紗夢(シャム)

Open App
1/28/2023, 5:44:41 PM

【街へ】
【創作】【宵(よい)と暁(あかとき)】

1/29 PM 1:35

 ハーフタイムになり、ベンチに戻った
 選手たちが、休憩を取りながら
 顧問の話を聞いている。
 後半戦へ向けての作戦会議だろう。

「12点差か。追い付くのがどの位
 大変な差なのかピンと来ないな」

 バスケは体育の授業でやったことが
 あるだけで、ほとんど知識がない。
 観戦していて感じたのは、授業レベルとは
 選手のスピードがまるで違うということ。

「あと2Qあるから、逆転出来なくはないよ。
 宵の強みは、バテてくる後半になっても
 シュートの精度が落ちないことだから」

 宵のポジションはスモールフォワードと
 いうらしい。
 古結(こゆい)が《流川くんのポジション》と
 分かりやすそうな漫画で例えてくれた
 ようだが、残念ながら俺が知っているのは
 『あきらめたらそこで試合終了』という
 名言だけだった。
 あの名言に関しては、全てのスポーツに
 通ずると思っている。
 真夜(よる)の説明はもう少し具体的で、
 3Pシュートで得点を稼ぐことが多いけど、
 リバウンドやスティールで守備もこなすし、
 サッカーならミッドフィールダーに
 近いんじゃない、と言われて合点がいった。

「でも、これ二試合目なんだよな?
 こまめに選手交代してるとはいえ、
 スタミナかなりキツそうだな」
「そうだね~。それでも、負けないと思うな。
 だからね、天明(てんめい)くん。
 勝ったらわたしたちと一緒に
 街へ繰り出して、宵ちゃんの勝利を
 お祝いしてくれる?」
「勿論」

 真夜も古結も、宵のいるチームが
 勝つことを疑っていない。
 だから、俺もただ信じることにした。

1/28/2023, 8:27:53 AM

【優しさ】
【創作】【宵(よい)と暁(あかとき)】

1/29 PM 0:00

 昼休憩の時間になり、他校の生徒も
 合わせて、たくさんのバスケ部員が
 学食にやって来た。
 日曜日で学食自体は稼働していないので、
 それぞれ自分で持って来たお弁当などを
 テーブルに出している。
 ……ピクニックのように、重箱が何段も
 テーブル上に並べられているのは、
 当然アタシたちの前だけ。

「あらあら。相変わらず宵ちゃんは
 愛されてるわねぇ」
「あ、暦(こよみ)さん。こんにちは~」
「……お疲れ様です」
「こんにちは、暁ちゃん、真夜(よる)くん。
 宵ちゃんの応援に来てくれたのね」

 他校のバスケ部員からは奇異の視線を
 感じたものの、うちのマネージャーの
 暦先輩はもう慣れたものだった。
 どれだけ不可思議に見える行動も、
 真夜と暁がやっていれば、
 それはアタシのためだという方程式が
 出来あがっている。

「これ、良かったらバスケ部の皆さんで」

 お重の内の1段を真夜が先輩に差し出す。
 仕切った片方に唐揚げ、もう片方に
 いなり寿司を詰め込んである。

「あら、いいの?」
「真夜くんのチューリップ唐揚げと
 おいなりさんは絶品なので! ぜひぜひ」
「ふふふ、ありがとう。
 かわいい形の唐揚げも、おいなりさんも、
 本当にとても美味しそう」

 真夜はアタシと暁のことしか考慮しない
 から、1段は差し入れ用にしよう、と
 提案したのは暁に決まっている。
 それが優しさなのか、真夜の料理の
 美味しさを広めたいだけなのかは、
 かなり微妙なところだと思うけれど。

「じゃあ食べよっか」

 先輩が席を離れると、暁がそう言って
 3人で『いただきます』と手を合わせる。

「……作り過ぎじゃないの? この量は」

 いなり寿司の他にゆかりやおかかの
 お握りが入っている段、
 玉子やコンビーフのサンドイッチと
 サーモンのロールサンドが入っている段、
 チューリップ唐揚げをはじめ、
 色々なおかずの入ったお重が2段。
 3人で食べるにしても、多過ぎる。

「大丈夫だいじょーぶ。
 もうすぐ天明(てんめい)くんも
 合流してくれるから」
「は?」
「天明くんも今日部活で、
 でも午後は他の部が校庭使うから、
 午前で終わりなんだって。
 という訳で、お昼に誘ってみました」
「噂をすれば、ほら」

