お題 : ひそかな想い
____何事も始めた頃の記憶を忘れてはいけない。
昔、そう言われた記憶がある。
その「言葉」は、世界の人間が忘れるからそう呪っているのだろうけど。じゃあそれができすぎる人間はどうなるのだろうか。
そういう「言葉」こそ、忘れられないからずっとそれを繰り返している気がして、聞くたびに変な気持ちになる。
「行けたら行く」「期待している」
生々しい言葉は自分の中で淘汰して。
「君がいるから生きていける」「生きてていいんだよ」
美しい思想や押し付けられた表現は面倒臭いと思い、それが求められる時代に嘘くさいと思って。
「___っていう経験があったけど、後悔はしていない」
目の前にいるただの他人が語る、綺麗に梱包された不幸や悲劇が安っぽく感じる。
「絶対できるから、期待しておくね」
「君がいたから、こんなに素敵なのができた!」
「君の経験だって、成功に繋がるはずだ」
『 うるさい 』
そんな人達に、「言葉」のナイフを突き付けた。
だって、その「個人の幻想」で俺が報われるわけないでしょう?
「うるさい」……その「呪い」は、俺自身が思った、まさに「濁りのない毒」。
心に残り続けるひそかな想いは、『救わないで』。そんな綺麗な毒のような想い。
こう想い続ける俺が報われるたった一つの方法は、具現化できない腐った想いを他人に突きつけること。
「うるさい」という呪いでは折れないぐらいの、まさに突き刺さる言葉。
周り……いや「他人」は、そんな俺に自分自身の思想を押し付けてくる。いつか爆発するのは目に見えている。
だったら今は、正気で狂わせて欲しい。
俺を救おうとしないで。
これは俺の染み付いた執着。
きっと、他人にも大切な人にも奪えない。
「表現」という「呪い」が、俺の中で正気であるうちに。さっさと、目の前で消えろ。
さもなければ____これは、言ってはいけなかった。
ともかく、俺は密かに想い続けている。
「 世界なんかどうなってもいい。 」
「 この想いだけは、誰にも奪えない。 」
_____そうやって、ね?
お題 : あなたは誰
ずっと頭の何処かで、知らない誰かが生き続けている。
『おはよう!今日は何するの?』『そこはAじゃない?』
『ねぇ、忘れ物してるよ!!』
とにかく、うるさい。ありがたいけど、うるさい。
本当にこの声に覚えがない。ずっとうるさい。
だからある時、言ってしまった。
「毎日毎日、なんなの!?あなたは一体誰なの!」
『え、僕の言ってることが分かるの?』
「へ?」
頭に響き続ける声は、僕の幻覚だったのか?
高校生を卒業すると、その声はいつの間に聞こえなくなっていた。
一体頭にいたあの声が誰だったのか、今でも分からない。
お題 : 手紙の行方
「……ほら。」
「…え、あの、居先輩……こ、これは」
「手紙!さっさと受け取って。ほら」
「は、はい」
「それじゃ、また明日。頑張って」
「あ、が、頑張ります!」
尊敬する先輩から手紙を貰うなんて、想像もしてなかった。
きっと1年生と3年生の間でしている交流だから、私にくれたのだろう。それでも見た目も可愛く実力もありモテる先輩から、手紙をくれるとは思ってなかった。
つい先日も、1年生のチャラいやつから言い寄られているのを見たし。まさか「手紙を渡す相手がいる」という「相手」が私だとは。
なんだか凄く嬉しい気分になり、手紙を抱えてルンルン気分で家に帰った。
【 後輩の粋へ 】
【 正直、交流とかめんどいよね。なんかうるさい1年が声掛けてくるし、他に仲良い1年もいないからあんたにしといた。 】
【 3年にビビりすぎていつも吃ってるのは鬱陶しいけど。粋のこと、部活では3年より頼りにしてるんだから、もっと自信出しなよ。 】
【 粋の歌、私は1番好き。 】
【 はい、これぐらいで満足でしょ?足りない時は聞いてきなよ。あんたはいいところ有り余るほどあるんだからね 】
【 自慢の先輩 月城居 】
心が熱くなって、燃える感覚がした。
先輩は本当に凄くて、尊敬している。だからこそ、先輩の言葉が凄く嬉しい。手紙とか書いたこと無かったけど、こんなにいいものだったんだ。
