お題 : 手紙の行方
「……ほら。」
「…え、あの、居先輩……こ、これは」
「手紙!さっさと受け取って。ほら」
「は、はい」
「それじゃ、また明日。頑張って」
「あ、が、頑張ります!」
尊敬する先輩から手紙を貰うなんて、想像もしてなかった。
きっと1年生と3年生の間でしている交流だから、私にくれたのだろう。それでも見た目も可愛く実力もありモテる先輩から、手紙をくれるとは思ってなかった。
つい先日も、1年生のチャラいやつから言い寄られているのを見たし。まさか「手紙を渡す相手がいる」という「相手」が私だとは。
なんだか凄く嬉しい気分になり、手紙を抱えてルンルン気分で家に帰った。
【 後輩の粋へ 】
【 正直、交流とかめんどいよね。なんかうるさい1年が声掛けてくるし、他に仲良い1年もいないからあんたにしといた。 】
【 3年にビビりすぎていつも吃ってるのは鬱陶しいけど。粋のこと、部活では3年より頼りにしてるんだから、もっと自信出しなよ。 】
【 粋の歌、私は1番好き。 】
【 はい、これぐらいで満足でしょ?足りない時は聞いてきなよ。あんたはいいところ有り余るほどあるんだからね 】
【 自慢の先輩 月城居 】
心が熱くなって、燃える感覚がした。
先輩は本当に凄くて、尊敬している。だからこそ、先輩の言葉が凄く嬉しい。手紙とか書いたこと無かったけど、こんなにいいものだったんだ。
その手紙を丁寧に、元の状態に戻す。
きっと居先輩なら、「なくした」と呟いてしまうと、冗談でも怒られる。なら、しっかりと丁寧に保存しておこう。
この手紙の行方は、ずっと経っても分からない。
それでも、今は心からこの手紙を大切にしたい。
そう考えた私は、この手紙を心に仕舞い、明日も頑張ろうと自分を奮い立たせた。
お題 : 輝き
[輝き]がない人間は、いつまでたっても
[頂点]には昇れない。
周りに合わせて少しずつ折っているスカート。
鬱陶しくて切ってない黒髪。
何故かそれだけで、私は「真面目」と判断されるらしい。
自分が困るから常識内の勉強をして、平均点をとっているだけ。少しでも怠って、悪い点をとると「珍しい」と言われる。人に文句を言うことはできない。
そんな弱虫な人間でも、好きな人ぐらいはいる。
同じクラスの、少し不良っぽい男の子の夏(ナツ)。
私からしたら嫌いな人種。だけど、自分らしく生きているのが[輝き]を持っているなと羨んでいるのだ。
『おはよ、こは』
「え?あぁ……おはよう」
『今日テストだけど、自信あんの?』
「それなりには?」
『じゃ、補習ん時勉強教えて。それじゃ』
「結局こじつけじゃん!?………もう」
私のことをあだ名で読んでくれて、気軽に話しかけてくれる。それでいて、友達に恵まれている。
本当に自由。本当に、羨ましい。
それでも、彼の[輝き]に嫉妬して噂をする連中がいる。
「なぁ知ってる?夏って男が好きらしいぜ」
「え、それってゲイってこと?」
「うわ、でも有り得る。だっていつも男に抱き着いてるしなw」
「女の子に無駄に優しいのもそういうこと?うわぁ、なんか無理だわ」
『………』
「…………」
夏と同じクラスになって気付いたこと……それは、意外にメンタルが弱いこと。
たとえただの「噂」だとしても、結構気にしてる。
でも……「男が好き」。それが本当なら、女の私は恋愛対象にないのだろうか?
