真をそれぞれ便箋に入れて家を出る。
親友の家に向かう途中、ポケットから適当に取り出した2枚の便箋を何気なしにポストに入れた。どの写真が入っているのかはわからない。
何でそうしたのかもわからない。
親友の家について中に入ると、写真の事を問い詰めた。
最初は誤魔化していた彼女も、徐々に本性を表し始めた。
ずっと好きだったらしかった。夫のことが。不倫関係になったのは半年前から。
私と彼女は言い争いになった。お互いにヒートアップして、私が掴み掛かろうとした時、彼女が私を突き飛ばした。
頭が痛い。なんか、ゆかがぬれてる。え、ちがでてない?あの子はだいじょうぶ?
あれ?これ、わたしのち?
あぁ。憎い憎い憎い。アイツらのせいで。お願い過去の私、写真を見たら公園に行かないで。悪魔共と出会わないで。私の幸せをちゃんと…掴み…とっ…て。