その手紙を丁寧に、元の状態に戻す。
きっと居先輩なら、「なくした」と呟いてしまうと、冗談でも怒られる。なら、しっかりと丁寧に保存しておこう。
この手紙の行方は、ずっと経っても分からない。
それでも、今は心からこの手紙を大切にしたい。
そう考えた私は、この手紙を心に仕舞い、明日も頑張ろうと自分を奮い立たせた。
お題 : 輝き
[輝き]がない人間は、いつまでたっても
[頂点]には昇れない。
周りに合わせて少しずつ折っているスカート。
鬱陶しくて切ってない黒髪。
何故かそれだけで、私は「真面目」と判断されるらしい。
自分が困るから常識内の勉強をして、平均点をとっているだけ。少しでも怠って、悪い点をとると「珍しい」と言われる。人に文句を言うことはできない。
そんな弱虫な人間でも、好きな人ぐらいはいる。
同じクラスの、少し不良っぽい男の子の夏(ナツ)。
私からしたら嫌いな人種。だけど、自分らしく生きているのが[輝き]を持っているなと羨んでいるのだ。
『おはよ、こは』
「え?あぁ……おはよう」
『今日テストだけど、自信あんの?』
「それなりには?」
『じゃ、補習ん時勉強教えて。それじゃ』
「結局こじつけじゃん!?………もう」
私のことをあだ名で読んでくれて、気軽に話しかけてくれる。それでいて、友達に恵まれている。
本当に自由。本当に、羨ましい。
それでも、彼の[輝き]に嫉妬して噂をする連中がいる。
「なぁ知ってる?夏って男が好きらしいぜ」
「え、それってゲイってこと?」
「うわ、でも有り得る。だっていつも男に抱き着いてるしなw」
「女の子に無駄に優しいのもそういうこと?うわぁ、なんか無理だわ」
『………』
「…………」
夏と同じクラスになって気付いたこと……それは、意外にメンタルが弱いこと。
たとえただの「噂」だとしても、結構気にしてる。
でも……「男が好き」。それが本当なら、女の私は恋愛対象にないのだろうか?
…………私も、夏みたいに自由に生きたい。
心の何処かでは、彼に嫉妬をしている。
髪色はあまり目立たない薄黄蘗。少し乱れ、汚れもある指定服。
テストの時間も集中せず、全てを投げ出して自室に籠る。
今日と明日のうちに全部やる。そう決めたから。
そんなこんなしてるうちに、あっという間に時間が過ぎて登校する日になっていた。
この2日間、[輝く]ための準備をした。
「おはよう琥珀……あら、相当なイメージチェンジね」
『何?似合ってないとでもいいたいの?』
「違うわ。すごく似合ってるわよ。いってらっしゃい」
美容室を明日に予約し、制服を投げ捨てて私服に着替える。
家にあるスカートは全部切った。
「え、あれって誰?」
「え?見た事ないけど……」
「ねぇ!あれどうやら琥珀らしいよ!」
「はぁ!?琥珀!?」
後日の美容室で男の子みたいに短く切ってもらい、藍白に染めてもらう。
『おはよ』
「えっ!?あ……お、おはよう…?」
『今日も、がんばろーね』
「は、はい…」
そしてお母さんからピアスをもらい、雫型のピアスを付ける。
そして今日、お兄ちゃんから学校指定の制服を借りて着ていく。
「あ、夏見ると思い出すわ。ゲイってこと」
「ちょっとやめなよw」
『…………』
『大丈夫?』
『……え?』
『忘れたの?俺、琥珀だって』
『こ、こは……!?……どしたの、なんかあった?』
『そういうの関係なくない?俺も俺らしく生きたかったんだって』
『こはがいいならそれでいいけど…』
『それじゃ夏!今日一緒に遊び行こ?俺夏のゲームスキル見たいな〜』
『こはもゲームとかすんのな……勉強してるイメージしかなかった』
『いやいや、勉強なんか面倒臭いし!もう今日から頭に通すだけにした!お願い、今日だけでいいから〜』
『分かった、分かったから!くっついてくんな…!』
_____そう。これが、俺の[輝き]なんだ。
お題 : 時間よ止まれ
目を開けると、真っ白な天井。
起き上がろうとしても、体が思うように動かない。
頑張って視点を左右に動かして、状況を把握する。
きっとここは病院だ。
にしても、俺はなんでこんなことに?