…………私も、夏みたいに自由に生きたい。
心の何処かでは、彼に嫉妬をしている。
髪色はあまり目立たない薄黄蘗。少し乱れ、汚れもある指定服。
テストの時間も集中せず、全てを投げ出して自室に籠る。
今日と明日のうちに全部やる。そう決めたから。
そんなこんなしてるうちに、あっという間に時間が過ぎて登校する日になっていた。
この2日間、[輝く]ための準備をした。
「おはよう琥珀……あら、相当なイメージチェンジね」
『何?似合ってないとでもいいたいの?』
「違うわ。すごく似合ってるわよ。いってらっしゃい」
美容室を明日に予約し、制服を投げ捨てて私服に着替える。
家にあるスカートは全部切った。
「え、あれって誰?」
「え?見た事ないけど……」
「ねぇ!あれどうやら琥珀らしいよ!」
「はぁ!?琥珀!?」
後日の美容室で男の子みたいに短く切ってもらい、藍白に染めてもらう。
『おはよ』
「えっ!?あ……お、おはよう…?」
『今日も、がんばろーね』
「は、はい…」
そしてお母さんからピアスをもらい、雫型のピアスを付ける。
そして今日、お兄ちゃんから学校指定の制服を借りて着ていく。
「あ、夏見ると思い出すわ。ゲイってこと」
「ちょっとやめなよw」
『…………』
『大丈夫?』
『……え?』
『忘れたの?俺、琥珀だって』
『こ、こは……!?……どしたの、なんかあった?』
『そういうの関係なくない?俺も俺らしく生きたかったんだって』
『こはがいいならそれでいいけど…』
『それじゃ夏!今日一緒に遊び行こ?俺夏のゲームスキル見たいな〜』
『こはもゲームとかすんのな……勉強してるイメージしかなかった』
『いやいや、勉強なんか面倒臭いし!もう今日から頭に通すだけにした!お願い、今日だけでいいから〜』
『分かった、分かったから!くっついてくんな…!』
_____そう。これが、俺の[輝き]なんだ。
お題 : 時間よ止まれ
目を開けると、真っ白な天井。
起き上がろうとしても、体が思うように動かない。
頑張って視点を左右に動かして、状況を把握する。
きっとここは病院だ。
にしても、俺はなんでこんなことに?
思い出そうとしたら、頭に激痛が走る。
頭痛だとか、言葉に表せるような痛みじゃない。激痛より激痛。
それなら、簡単なことなら。
1+1=2。いや、これは簡単すぎたか。
だったら俺の名前。俺の名前は_____
あれ?俺の名前って、なんだっけ。
……なるほど。これがいわゆる、記憶喪失。「ここはどこ?わたしはだれ?」っていうヤツ。
でも、俺の場合常識は頭にしっかり残っている。
さっきだって、ここが病院ってことが分かったし。
その瞬間、閉まっていたカーテンが開く音がした。
そこには、背が高い男の子が1人。俺の常識しかない記憶によると、ソイツは同じ学年の奴らしい。
「……え、起きてる…大丈夫か!?」
真冬なはずなのに、汗を流している。
彼は、俺の友達だったのか?
「えっと……本当にすいません、誰ですか?」
衝撃を与えてしまうのは申し訳ないが、こう聞かないとキリがあかない。自分ながら胸が痛い。
「……俺は、お前の親友。俺達が遊んでた時に、事故に巻き込まれてこうなってる…ってわけ。」
「事故…………って、貴方は大丈夫なんですか?」
「俺達」。そう言っていたなら、彼だって…………
そう思い、疑問を口に出してしまう。
しまった、迷惑だったかな?
「それも全部、記憶が治ったら分かるよ」
彼は笑っている。本当に笑顔。
つまり、無事………そういうことになる。
でも、何でなんだろう。
気持ちが…とてつもなく落ち着かない。
「ところで、1つ質問してい?」
「……いい、ですよ」
「なんで泣いてんの?」
優しい顔だった。
自覚はしてた。「自分自身が泣いている」という自覚。
覚えているはずがない。記憶喪失なはずだったのに。
目の前で笑う████を見ていたら、涙が止まらなくなってしまった。
そんな優しい顔をした彼を見た時、少しだけ思い出した。
突然彼が「いつもありがとう」とか言い出したと思ったら、「今度一緒にまた遊び行こうぜ」とか言葉を並べ出して。だから、約束通り今日遊んで。
そしたら、突然建物に車が突っ込んできて、████が俺を庇って、車の下敷きになって。叫んで。泣いて。
_____そうだ。████は、死んだはず。
「思い出した?」
……さっきと同じ、優しい顔。
「マジで………有り得ねぇよ、馬鹿」
「感謝伝えられたから、俺はもうこれで満足なの」
「有り得ねぇから……そんなの……」
「受け入れろよ。それが、俺の1番の幸せだ」
「そんな簡単に受け入れるわけねぇだろ……」
「変なとこプライド高いお前も好きだぞ」
「死んだからってなんでも言っていいわけじゃねぇからな……」
██████は死んでいる。俺はまだ生きている。
そんな2人が話せる時間は、今この瞬間だけ。
「ありがと………最後まで、かっこよかったぞ…馬鹿」
「こちらこそ。………諦めず生きろよ、馬鹿」
お願いだから、1秒でもいいから。