 真夜が学食の出入口を見て、
 合図を送るように手を挙げる。
 それに応えるように、槇(まき)くんも
 手を挙げるのが見えた。

1/26/2023, 4:21:40 PM

【ミッドナイト】
【創作】【宵(よい)と暁(あかとき)】

1/29 AM 10:30

「第一試合始まるっぽいね~」

 体育館2Fの細い通路で、暁と一緒に
 合同練習の様子を見物していると、
 両高のスタメンがベンチでジャージを脱ぎ、
 ユニフォームでコートの中へ入っていった。

「宵ちゃんのユニフォーム姿は
 いつ見ても凛としててカッコいいねぇ。
 真冬にあの格好はすごく寒そうだけど」

 自分の二の腕をさすりながら暁が言う。

 初めて宵のユニフォーム姿を見た時、
 暁は「真夜(よる)くんの色だね」と
 表現していた。
 濃紺よりももっと暗くて、黒に近い青。
 ミッドナイトブルー。
 宵にとても良く似合う色だ。

 「(……頑張れ、宵)」

 主審の手から、ボールが空中へ
 トスアップされる。

 ――試合が始まった。

1/25/2023, 9:55:51 PM

【安心と不安】
【創作】【宵(よい)と暁(あかとき)】

1/29 AM 7:00
「あ、おはよー、宵ちゃん」
「おはよう、宵」
「……おはよう。日曜日なのに、こんなに
 朝早くからキッチンで何してるのよ」
「見たまんまだよ? 真夜(よる)くんと
 一緒に、お弁当作ってるの」
「お弁当」
「うん、お弁当」
「真夜だけで作ってくれるなら安心だけど、
 暁も関わってると一気に不安が増すわね」
「え~、ひどいよ~、宵ちゃん。
 わたしだって、
 はんぺん切って中にチーズ詰めたり、
 アスパラをベーコンで巻いたり、
 サンドイッチ用にパンに具材乗せたり、
 おにぎり握るくらいは出来るんだよ?
 ……まぁ、おにぎりは型にごはん詰めて
 ぽんっと取り出すだけだけど」
「全然握ってないじゃない」
「まぁまぁ。わたしはあくまでも
 お手伝い要員ってことで」
「だいたい、なんで作ってるのよ?」
「もちろん、宵ちゃんのためだよ。
 今日、他校との練習試合なんでしょ?
 応援に行くから、お昼休憩の時に
 みんなでお弁当食べよーって話」
「貴重な休みの日に見に来るほど、
 練習試合は面白くないと思うけど」
「わたしは宵ちゃんがシュート打つ姿
 見てるだけで楽しいよ」
「宵、暁。ひとまず朝ごはんにしよう。
 トースト焼けたよ」
「そしてこの短時間にハムエッグまで
 作ってくれてるし……さすが真夜くん」

1/24/2023, 5:48:02 PM

【逆光】
【創作】【宵(よい)と暁(あかとき)】

1/24 PM 0:08

 学食に来ると、古結(こゆい)と真夜(よる)が
 既に席に着いていた。
 ここだよー、と手を振って呼ぶ古結の
 隣に座る。
 宵は少し遅れるらしい。

「天明(てんめい)くん、見て見て!
 すごくエモい写真が撮れたの!」
「おー、綺麗に撮れてるな」

 教室の窓辺にいる宵の長い黒髪に
 光が当たって淡く輝いている。
 姿勢の良いスラリとした立ち姿は、
 モデルのポートレートだと言われても
 きっと違和感がない。
 
「でしょ? 逆光の写真って、巧くいくと
 こうやってすごくエモい感じになるから
 好きなの。宵ちゃんの魅力が増し増しだよね」

 古結がスマホを操作して、
 逆光でエモく撮れたという
 写真を次々に画面に表示する。
 桜の下、夕暮れの海、銀杏並木、など
 季節ごとに様々なシチュエーションで。
 真夜(よる)と一緒に写っているものもあった。

 (……本当に)

 綺麗だと思う。
 そして、おそらく古結にしか撮れない。
 カメラの性能がどれだけ良くて、
 撮影のスキルやテクニックがどれだけ
 あったとしても。
 宵と真夜、2人との絆がなければ、
 こんな写真は撮れないだろう。
 写っているのは被写体だけじゃなく、
 2人を想う古結の気持ちだろうから。

「どれもいい写真だな」
「良かったら、天明くんのスマホにも送るよ?」
「いや、宵に断りなくもらうのは……。
 いいのか?」
「天明なら問題ないと思うけど」

 ひとまず真夜に聞いてみると、
 あっさり了承されてしまった。
 俺も宵にとって、気を許せる友人に
 なれているということなんだろうか。

Next