思い出そうとしたら、頭に激痛が走る。
頭痛だとか、言葉に表せるような痛みじゃない。激痛より激痛。
それなら、簡単なことなら。
1+1=2。いや、これは簡単すぎたか。
だったら俺の名前。俺の名前は_____
あれ?俺の名前って、なんだっけ。
……なるほど。これがいわゆる、記憶喪失。「ここはどこ?わたしはだれ?」っていうヤツ。
でも、俺の場合常識は頭にしっかり残っている。
さっきだって、ここが病院ってことが分かったし。
その瞬間、閉まっていたカーテンが開く音がした。
そこには、背が高い男の子が1人。俺の常識しかない記憶によると、ソイツは同じ学年の奴らしい。
「……え、起きてる…大丈夫か!?」
真冬なはずなのに、汗を流している。
彼は、俺の友達だったのか?
「えっと……本当にすいません、誰ですか?」
衝撃を与えてしまうのは申し訳ないが、こう聞かないとキリがあかない。自分ながら胸が痛い。
「……俺は、お前の親友。俺達が遊んでた時に、事故に巻き込まれてこうなってる…ってわけ。」
「事故…………って、貴方は大丈夫なんですか?」
「俺達」。そう言っていたなら、彼だって…………
そう思い、疑問を口に出してしまう。
しまった、迷惑だったかな?
「それも全部、記憶が治ったら分かるよ」
彼は笑っている。本当に笑顔。
つまり、無事………そういうことになる。
でも、何でなんだろう。
気持ちが…とてつもなく落ち着かない。
「ところで、1つ質問してい?」
「……いい、ですよ」
「なんで泣いてんの?」
優しい顔だった。
自覚はしてた。「自分自身が泣いている」という自覚。
覚えているはずがない。記憶喪失なはずだったのに。
目の前で笑う████を見ていたら、涙が止まらなくなってしまった。
そんな優しい顔をした彼を見た時、少しだけ思い出した。
突然彼が「いつもありがとう」とか言い出したと思ったら、「今度一緒にまた遊び行こうぜ」とか言葉を並べ出して。だから、約束通り今日遊んで。
そしたら、突然建物に車が突っ込んできて、████が俺を庇って、車の下敷きになって。叫んで。泣いて。
_____そうだ。████は、死んだはず。
「思い出した?」
……さっきと同じ、優しい顔。
「マジで………有り得ねぇよ、馬鹿」
「感謝伝えられたから、俺はもうこれで満足なの」
「有り得ねぇから……そんなの……」
「受け入れろよ。それが、俺の1番の幸せだ」
「そんな簡単に受け入れるわけねぇだろ……」
「変なとこプライド高いお前も好きだぞ」
「死んだからってなんでも言っていいわけじゃねぇからな……」
██████は死んでいる。俺はまだ生きている。
そんな2人が話せる時間は、今この瞬間だけ。
「ありがと………最後まで、かっこよかったぞ…馬鹿」
「こちらこそ。………諦めず生きろよ、馬鹿」
お願いだから、1秒でもいいから。
時間が、ずっと止まっていてくれ。
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追記 : 2025/02/15「お題 : ありがとう」の2人のお話です
繋がってますので、良ければ読んでみてください
作者の「Shina#47」からでした
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