時間が、ずっと止まっていてくれ。
𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄
追記 : 2025/02/15「お題 : ありがとう」の2人のお話です
繋がってますので、良ければ読んでみてください
作者の「Shina#47」からでした
𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄
お題 : 君の声がする
『ほら!あさだよ!起きて』
優しい君の声がした。
目を開けると、光が顔全体に当たる。昨日の夜、カーテンを閉めるのを忘れていたらしい。おかげで目が覚めた。
重い体を動かす。
重い扉を開ける。
重い足取りで1歩を進む。
『おはよう。今日は珍しく早起きじゃん』
「今日は光が眩しかったんだって」
『曇りでもないし、日光なんか四六時中出てるよ』
「そういう問題じゃなくて。…とにかく、朝ご飯作るから」
少し軽くなった足取りで、キッチンへと向かう。
家にあるもので作れるもの、なにがあるっけ。
よく把握してなかった。目に入ったのはパン。よし、トーストにしよう。
パンを1枚袋から出して、オーブンで焼く。
__たとえ料理上手でも、ドジなんだから油断しないで
そういえば、そんなこと言われた記憶があった。
昔、パンを焼いてた時に寝落ちかけて丸焦げにした時だったはず。あの時は迷惑をかけた。
と言っても、彼もブーメランが刺さるぐらいドジ。俺よりドジ。天然。
無事今日はパンを焦がすことなく、1枚焼き上げた。
「ほら、できたよ」
『美味しそう!いただきます!!』
彼はいつも笑顔で食べる。たとえ、市販品でも。
いつも「美味しい」しか言わないから、その中には「美味しくない」ものまで混じってるんじゃないか…と思うぐらい。
「俺は今日胃もたれ酷いから、何も食べない。先ちょっと着替えてくる」
多分この後色々されるであろう質問に、先行して答える。昨日の記憶はない。でも、謎の胃もたれが本当に酷い。
また階段を上がり、重い扉を開ける。
__見て!絶対似合うよ!これ、いつか俺の前で着てね
そう言われて渡された、手作りのロリータ服。
「女装に少しだけ興味がある」と答えたら、なんと手作りしたという。これが天然の底力、って言う訳なのか?
彼の反応はまさに面白い。彼を驚かせるなら…着るなら、今か?
そう思い、やっとその服に手を伸ばす。
着方は「作った」と言われた時に教えてくれた。なんで知ってるのかは深く触れてない。
だから、着るのは想像してたより楽だった。
大方通り、全てのものを身に付け、大きな鏡の前に立ってみた。
そこにいるのは、まるで「俺」じゃないみたいだった。
女の子みたいと言うつもりじゃないけど。彼が作ったものを身に纏っている自分が、自分じゃないみたい。
酷く、痛い。辛い。彼が望んだはずの幸せが、今叶ってしまうなんて。
そこで全て思い出した。そっか、昨日は酒を飲みまくった。家の中のいらないものを、いらない部屋で壊しまくった。
見て!絶対似合うよ!これ、いつか「俺の前」で着てね
その言葉が頭の中で離れない。現実を受け入れられない。
彼は、彼は死んだんだ。あの日あの時、俺を庇って。
その瞬間、酷く吐き気がした。今頃二日酔いだろうか?はは、笑えない。遅延性か?うける。
『大丈夫?無理はしないでね。俺が心配になる』
うるさい。煩い。五月蝿い。
頭の中で彼の声が離れない。死ぬ前まで話していた彼の言葉が、頭の中で俺の呪いとなってずっと生きている。
ただ、君の声を聞くことで後悔しか生まれないんだ。
____この服を、君が死ぬ前に着ればよかった。
そういう、後悔が。
「やっぱり、俺の目に狂いはなかった。俺って天才じゃない?……冗談!似合ってるよ、████。」
………こんなこと言われた記憶、あったっけ。
視点を鏡に直す。そこには誰もいない、俺以外。当たり前、当たり前なはずなのに。
『今日は何処行くの?おれもついてく!』
また、死んだはずの彼が「現実」に響く。
「……今日は、ドライブでもしよっかな」
『絶対行く!!』
ドライブ、好きだったよね。懐かしい。
___頭の中で、彼が呪いとなってずっと生きている。
なら、死ぬまでずっと生きさせてやろうか。
明日も。1週間後も。1ヶ月後も。1年先も。死ぬまで、
『ほら!早く行くよ!!』
君の声がする。
お題 : ありがとう
最近学校の誰もが話している、「噂」がある。
なんとこの世の中で、「ありがとう」という言葉がお題になる「なんでも叶えてくれる店」があるらしい。
所詮ただの噂。僕は信じてない。
ただ、願いが叶うなら……とは考えてしまう。
願いが叶うなら、僕も女の子みたいなスカートを着てみたい。
所詮、ただの願いだ。願望。
でも、感謝の言葉は忘れてはいけないな。
「おい、何ボーッとしてんだ?いつも通りだけど」
「いつもありがとう」
「……は?急に何?」
「なんでもねぇよ、馬鹿」