リーベ

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「ずっと黙ってたけどさ、お前、ダルいんだよね」

そう言われて彼氏と別れてから早一ヶ月。
“ダルい”が何なのかもよく分からないまま彼の事を引きずって毎晩泣いていた。

友達は「まだ大学生なんだし出会いあるよ!」と励まして時々合コンに誘ってくれているが、出てみても彼以上の人と出会えてはいなかった。

そんな時、もう最後にしようと思って出た合コンで、今までに見たこともないような美人と出会った。

あまりの美しさに、席に座ることも出来ないどころか呼吸すら忘れていた。

真っ赤なリップに切れ長の目。

女から見ても綺麗。

友達に名前を呼ばれてやっと意識を取り戻し、席についた。

何となく彼女を見ることが出来ずに横に座っていた男の人とばかり話した。

会も終わり、解散しようとした時、その男性から声をかけられた。二人で二軒目にどうかというお誘いだった。

良い人そうだったし行こうかな、と思って頷きかけた時、誰かが私の腕を後ろから掴んだ。

例の彼女だった。

驚いていてると、彼女は「私が先約」とだけ言って私を引っ張って近くの公園まで歩いた。

「あの…」

「アンタ、見ててイライラするんだけど」

「え?」

何ですか?って聞こうと思っただけなのに急に罵倒されて言葉が出ない。

「周りの顔色ばっか伺って、ずっと気配ってて、その上トイレに立つ時に飲み物残していって、男の下心にも気づいてないし。イライラする。それとも何?そう言うのが好きなの?」

馬鹿にされたように笑う彼女に沸々と怒りが湧いてくる。

「顔色伺う事の何が悪いんです?私貴女に迷惑かけてないし、それに、私だけじゃなく彼の事も悪く言うのやめて下さい!彼、優しい人ですよ!」

言い返し、睨むと、彼女は驚いたような表情を見せた。

「何だ。言い返せるんじゃん。てっきり主張出来ない女なのかと思ったよ。あ、あの男はアンタの飲み物に何か入れてたから。私が新しいの頼んどいた」

今度は私が驚く番だ。そんな事する人には見えなかった。でも彼女が嘘をついているようにも、嘘をつく必要も感じない。と言うことはそう言うことなのだろう。

「そ、うなんですね。ありがとうございました」

下を向きながらお礼を言うと

「ふーん。アイツが振った女がどんなもんか見てみようと思っただけだったんだけど、気に入っちゃった」

と彼女の口元が弧を描いた。

「今日にさよならしなきゃね?」



この出会いが私を大きく変えるきっかけとなった。

玄関にある大きな姿見の前で全身をチェックする。
黒く艶のある長い黒髪に切れ長の目、真っ赤なリップ。
満足気に笑う鏡の中の私はあの日の彼女とそっくりだった。

2/18/2024, 10:59:47 AM